第2話:遭遇

暫く白煙が濃霧のように包み込んでおり、真加部は一歩も動けなかった。

耳は落下してきた迫撃砲弾の爆発でキーンと鳴っており、そのせいで周囲の音が遮断されていた。


「・・・進?」


藤田の声だった。白煙越しに微かに彼の姿が見える。


「ここだ」

「俺達、生きてるのか?」

「どうかな」

「つまりここは死後の世界か?」

「・・・それも分からん」

「俺の腹はまだ痛むんだがな」


実際、藤田の声は苦しそうで、呼吸も荒い。

その時、横風が吹き付けて来て、煙を吹き払い始めた。


「・・・どうも生きてるらしい」

「おかしいな。不発だったのか?」

「いや、ちゃんと爆発した筈だが」


その時真加部は、自分達のいる場所がロケットランチャーによって穿たれたクレーターでは無い事に気付いた。

足元は石でゴロゴロしており、左右は切り立った崖に挟まれている。


「なんだここは」


周囲を見回して状況を確かめながら真加部は言った。「何もかもが、違う」


と、背後で女性の弾んだ呼吸と石ころを踏みしめる音に気付き、そちらにアサルトライフルを向けた。

藤田も横になったまま同じようにアサルトライフルを構える。


暫く息を詰めていると、突き出した崖の後ろから2人の女性が現れた。

1人は優雅で高貴そうな服を着ており、その女性に支えられているもう1人は、銀色の甲冑を身に纏い、右手の長剣を杖にしている。


息を弾ませているのはこの女剣士らしく、藤田と同じように腹を負傷しているらしい。

もっとも、銃創ではなく刃物による傷らしい。


「なんだ?あいつら」


真加部がそう言った直後に相手側もこちらに気付いて立ち止まった。

女剣士の方がもう1人を隠すように前に出ると、杖にしていた長剣をこちらに向けて何かを言った。


「・・・何語だ?」

「俺にも分からんな」


首を傾げる藤田に、真加部も首を振った。

女性剣士はまた喋った。さっきと同じ言葉らしい。


「・・・質問か?」

「語尾が上がっているところを見ると、そうらしい」

「で、何を聞いてる?」

「・・・うーん」


真加部はゆっくり銃を下ろすと、藤田の方に屈んで腹の銃創を指し示し、ジェスチャーで相方が負傷し、困っている事を伝えようとした。


女剣士はその様子を見ていたが、また何かを言った。


「何を言ってるのか皆目分からんのだ」


と、真加部は言っている事が分からないという仕草をした。

女剣士も首を傾げ、相方に何かを聞いたが、相方は困ったように首を振った。


言語の壁が4人の間を遮っていた。


その時、女剣士が呻いて膝をつき、相方が心配そうに女剣士の方に屈みこんだ。


「ネリル!」


と、最初に発した事から、女剣士の名前ではないかと思われた。


そこで真加部は、


「ネリル!」


と呼ぶと、女剣士が顔を上げた。

真加部は女剣士を指差しながら、


「ネリル?」


と尋ねると、女剣士は傷の痛みに顔を歪めながら何度か頷いた。


そこで真加部は自分を指差しながら、


「マカベ」


と言った。

ネリルの相方が、


「マカベ?」


と聞き返して来たので、真加部は頷いた。

続いて藤田を指差して


「フジタ」


と紹介すると、ネリルの相方は自分を指差して


「アレーラ」


と言った。

それが彼女の名前らしい。


「進、あのネリルって子の傷を診てやれ」

「あ?」

「応急処置したら安心するだろ」

「お前も早く病院で処置しないと」

「俺はまだ、大丈夫だ」

「汗が凄いぞ」

「いいから行け!」


藤田に押し出された真加部は、両手を広げながらネリルとアレーラにゆっくりと近付いて行った。


「大丈夫だ、何もしない。ただ、傷を見せてくれないか?応急処置が出来るかもしれない」


そうゆっくりと、柔らかい口調で語り掛けながら、真加部は2人に近付いて行った。


「ところで、2人はコスプレをしているのかい?」



続く





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