挿話 遊園地



 岩見沢という街がある。

 両親のいないフユナが祖父母と暮らしていた美唄から、車で30分ほどの距離である。


 降雪量が多いことで有名な街であり、時に災害レベルとなって自衛隊が出動するほどにもなるが、フユナは幼いころから、その街が好きで好きで仕方なかった。


 何を隠そう、そこには大きな遊園地があるからだ。


 その遊園地に初めて行ったのは、小学2年生の時。

 市のレクリエーションで親子で参加するものだった。


 親のいなかったフユナは、祖父母を必死になって誘ったが、足腰が悪かった祖父、ちょうど大腸がんで手術をしたばかりの祖母ではとても同行できなかった。


結局、ボランティア付き添い枠で、フユナひとりで参加となった。


 バスの中は二人席に一人で座り、ワクワクする気持ちを共有できる相手もないまま、無言の往路となった。


 そのせいで幼いフユナはすっかり車酔いしてしまっていたが、遊園地に降り立つと、そんな不快さもどこかへ消えてしまった。


 メリーゴーランドやゴーカート、ジェットコースター。

 楽しそうな乗り物がたくさんあふれていた。


フユナの目は、かつてないほどに輝いていた。


 多くの子どもたちが様々な遊具に飛び込んでいく中で、フユナはまっすぐに観覧車に向かって駆けた。


 大人ばかりの長蛇の列にもかかわらず、フユナはじっと我慢して一人で列に並び続けた。


 炎天下の中、待つこと30分。


 だが、並んだ一番前に来ても、乗せてもらえない。

 

子供一人では観覧車に乗ることはできないからだった。

 大人たちはそんなことは誰も教えてくれなかった。


 そんなフユナを哀れに思ったのか、係員が放送を流してくれて、レクリエーション付き添いのボランティアが来て同乗してくれることになった。


 が、ボランティアもそんなにたくさん同行していたわけではなかった。

 人気のゴーカートにボランティアを取られており、フユナはさらにそこから1時間以上待たねばならなかった。


――あっちの乗り物なら、すぐ乗れるよ?


――あそこならボランティアの人がいるから、すぐ遊べるよ?


 他の乗り物を進められても、フユナは頑としてきかなかった。

 どうしても観覧車に乗りたかった。


 幼心には、観覧車の一番上は、雲の上にあるような高さだった。

 雲の上を歩くような場所から、地上を見てみたかった。


ただただ、その想いで並び続けた。


 しかし、やっとフユナの元にやってきたボランティアは疲れ切っていた上に高所恐怖症だったため、搭乗は大人の事情でうやむやにされた。


 そのまま時間となり、観覧車はもちろん、遊具でいっさい遊ぶことができずにフユナは家に帰ってきた。


――どうだった?

――楽しかったかい?


祖父母が笑顔で迎える。


 そんな祖父母の前で、その時初めて、フユナはお父さんとお母さんが欲しいと泣いた。


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