赤髪の三國志 ~ツンデレ美焔様が天下統一目指すけど、別にアンタのためじゃないんだからねっ!~

太空杏晴

第1部

第1話「別に天下なんて興味ないけど、この私がなんとかしてあげなくもないわ!」~美焔様、上から目線で初陣!の巻~

「世はまさに!花の乙女たちが綺羅星のごとく輝き…なーんて甘っちょろい時代はとっくに終わってんのよ!そう、時は後漢末期!そこらじゅうで黄色い頭巾の変な奴らが騒ぎ立て、都じゃデブ女…じゃなくて、董卓夜とかいう太守がふんぞり返ってるっていう、まー、サイアクな時代!民は泣き、英雄はまだ現れず…って、誰か何とかしなさいよ、もう!」


そんなカオスな時代の片隅、陳留(ちんりゅう)とかいう、まあまあの田舎町。そこの太守のお屋敷で、一人の美少女がぷりぷり怒っていた。燃えるような赤髪をツインテールにし、大きな瞳は不機嫌そうに吊り上がっている。彼女こそ、この物語の主人公(別に本人はそんなこと望んでないけど)、曹美焔(そう びえん)様、御年十六歳!


「もーっ!退屈!退屈!退屈ーーーっ!」

美焔は自室の豪華な椅子を蹴飛ばさんばかりの勢いで立ち上がった。

「毎日毎日、お茶だの習い事だの、うんざりよ!外じゃ黄巾党とかいう鬱陶しい連中が好き放題やってるっていうのに、なんでこの私がこんなところで大人しくしてなきゃいけないわけ!?」


そこへ、のほほんとした雰囲気の父親、曹嵩(そう すう)太守が顔を出す。

「おやおや、美焔や。またご機嫌斜めかのう?」

「パパ!あのね、私決めたわ!あの黄巾党とかいうのを、この私が叩きのめしてくる!」

嵩は目を丸くした。「な、なんじゃと!?美焔や、そ、それは危険じゃ!お前はまだ若い女子(おなご)じゃぞ!」

美焔は腰に手を当て、ふんと鼻を鳴らした。

「ふん、パパは私の実力を知らないのね!あんな雑魚、この私にかかれば一ひねりよ!…べ、別にパパが心配だからとか、民のためとかじゃないんだからね!私がただ、イライラするだけなんだから!あの黄色いのが目障りなのよ!」

その瞳には、退屈しのぎ以上の、何かギラギラしたものが宿っていた。


かくして、美焔様の黄巾党討伐(という名のストレス発散ツアー)が決定した。もちろん、パパの制止なんて聞く耳持たない。

出陣準備(というほど大げさなものでもないが)には、二人の従姉妹が付き添う。


一人は、片目をスタイリッシュな眼帯で覆い、スラリとした長身に剣を携えた夏侯惇子(かこう とんこ)。頼れる姉御肌だが、美焔の天邪鬼っぷりには毎度頭を抱えている。

「美焔様、またそのような無茶を…。少しは太守様のお言葉も…」

「惇子、アンタは心配性すぎるのよ!私の邪魔だけはしないでよね!」


もう一人は、短い髪を元気いっぱいに跳ねさせ、背中に大きな弓を背負った夏侯淵美(かこう えんび)。底抜けに明るいムードメーカーで、美焔のツンデレを一番面白がっている。

「よっ!美焔姉様、今日もツンデレ絶好調だねー!黄巾党の奴らも、姉様のツンデレ攻撃にはタジタジ間違いなしだよ!」

「淵美!アンタは茶化してないで、さっさと準備しなさい!…別に、アンタたちの力をアテにしてるわけじゃないんだからね!私が一人で十分なんだから!」

美焔は顔をぷいとそむけたが、口元はほんの少しだけ緩んでいた。…かもしれない。


手勢はほんの数十人。でも、美焔にとってはそれで十分だった。

「いい?アンタたち、私の言うことだけ聞いてればいいのよ!余計なことしたら…分かってるわよね?」

兵士たちは「は、ははーっ!」と緊張気味に返事をする。この赤髪のお嬢様が、一体どれほどのものか、まだ誰も知らないのだ。


そして、ついにその時が来た。町の外れで、噂の黄色い頭巾集団…黄巾党の小部隊とエンカウント!

敵のリーダーらしき、ちょび髭を生やした小悪党風のおじさんが、にやにやしながら言った。

「ひゃっはー!こいつは上玉だぜ!こんな可愛いお嬢ちゃんが、俺様たちの相手をしてくれるのかい?」

美焔は柳眉を逆立てた。

「…誰に向かって口利いてるのかしら、この三下風情が。アンタみたいなのが一番ムカつくのよ!」

言うが早いか、美焔は腰の剣を抜き放ち、馬を駆った。その動きは、深窓の令嬢とは思えぬほど鋭く、美しい。

「右翼!何ぼさっとしてるのよ、もっと前に出なさい、トロい!…別にアンタたちがやられたら私が困るとか、そんなんじゃないんだからね!ただ、見ててイライラするだけよ!」

ツンデレな指示が飛ぶが、なぜか的確。兵士たちは戸惑いながらも、その迫力に押されて動く。

「左翼は回り込みなさい!遅い!遅いったら遅いのよ!…ったく、私が手本を見せてあげないとダメなの!?」

美焔自身も剣を振るい、敵兵を次々と薙ぎ払う。その剣筋は、まるで舞うようで、しかし一撃一撃が重い。

ちょび髭リーダーは目を白黒させた。「な、なんだこの赤髪のじゃじゃ馬娘は!?聞いてねえぞ、こんなのがいるなんて!」


戦いはあっという間に終わった。黄巾党は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

美焔は剣についた土埃を払い、ふう、と小さく息をついた。

「ふん、こんなものね。思ったより歯ごたえなかったわ」

惇子が駆け寄る。「美焔様、お見事でした。お怪我は?」

「当たり前でしょ?この私が怪我なんてするわけないじゃない。…それより、アンタたちこそ、足手まといにならなくて良かったわね」

淵美が笑う。「いやー、美焔姉様のツンデレ檄、効いたねー!」

「う、うるさいわね、淵美!調子に乗らないでよ!」


夕日が、戦いの終わった大地を赤く染めていた。

美焔は、その赤い光を浴びながら、ポツリと呟いた。

「…この乱世、私がなんとかしてあげなくもないわね…まあ、気が向いたら、だけど」

その横顔は、いつものツンケンした表情とは少し違い、どこか遠くを見つめているようだった。

そして、ハッとしたように付け加える。

「べ、別に民のためとか、国のためとかじゃないんだからねっ!私がただ、目障りな奴らを排除したいだけなんだから!そこんとこ、絶対に誤解しないでよねっ!」


ナレーション「こうして、赤髪のツンデレ姫、曹美焔様の波乱万丈にして、ちょっぴり(いや、かなり?)面倒くさい天下統一への道が、今、幕を開けたのであった!…たぶん、大丈夫か、この主人公!?」

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