第3話 そもそもな話
「マルカス君、だったね。君は向上心がある人なんだっていうのが伝わってくる。ただ、冒険者というのは、本来自由なものだろう」
嵩希の言葉に同じテーブルに座る冒険者たちはうんうんと頷き、会話を耳にしていた冒険者ギルドの職員は……苦笑いを浮かべながらも、同意している者が複数人。
「朝から吞んでも良し、昼から呑んでも良し。勿論、一仕事終えてから吞んでも良し。その後、二日酔いになるのは自己責任だけど、ちゃんと金を払ってるんだ。特に問題はないだろう」
少々荒っぽく見えるかもしれないが、嵩希と呑んでいる者たちは全員ツケなどを利用することはなく、収入も安定している。
「だが、そういった行動が冒険者たちの評判を下げるのに繋がっているのかと思わないのか!!!」
「あぁ~~~、そこか…………ん~~~、けどなぁ……別に、冒険者は騎士とは違うだろう。個人的には犯罪行為などをしなければ、あまりにも清廉潔白を騎士に求めるのも如何なものかって個人的には思ってるからな」
「なっ!!!!!」
「おっと、一旦ストップ。そこの議論に関してはまた後でにしよう。今話してるのは、冒険者が昼間から酒を呑むことに関してだからね」
飄々と自分のペースで話す嵩希を見て、共に呑んでいる冒険者たちは全員同じことを思った。
あっ、絶対にマルカスの奴は勝てない、と。
実力の話は一旦置いておき、彼らもそれなりに冒険者人生を積んでいることもあり、鑑定などのスキル……では解らない部分が解るようになる。
ついでにマルカスの性格もある程度解っているからこそ、絶対に口論や議論で嵩希に勝てるイメージが湧かない。
ただ……議論を始めてしまったのはマルカス。
彼らの酒の肴になったとしても、それは自己責任である。
「冒険者は、自由を一番にする職業だろう。建前的な部分はあるかもしれないけど、俺はなんだかんだ、その通りだと思う。そして……ん~~~、これに関しては一部の冒険者たちを下げる言い方になってしまうけど、騎士……だけじゃなくて、兵士にも最低限の礼儀や礼節が求められるだろう。それが出来ない、覚えても合わないと感じる……けど、戦って稼ぎたいって思う人が冒険者として活動してるんじゃないかな」
「なっはっは!!!! いやぁ~~、その通りだぜコウキ!!!」
「解るなぁ~~~~。普段クールな態度を取ってても、戦う時になれば凄く荒々しくなる人もいるしね~~~」
決してマルカスの事がクソ気に入らないから、嵩希の事を援護したい……という訳ではない。ただ、彼らも酔いが回り始めてるため、自然と自分たちと同じ考えを持ってるであろう、嵩希の味方をしたくなる。
「冒険者は荒々しくて、乱暴者で酒飲みなイメージがある……それはもう、払拭できないほど根付いてる。だから、そこを気にするだけ無駄だっていう話だと俺は思う」
「っ、それで迷惑をこうむっている者がいたとしてもかい」
「冒険者として活動するなら、そこも覚悟してやる必要があるんじゃないかな。あっ、一つ言っておくけど、俺はそういうイメージだから別に乱暴行為を働いても良いとか、クソみたいな迷惑ナンパをしても良いとは思ってないよ」
マルカスの中でも、越えてはならないラインというのは存在している。
「そういうのはまた別。ただ、俺たちはしっかり稼いで、自分のお金で休日の好きなタイミングで酒を呑んでる……本当にそれだけだ。何も悪い事はしてないし、迷惑も掛けてない。冒険者ギルドは併設してる酒場の方で利益が入るしね」
「っ…………そんな自堕落な生活を送っていて、絶対に後悔しないと言えるのか」
「俺は、寧ろ後悔しないと思うよ。だって、俺たち冒険者という職業に就いてる人たちは、いつ死ぬか解らない仕事場で働いてる訳だからね」
嵩希の言葉に、これまで主に怒りで染まっていたマルカス顔に、それ以外の感情が浮かび上がる。
「酒があまり飲めないって人もいるだろうから、全員がとは言わないけど、少なくとも俺たちにとっては昼間から……まだ多くの人がせっせと働いてる中で酒を吞むっていうのは、幸せを感じる一時だ」
再度、呑んでいる冒険者たちはうんうんと頷く。
「どこかで死ぬかもしれないんだ。だったら、それまでの人生の中で少しでも幸せだった感じる時間が多い方が良いだろ……人間、どれだけ鍛錬と実戦を積み重ねたとしても、強くなれる上限は決まってるんだからさ」
自分の正確なステータスが知られれば「煽ってんのかてめええええ!!!!!」と思われるのは百も承知。
だが、嵩希が告げた言葉は、間違いない事実である。
「そういう訳だから、俺たちがこうして昼間からエールを吞んでるのに苛立つのは、苛立つだけ無駄だと思うよ」
「…………くっ!!!! その考え、後悔しないことだ」
どれだけ考えるも、上手く反論する言葉が思い浮かばず、負け惜しみの様な言葉を告げて訓練場へと向かったマルカス。
残った嵩希たち酒飲みズは……負け惜しみの言葉を吐いて去っていったマルカスの背を見て、笑う者はいなかった。
「いやぁ~~~、やっぱ若いって良いね~~~」
「だよな~~。あんだけ真っ直ぐ強くなろうって、有名になってやろうぜって思えるのは、若い奴の特権だよな~~~」
「ですね~~~~~」
「だろ~~~…………って待て待て、コウキ。お前はまだマルカスと同じぐらい若いだろ」
酔い初めて忘れそうになっていたものの、酒飲みズはコウキがマルカスとあまり年齢が変わらないことを思い出し、忘れずにツッコんだ。
「歳は多分そうだと思いますけど、彼ほど熱くなれる何かは……ないですからね」
嵩希は……ただ山に登った時や、現在の様な時……体を動かし、達成感のある時に飲む一杯の美味さ……主にそれを求めており、それがマルカスの心の内にあるような熱い思いや目標と同じだとは、到底思っていなかった。
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