第4話 めんどくさい男

「転生ねぇ」

 近藤裕志は眉間に皺を作りながら、呟く。

 俺は自らの身の上を話した。嫁と別れ、誰かに殺されたこと。転生したこの体が己のものではないが、一方で自分自身のものであると実感する矛盾を抱えていること。

隣に電子タバコを吸いながらスマホを操作する橘千恵美は忙しなく指を動かし、ときおり唸っている。

「目の焦点も合っているし、酔っている訳でもなし。本気で言っているのか」

「信じてくれるのか?」

「あんたが語った内容自体は信じてないが、あんたのこと自身は信じてもいいかなとは思っている」

「・・・・・・いい人だな」

「ははは! いい人? 俺が?」

 俺の言葉に吹き出した近藤裕志がにやりと笑って、橘千恵美を見た。

「俺は善人か、晶?」

「うんにゃ、悪人だね。純粋な悪」

 顔も見ず、スマホに視線を下ろす橘千恵美の言葉は淀みない。ただ言葉の節々にはどこか親しみを感じる気がする。

「金。女。酒。この商売はこれらが欠かさないし、俺にとっては商売道具だ」

 逞しい体をソファーに預け、胸ポケットから一本の紙タバコを取り出した近藤裕志は指でタバコをクルリと弄ぶ。

「あんたが転生とかしたとしても、あんたは昼の世界の人間に変わりない。こうして夜の世界に身を置く俺とは見ている世界が違う」

「そうなのか? 俺は少なくともそこに違いは感じないが」

「ほう? こりゃ珍しい意見だ」

「近藤さんが言うように、昼と夜の仕事では仕事内容は違うが、働き、食っていくためのお金を稼ぐ大変さは知っている。そこに偏見はない」

「・・・・・・あんた、変わってるな。めんどくさい人間だ」

「めんど・・・・・・すまない」

「落ち込む必要ないよ? まっさん、めんどくさい人好きだし」

「それは誤解を招く発言だ。まぁ、晶が言うように、嫌いではないがな」

 紙タバコに火をつけ、口から白煙を上らせた近藤裕志はちらりと俺を見る。

「ふぅ。あんた、この後どうするんだ?」

「・・・・・・正直、分からない」

 住んでいた場所も、名前も分からない。身元を保証する運転免許書もない。詰んでいるとさえ思う。

 ここが未来の世界というならば確認しなければいけないこともあるが、何より俺は無一文だ。このままでは路頭に迷うしかないだろう。

 そんな俺の思考を読んでか、近藤裕志は眉間に皺を寄せて、指の腹で揉む。ぶつぶつと独り言が聞こえ、橘千恵美が俺の肩をパンパンと叩いてくる。

「あんた、その転生前は何の仕事をしていたんだ?」

「俺は営業だ。法人営業だがら件数は少ないが」

「なるほど。それなら特別教育もいらないな」

「?」

 話の流れが見えずに首を傾げていると近藤裕志は言う。

「あんた、うちの黒服として働かないか?」

 まさかの提案に俺は言葉を失っていた。

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