命の続きは、そちらの扉から。

山川 狐雨

序章

カギモリ

 腰につけた鍵束を、細い指で探る。そっと触れたのは、他のカギよりも一回り小さなカギだ。


――わたしを使って


 カギは訴えている。


 カギはみんないい子だ。自分の使われるべきときを知っているし、そのときがくると教えてくれる。


 小さなカギを優しく撫で、大きな鍵束からそっとはずす。

 目の前の空間に挿す。


 最初からそこにあったように、扉が現れ、すっと開く。

 空気が流れ込む。

 こことは違う世界の空気に、カギたちは揺れる。


 扉から漏れるように、カラダがふわりと流れ出る。


 その扉の向かい側に、もう一度同じカギを挿す。

 今度は重く軋みながら、扉は開く。


「こちらへ」


 小さなカラダは、すみやかに扉の間を移動する。


「……ママ」


 かすかに声を発する。

 聞こえないふりをして、カギモリはカラダがやってきた扉を閉じる。

 カラダがふたつめの扉に吸い込まれるのを確認し、そちらの扉も閉じる。

 

 ふたつの扉を開けたカギは、ふっと空気に交じるように消えた。


 カギモリは名残惜しむように瞳を閉じたが、カギたちの催促を感じてすぐに目を開いた。


「そうだね、いこう」


 カギモリは歩き出した。

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