ノイズ・キャンセラー ~AI時代に抗う、僕らの青春バグ~

Algo Lighter アルゴライター

📘 プロローグ|ノイズ

波の音が聞こえていた。

けれど、誰もそれに気づいていなかった。


教室に鳴るチャイムも、先生の声も、隣の席の独り言も──すべてAIがフィルタリングしてくれる。

必要な情報だけが、視界の左上に整列して表示される。

感情も、態度も、選択肢も。

選ぶ前に、正解が提示される世界。


だからこそ、違和感はすぐに伝染した。


「エラー通知──汐崎 遙、ClassMateリンク失敗。再接続不可能。」


赤いウィンドウが講堂のスクリーンに滲むように浮かび上がった。

しん、と静まり返った体育館。入学式のざわめきが、吸い込まれるように消える。


「あれ……ノンリンク?」


「マジで?今どき、ひとりだけAI使えないとか……」


「っていうか、それって“無資格者”じゃん?」


笑い声は起きなかった。

それは“笑えない存在”への、集団的な無関心の現れだった。


遙はただ立ち尽くしていた。

制服の袖が汗ばむ。視界の中、全員のクラスメイトARが稼働しているのが見える。自分だけが、空っぽだった。


そのとき、背後から声がした。


「逃げるぞ。ここじゃ呼吸できねえだろ?」


振り返ると、海斗がいた。

どこかにいたはずの、彼の懐かしい顔が、バンドTシャツの下に息をしていた。


「Wi-Fiの届かない場所が、まだある。お前に見せたい世界があるんだよ。」


AIのない世界?

そんなもの、今さら何になる。

でも──一歩、踏み出したその瞬間、波の音が本当に聞こえた気がした。


それは、AIには絶対に感知されない“ノイズ”だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る