第64話 積み上げたものをぶっ壊すのって勇気がいるよね
俺は思わず眉をひそめる。
オーバーブレイクは限界に到達した。もう増えない。なら、ここで告げられたこの《???》ってのは何だ? スキル名すら伏せられて、ただ「可能性」としか書かれていない。
前回の記憶が脳裏をよぎる。
《ブレイクブースト》を手に入れたとき。あの時も同じだった。
――マックス100で打ち止め。だが、その先に新しい「進化」が解放された。
なら、今回も……。
《オーバーブレイク》を限界まで積み重ねたことで、次のステップが解禁された。そう考えるのが自然だ。
けど――肝心の条件をシステムは明かしてくれない。
どうしてだ? ただ「可能性」だけ見せて、解放の方法は伏せられている。まるで、俺に考えろと言わんばかりだ。
「今は少しでも時間が惜しいって時に…」
イラつきが喉元まで込み上げる。
けど、冷静に整理しろ。これまでもそうだったろう。
オーバーブレイクはソロ討伐の報酬として積み上げられていった。
じゃあ、その上の段階に進むための条件は――?
……思い出せ。
いつだって新しい扉は「特別な達成」のあとに開かれてきた。
「……たぶん」
俺は小さく息を吐き、心の中で結論を言葉にする。
「ダンジョンボスのソロ攻略ボーナス……それしかねぇ」
そう考えると、妙に腑に落ちた。
システムがわざわざ隠す理由も分かる。プレイヤー自身に気付かせ、挑ませるためだ。
……まるで試されているみたいだな。
目の前の道が、はっきりと見えた気がする。
――ダンジョンボスをソロで倒す。その先に、新しい力が待っている。
「いいだろう。やってやるよ」
――ダンジョンボスのソロ攻略。
確信してしまえば、もう迷う余地なんてなかった。
「……そうと決まれば、急ぐぞ」
口に出した瞬間、胸の奥に溜まっていたもやが晴れた気がした。
ここまで積み上げてきた《オーバーブレイク》は、すでに上限。全身が火花を散らすみたいに研ぎ澄まされてる。チーフ種の群れですら一瞬で片付けられる今、あのレベルのダンジョンボスなんざ、正直敵じゃねぇ。瞬殺できる。
足が自然と速まる。
石造りの通路を踏みしめるたび、鼓動が熱を帯びていく。
耳の奥で、自分の心臓の音がやけに大きく響いていた。
考えてみりゃ、俺はずっとそうだった。
限界を超えるたびに、新しいスキルを手に入れてきた。
そして今度は……《オーバーブレイク》の先に待つもの。
「《???》……その正体、確かめてやる」
思わず、口元が吊り上がる。
焦げた空気を吸い込みながら、俺は剣を肩に担ぎ直した。
視界の先――分厚い扉が立ちはだかっている。
あの奥に、このダンジョンの主がいる。
突破するべき最後の壁。……いや、壁なんて言葉は生ぬるいな。ただの踏み台だ。
肩を回し、深く息を吐いた。
指先が自然と震えているのは、恐怖じゃない。期待だ。
何が待っていようと、俺のやることはひとつ。
「行くぞ。ぶっ倒して……次の力を、この手で掴む!」
俺はそのまま、勢いよく扉を押し開けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――重い扉が、きしむ音を響かせながら開いていく。
中から吹きつけてきたのは、焦げた鉄と硫黄が混じったような熱気。
視界の奥、闇を裂くように赤熱した巨影が姿を現した。
四肢は鎧のような鱗で覆われ、背には熔岩を思わせる赤黒い光が脈動している。
このダンジョンの支配者、《熔獄竜ガルダ》――。
かつてなら、その存在感に立ち尽くしただろう。だが今の俺には、ただの“目標地点”に過ぎなかった。
「……遅ぇんだよ」
咆哮が放たれるよりも早く、俺は地を蹴った。
床石が砕け散り、残像すら引きずる速度で巨体へと踏み込む。
竜の爪が振り下ろされる瞬間には、もう刃を閃かせていた。
――一閃。
赤熱した鱗を易々と断ち割り、首筋を抜ける感触。
続けざま、踏み込み直して逆袈裟に振り抜いた瞬間、巨体が悲鳴を上げる間もなく裂けた。
爆音のように肉が裂け、鮮血と灼熱の蒸気が吹き荒れる。
だが俺は立ち止まらない。剣を翻し、疾風のごとく全身を駆け抜ける。
「――終わりだッ!!」
斬撃が閃光のように走り抜けた。
次の瞬間、ガルダの巨体は崩れ落ち、火山の溶岩に沈むように動かなくなる。
……一呼吸。
俺は剣を払って血煙を散らすと、静かに息を吐いた。
「……やっぱり瞬殺か」
戦闘と呼ぶにも物足りない。
だが、欲しかったのは勝利そのものじゃない。
その先にある――新たな力だ。
視界に、待ち望んだ光が流れ込む。
【ソロ討伐ボーナス:《???》が解放されました】
【新スキルを獲得しました】
《ブレイクエンド》
効果:所持している《オーバーブレイク》を全て消費し、一時的に「神域級」を超えるステータスを得る。
「……っ、マジかよ……!」
視界に浮かんだ文字を読み上げた瞬間、背筋が粟立った。
神域級――その言葉の意味は、嫌でも分かる。
リミットブレイクですら“規格外”だったのに、それを超える力……。
「ん?…ちょ、ちょっと待て……。オーバーブレイクを全て消費…だって?」
今まで必死に積み上げてきたスキルが、文字通り全部なくなるのか。
思わずオーバーブレイクの数を指折り確認する。
100/100……満杯。
この“全力の蓄積”を、一度に消し飛ばす代償――。
心臓がバクバクと高鳴る。
危険さも、リスクも、わかっている。
それでも心の奥で、笑みが零れた。
その“極限の強さ”があれば――ミネルを取り戻す道だって、世界を救う未来だって切り拓ける。
「……いいじゃねぇか。あいつを倒せるなら、喜んで使ってやる……!」
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