第14話 昼下がりのスタバ




 それから3日が過ぎた。

 僕は相変わらずカメラマンの仕事がなく、日雇いで炎天下の交通整理とかをして暮らしていた。


 今日も、石山通と言われる札幌の要の道路の工事に朝早くから来ている。

 ヘルメットを被り、旗を振って交通整理をする、アレだ。


 阿波おどりを組み合わせて交通整理をしていると、運転手さんが爆笑しながら通り過ぎていくので、結構おもしろい。

 そのうち、暇な車が何度も見ようとUターンして来るらしく、ありえないほど渋滞して、なんのための交通整理かわからなくなった。


「おい、そこで旗を振っている人」


「はい?」


 そんなふうにさわやかに汗を流していると、白いワンピースを着た、麦わら帽子の女性に歩道から声をかけられた。


「さっきから見ていたが……お前、サクヤだな?」


「そうですけど……」


 向き合うと、ワンピースから伸びる白い、きれいな素脚がとにかく眩しすぎる。


 こんな美人に話しかけられる覚えはないんだが。

 あれ、でもこの話し方……?


「探していたのだ」


 女の人が麦わら帽子をとって、ふわり、とブロンドの髪を風になびかせた。


 あぁ、と気付いた。

 フユナさんだ。


「あ、どうも」


「仕事中申し訳ないが、どこかで話せないだろうか」


 ヒラヒラした裾が風になびいて、太ももが半ばまで露出すると、フユナさんがめんどくさそうに手で押さえた。


「2時から1時間休憩があります」


 あと30分少々で休憩の時間だ。


「わかった。そこのスタバで待っている」


「結構お待たせしちゃうかもですけど、いいですか」


 交代の人がちゃんと来なければ、時間通りに休憩がもらえないこともある。


「いい。暇だから」


 それじゃあ、とフユナさんは帽子を被り直し、ヒールを鳴らして去っていく。


「……おい、誰だ? 今の」


「美女過ぎね?」


「あんなキレイな女が、なんでお前みたいなガキを探すんだ」


 フユナさんが立ち去るなり、同僚たちがせっついてくるが、適当にごまかし、旗を振り続ける。


 この間のことかな?

 1円も使ってないし、別にいいのに。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「いらっしゃいませ~こちらで伺います」


 コーヒーの香りが満ちるスタバに入るだけで、休憩になるな。


「ご注文は」


「水で」


「はい?」


「あ、いえ。マンゴーフラペチーノの一番小さいやつで」


「はい♡ ではできたてをご用意しますね!」


 いや、フラペチーノはできたてじゃないと困るんだが。


 待っている間、店内を見渡す。


 友人と談笑するご婦人たち、ノートパソコンを広げて仕事をするスーツ姿の人、リラックスしながら本を読んでいるご高齢の方。

 フユナさんは窓際の円形のテーブル席に座っていて、僕を見つけ、胸元で小さく手を振ってくれている。


 薄汚れた作業着のままが気が引けたけど、周りの方々も全然気にしていないのがありがたかった。


 フラペチーノを受け取り、フユナさんの席に向かう。

 窓際は外の通りを行き交う人々や青空が見えて、穏やかな午後のひとときを感じるなぁ。


「すみません、遅くなりました」


「構わない。座ってくれ」


 向かい合って座ると、フユナさんが口にしている心地よいコーヒーの香りが、こちらまで漂ってきた。


 フユナさんはリザーブコーヒーという、風味に満ちたコーヒーを飲んでいた。

 黒エプロンのバリスタさんしかつくれないやつだ。


「お礼を言いたくて探していたのだ」


「お礼? もしかして、この間の会計のやつですか」


 フユナさんが微笑を浮かべながら頷く。


「そうだ。なのにすぐいなくなって……随分探したのだぞ」


 フユナさんは弟を叱る姉のような顔をして言った。

 どうやらこの3日、実家に帰らずにあたりを探していたという。


「いや、お礼をされるほどのことでは」


 時間を稼いだだけで、しつこいけど一円たりとも使ってないし。


「あのタリスマンはどうしても欲しくてな。君のお陰で手に入れることができたといっていい」


「それはなによりでした」


「心から感謝している」


 フユナさんが頭を下げた。

 ブロンドの髪が肩から流れ落ち、その間で白い胸の谷間がちらりと覗かせ、僕は目を他に向ける。


「いえいえ。気にしないで大丈夫です」


「ところで、君のことをもう少し聞かせてほしい。カメラマンだったな」


「あ、はい」


 僕はとたんに真顔になる。

 撮りたいと思ってた人が、目の前にいるわけだからね。



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