ep03. 帰るべき家
人には誰しも、帰るべき家といもうものがある。
そこには家族が、待っているのかも知れないし、俺と同じく、おひとり様なのかも知れない。どんな形であれ、たとえ段ボール製であれ、帰るべき家はきっと誰にでもある。
家族が居る場所こそが、帰るべき家なのかも知れない。
俺には、失われたしまったように思えるそれは、今でも何処かで俺の帰りを待っているのかも知れない。
王女を自称するこの幼女にとって、帰るべき家とは何処にあるのだろう。
王女殿下は週一回以上のペースで我が家にやって来る。
猫なら、そろそろこの家に居座る頃だが。ここはウサギ小屋だし、殿下は猫ではなく悪魔か何かなので、居座るつもりはないらしい。
何かを持って来たのは、初回のラノベとマンガ以来。今日は、ベースを担いでやって来た。怪人ベース幼女だ。敵かな? ライダー1号である俺の家に乗り込んで来たぞ。
ベースの方が、本人よりも大きくない?
そんなはずはないか。だって、自称146センチなのだから。
もしかして、146でも盛ってる?
いや、座っているからそう見えるだけか。こいつ脚長いなあ。
スタイルまでフェラーリヅラだ。幼女だけど。
いっぱしのロックンローラー気取りだ。かつての俺を見ているよう。
あの頃の俺のように、言葉に出来ない何かを、訴えたいのだろうか。
ならば、いっぱしの家族気取りの俺が、聴き届けてやりたいのだが。
「ちょっと? 何でアンプが無いの? あなたバンドやってたんでしょ?」
お前が、勝手にフリマで売ったからだよ。
どのみち、うちでアンプに繋いでベースの音出しをするのは無理だ。
日本の賃貸住宅は、となりの目覚まし時計で朝起きるくらいだ。
「残高がもう無いじゃないの。もう使っちゃったの? どれだけ飲んだのよ。ほどほどにしなさい」
俺のスマホを使ってフリマでアンプを買おうとして、小言まで言い出した。
お前は、俺の妻か? それとも主治医なの? そういえば健康診断に何年も行っていないな。
フリマの残高ならもう出金処理したよ。俺が長年使ったマーシャルの売上代金。あぁ、あいついい人の元に行ったかなあ?
大量の本がマーシャルの跡地に積まれている。俺のじゃない、王女殿下のラノベやマンガだ。
「ねえ、俺達もう結婚しちゃったの? 確か、14歳と結婚するのは我が国の法律では違法だったと思うんだけど。ついでに言うと女の子同士だからね?」
俺は必死で抗議した。近衛騎士にだって人権はある。あるよね? しかし、そんな抵抗もむなしく。
こいつ何を言っているのかしら?
そんな目で見られている。
フェラーリヅラの女の子は、表情だけで感情を巧みに表現するね。しかも、罵倒と来たもんだ。なのに、可愛いから許しちゃうという罪深さ。
何が、そんなに引っかかった? 俺が、35歳児なのに、女の子だって言った事? 俺は永遠の女の子なのだ、今でもライダー1号は無理でも、4号ならなれるんじゃないかなって思っている。
あ、そういえば。俺はもう36歳だった。だんだんと自分の年齢を数えるのが困難になってくるな。
「私は王女なのよ。しかも、第一位王位継承権を持っているの。法律のひとつやふたつ、いくらでもねじ曲げてみせるわよ」
王女設定に強権と独裁が追加されてしまった。
親にラノベ捨てられて泣いてたはずなんだが。ラノベの置き場所に困って家出する14歳女児に一体何の権限があると言うのか。
こいつほんと分かってない、そんな感じで溜息ついてますけど。
「ところでギターは何処なのよ? パンツしか無いじゃないの、この部屋。パンツハウスなの? あ、キノコの栽培してるのね? ウサギ小屋じゃなかったの? 」
パンツを放置していると、本当にキノコが生えるらしい。
レジェンド漫画家が若かりし頃に、友人に食べさせたとか。その友人もレジェンド漫画家なんだけど。死因パンツキノコで伝説が失われるところだったね。
大量の本だけじゃなく、CDやDVDもほぼすべて処分した。リモートワークになってからは、スーツの類も処分。テレビも地デジ化のタイミングで処分した。最近、思い切って冷蔵庫も処分した。捨ててしまえば、失った何かが代償として返ってくるわけでもないのにね。
残ったのは、パソコンとスマホくらいだ。オーディオもない。どうせ音量を上げられないのだから。スマホとノイズキャンセリングイヤホンの組み合わせで音楽を聴いている。隣家の騒音もキャンセルしてくれて実にいい。インターホンの音もキャンセルされるけど、どうせ宅配しか来ないし、それも置き配が定着してからは対応しなくていい。
でも、やはり、空間を振るわせてこそのロックだ。イヤホンでは物足りない。世界を、ぶち壊せない。俺を異世界へと送ってくれる駄女神様も召喚出来ない。
時々、カーシェアリングで車を借りて、音量大きめで聴く。若い頃みたいに、何のあてもなく深夜にドライブをする事なんてなくなったけどね。
俺は、ミニマリストとかいう部族ではない。断捨離ってなにそれ? 握り寿司のシャリだけ捨てんの? 重罪だよ、その場で逮捕から裁判まで省略して斬り捨てるよ。
それだけ処分してもギターの置き場所はクローゼットくらいしか無いって事。7本しか無いんだけどね。欲しいギターは、沢山ある。いや、きりがない。ストラトキャスターさえあれば十分だろう、とは思うんだけどね? でも、シングルコイル3つのオーソドックスなストラトキャスターを、何故か持ってないんだよなあ。俺は、そういう性格なんだよ。
「つらつらと己の人生を振り返っているようだけど。ギターだけは処分出来なかったのね。あなたの湿気った魂と同じく」
勝手にクローゼットを開けている。あと、湿気っていようが魂を捨てたら死んじゃうんだよ? 知らないの?
「アンプも無いし、宝の持ち腐れね? お宝なギターは一本も無いようだけど」
だから、そのアンプはー、もういいや。
「そうね。今日は、私のベースの腕前を披露してあげようと思ったけど。新居を探しに行きましょう」
「しんきょ? なにそれ?」
「結婚するんでしょう? ウサギ小屋だけじゃ困るわよ?」
もうその結婚ネタよくない? だって俺もお前も、ちんちん無いじゃん。
結婚に、ちんちんは必須なのかって? あれば尚良い? なくても可? 実装は努力義務でしたかね? そういう問題じゃないな。人と人は、RFC規定のようにはいかぬ。
「ちんちんの事を考えている顔ね」
「どんな顔なの? ちんちん連呼していいのは幼稚園児と新妻だけでしょ?」
「価値観が昭和ねえ。あなた平成生まれではないの?」
「ジェネレーション差別でーす」
「うるさい」
ああ、ダメだ。今ぞくっと来た。俺は怪人ブタ女だった。ぶひぃ。
違うよ? 怒りだよ? 別の感情じゃないよ?
「ほら、このシールドをべースに差し込め。アンプシュミレーターならあるんだ。ベースの腕前をお聞かせ下さい、殿下」
「差し込め? 平日の昼間っからなに」
14歳女児は、何かを言いかけてやめた。
さては、お前さんドスケベイさんだね? 奇遇だな? 私もそうだったよ。
もう一度14歳に戻れるなら、ギターの練習だけをしたい人生だった。
王女殿下は、ベースを弾き始めた。
なるほど。
「うるさい」
さっき言われたフレーズを言い返してやった。
「なんでよ? 幼少の頃からバイオリンとピアノを、王室お抱えの楽師から個人レッスンを受けた王女って設定で、超絶技巧を披露したじゃないの」
設定って言っちゃってるじゃん。
「あのなぁ、ベースはリズムの要なんだ。超絶技巧を披露する前に、リズムをだなあ」
「うるさい」
また言われた。
でも、そうだね。音楽とは蘊蓄をつらつらと語ったり、こうであるべきだ、などと決めつけてやるもんじゃない。特にロックはそう。世界を轟音で破壊し、俺をあらゆる理から自由にする魔法、それがロックンロール。縛りは、パワーコードとマイナーペンタトニックスケールだけでいい。いや、それさえあればロックなのが、ロックのいいところだ。単純でいい。っていうこれが既に蘊蓄っていうね。
「はあ、あなたのバンドが継続しないのって、うるさいのが原因ね、きっと」
「そうだね」
お前もな。とは思ったけど、それは言わない。不毛だから。ブーメランの応酬になるから。
「他の遊びを考えましょう」
「お風呂入る?」
「平日の昼間から? ふーん? いいわね、それ。どこ行くの?」
「そうさのう」
明日は休みにしたんだ、先週末に夜間作業したから、その代わりでね、などと昨夜うっかりとチャットを送ったせいで、早朝から王女殿下の突撃を受けている俺。王女直属の近衛騎士という設定なので、逆らえないのだ。のだが?
「なんで平日の昼間から14歳女児が外をうろついてんの? 殿下は学校行かないの? グレちゃったの? 腐ったミカンなの?」
別に腐ったミカンでも、腐女子でもいいけどさ。俺の罪の度合いがね? そう思って確認のため聞いたのだけど。
はあ? お前は何を言っているんだ?
って顔をされた。
すごいな、フェラーリヅラ。俺は、人の心を読む異能でも目覚めたのか? と思うくらい。意図的に表情に感情を出しているのだろうけど。
俺は、意図しなくても、うっかり出ちゃって問題になる。リモート会議っていいよね。カメラはオフにして、マイクもミュートしていれば、顔をしかめようが、舌打ちしようが、一切バレない。素晴らしい! でも、そろそろリモートワーク出来なくなりそうなんだよなあ。
あと、顔を隠してても、バレてんだよなあ、実は。社会人失格です。
「そろそろ、あなたにも、この世の事実を教える必要があるわね」
「すごい上から来たな? 今日は創立記念日で休み? あ、昨日文化祭があって今日は、振替休日なの? お前、学校のイベントなんか参加しないだろ」
「そんなローカルなスケールではないわ。もっと大きなスケールの話よ。国家よ。あなたは、この国の事実を知らな過ぎる」
何を言っているのだ? 俺は川崎に住んでもう15年だぞ? この国の事実を知らないなんて事あるか? 沢山あるだろうなあ。
「いいこと? 私は数えで15歳なの。もう成人しているのよ。学校はもうすぐ卒業なの。登校するのは週一回だけだし、それも任意なの」
え? 成人年齢は最近引き下げられたけど18歳だろ? 更に下がったの? 義務教育を修了したらもう成人なの? 個人的には、それでもいいとは思う。高校から先って、ただのモラトリアムだもんな。完全に偏見だけど。大学生なんて、うぇいうぇい言ってるだけだし。
ただ、数えって何? いつから、その制度に戻ったの?
「そんなに俺と結婚したいの? 成人年齢をねじ曲げてまで」
「結婚はもういいわよ。してもいいけど。残念ながら、女性と結婚すると王位継承権が無くなるのよ。それはもう諦めてちょうだい」
ダメだと言われると、したくなるなあ。いや、しないけど。
結婚の話を自分から持ち出しておいて、何を言っているのか?
さっきまでウサギ小屋がどうとか言ってたじゃん。
「結婚を餌にすれば、あなたがやる気を出すかと思ったのだけど。ちっとも効果が無いからシナリオを変更するわ。新居なんて自分で作ればいいのだし。だから、お風呂へ行きましょう」
「お風呂に入れば、俺がやる気を出すとでも?」
「違うの? いずれにせよ、のんびりして落ち着きましょう」
いろいろと気になる事を言っているけど、そうだな、お風呂へ行こう。
今日は散歩もかねて歩いて行こうじゃないか。
「歩いて行けるところにスーパーなお風呂があったのね?」
「最近出来たんだよ。ちょっと高いから、まだ行った事ないんだ」
「何処なの? どれくらい歩くのかしら?」
俺は、スマホのマップで検索して、ルートを確認する。
「うーん、1時間弱だな。高低差が99メートルだから、マップの予測よりも時間かかるかな? 殿下は体力無さそうだし、俺はリモートワークでなまってるし」
「それ、散歩じゃなくて遠足じゃないの? お弁当持って行く?」
「お弁当作ってる間に日が暮れるよ」
弁当箱も水筒も無いし。食材も無い。だって冷蔵庫無いし。マンションの1階がコンビニだから、そこで買えば済むけどね? コンビニ弁当買うくらいなら、お風呂で食事した方が良くない? スーパーなお風呂だから、お食事処も併設されているよ。
「なんで、そうまでして歩いて行きたがるの?」
「車で行くと、ビールが飲めないだろ?」
サウナに入った後とか、特にそうだけど。生ビールをアピールする張り紙なんかを見る度に、どうにかならんものか、とずっと思っていたのだ。車で行くと、どうあがいても飲めないからね。
「ダメよ。休日くらいは、お酒やめなさい。昨夜も飲んでなかった?」
「俺の心臓には毛が生えてて、血管には甲類焼酎が流れているんだ。そんな事言われても無理だ。せめて、ウイスキーにした方がいいかな?」
お高いウイスキーなら、味と風味に満足して大量には飲まないかも知れない。あるだけ飲んじゃう気もするけど。いや、きっと飲む。俺は、そういう性格なんだ。
「やめなさいと言っているの。将来、子供を産む気ないの?」
「えー、だってもう36だし、体に負担かかるし、産まれてくる子供にも良くないよ」
「あなた、ハーフドワーフでしょ。まだ全然問題ないわよ」
え? 近衛騎士はハーフドワーフだったの? 設定が増えたな。でも、ドワーフって騎士じゃなくて、職人が適職なのでは?
「俺、器用じゃないし、小さくもないぞ。ドワーフなはずがない」
「システムエンジニアなんてやっているでしょ? それもドワーフの適職よ。お酒も大好きじゃないの。小さくないのは、ハーフだからね。残り半分は、ドラゴンか何かじゃないの?」
「完全に人の規格外じゃん。そういう殿下はハーフエルフなの? ならば小さいのも納得だな。耳が長く無いのはハーフだからか」
「王家にエルフやドワーフの血は入ってないわよ。それより早く行きましょう。カーシェアなら予約したわよ」
だから、それは俺のスマホ。まあ、いいか。こいつは自称王女の、実質俺の秘書なのだ。やったね! 憧れの秘書だよ! 人生は感じ方次第で楽しくやれるんだ。
俺達は、歩いて2分の駐車場まで車をとりに行き、目的地は決めずに走り出した。
「なあ、王家には何の血が入ってるんだ? エルフやドワーフじゃなけりゃ、ユニコーンか? フェニックスとかペガサス?」
「馬や鳥と、どうやって交尾するのよ? あなたなら出来るの?」
馬なら出来ちゃうらしいぞ? 1億円貰っても、やらないけど。世の中には、そんな危険なアルバイトもあるとかないとか。
「そんな事よりなあ、俺は来月からどうすればいいのか悩んでいるんだ」
「どうしたの? 派遣契約の更新が無かったとか? 年度末だものね」
「年度末は契約が終わり易いんだよなあ。俺の場合は、それだけが原因じゃないけど」
言いなりで働く派遣は他にいくらでもいるのだ。細かい事でうるさい派遣は、そりゃ切るだろうよ。俺が責任者でもそうする。労働人口が減少しているからか、前ほど揉める事は起きないけど。それでも、そりゃ無いだろ? って事がある。我慢すればいいんだろうけどな。
俺は、そこそこハイクラスのエンジニアなのだ。派遣先には困らないし、むしろ今なら派遣先を切り替えた方が時給だって上がる。コンビニやファミレスのバイトだって、時給が5割は上がっているのだ。派遣の時給もかなり上がっている。5割も上がるなら、それもいいね。コンビニのバイトと比べると5倍くらいあるんだよ。派遣は弱者だと思われがちだけど、そんな事は無い。同年齢の正規雇用よりも年収は多いかも知れない。
「バンドと同じで、派遣も長く続かなそうね? 芯からダメ人間なのね」
「最短記録は3ヶ月だな。いや? 2ヶ月ってのがあったか」
「必ずしも3ヶ月契約というわけでもないのね? 他は、どうだったの?」
「んー、1年が多いかな? 年度末か年末に次期の予算を確保する時点で終わる感じ。今の派遣先は2年超えたから、3年間いけるかとも思ったんだけどなあ」
「また何かやらかしたのね?」
14歳女児に何を相談しているのか? と思わないでもない。
でも、自分は成人なのだと言うのだし、俺も愚痴ってすっきりしたいだけだし。
深夜にひとりきり、泥酔して泣きながらアニメ観てるよりは、ずっと健全だろ。
「何かって程じゃない。派遣法違反を指摘しただけだ」
「自分に否がない部分だけを言っている気がするけど。違法だっていえば、客観的にはあなたが正義だものね」
するどいなあ。その通りだよ。さすがは王位継承権1位だね。
「始発で行って、終電で帰る。そんな現地作業を強制されたんだ。逆らうに決まってるだろ」
「なにそれ? 前世でどんな大罪を犯すと、派遣に身を落とす事になるの?」
「派遣は奴隷じゃないからな? そういう時代もあったけど」
どうしても手が足りないから、1週間だけ手伝って、とかならまだ分かる。
契約書に無い業務で、指揮命令者が他社だって事にも、目を瞑ったさ。
でもなあ、会社の危機に定時に帰りたいとか派遣のくせに生意気だな、とまで言われてまで、違法状態を見逃してやる義理はない。会社の危機を救いたいなら、まず正社員で何とかしろ。片道2時間もかけて毎日通って、穴を掘ってすぐまた埋めるみたいな作業を10時間以上やってられるか。刑務作業だって、もっとクリエイティブだろ? 知らんけど。
「そんな仕事する必要ないわよ。刑務所に収監された方が、ずっとマシじゃないの。派遣なんでしょ? 気に入らないなら他に行けばいいじゃないの」
まったくもって、その通り。
生涯をかけて忠誠を誓うようなものは、この世界には存在しない。
ならば、派遣で気ままに渡り歩いていればいいじゃないか。
俺も、ずっと派遣だったわけでもない。中途採用で正規雇用になった事もある。でも、そこは地獄だった。雇用が保障されるということは、逃げ場も無いって事だった。
だから、俺は望んで派遣をやっている。契約更新がなかったからと言って嘆いている場合じゃない。逃げる権利を行使するなら、追い出される覚悟も必要だ。でも、それは合理であって、感情は違うからね。不安にはなる。
「次は、どんな派遣先があるの?」
「同じ会社の別の部署とか、似たような別の会社とか、病院のシステム管理ってのもあるな。業務内容は、どこもだいたい同じはず。違うのは、そこにどんな人達が居るのかって事だが、こればかりは求人情報からは読み取れない。まあ、綺麗事ばかり書いてあると、だいたい邪悪ってパターンはあるけどな? 行ってみないと分からない」
「でも、それが一番重要なのよね、きっと。病院というのが、ちょっとおもしろそうね?」
「俺も、そんな気はするんだが。リモート無しで、東京の西の外れに毎日通わなきゃならないんだよなあ」
「悩ましいところね。いつもどうやって決めているの?」
「実際のところ選択権は無いんだ。複数の面談を受けて、来てもいいよって言ってくれた中から選ぶ事はあるけど、決定権は派遣元と派遣先にあるから」
「派遣元はともかく、派遣先が選ぶのは違法なんでしょ?」
「面談を受ける時点で違法だよ。派遣法を守る気がないなら3年間の上限も撤廃して欲しいよ」
同じ組織への派遣は、連続して3年間が上限だ。余計な法律を追加してくれたもんだよ。
企業側だけじゃなく、働く側も派遣が良いってのが居るのにな。正規雇用に何のメリットがあると言うのだ? 最近は派遣でも住宅ローンが組めるって言うしな。
違法である面談を平然とやっているように、3年間の上限を小細工で延期するケースも多いんだけどね。俺は、そこまで継続した事が無いけど。気に入ったところなら長く続けたいのだ。そうそう無いけど、そんな派遣先。
殿下は、ふーん? と言ったきり黙り込んで、何かを考えているようだ。
俺は、運転しているから助手席の彼女の表情までは見えないけど、そういう気配が伝わってくる。何を企んでいるのだろうか。
「他に収入は無いの? 投資はしているようだし、ブログや小説も書いているようだけど。動画や楽曲の配信は相変わらず手つかずのようね? 貯蓄は少しくらいあるの? まさか借金は無いわよね?」
こいつ、どれだけ俺のスマホの中身を漁ってるんだ? 個人的な活動がバレバレじゃないか? 俺の自由はどこへ行った? 近衛騎士にだってプライバシーはあるだろ。
「小説の事まで知ってんのかよ? だったら何でPVがゼロのままなの? 知ってるなら読んでくれてもよくない?」
知り合いに読まれるのは嫌だけど。良く知っている奴なら別だ。むしろ、読んで感想を言って欲しい。すごく罵倒されそうだけど。それはそれで、ぶひぃ。
「だって、あなたのアカウントで読んでいるから。作者が読んでもカウンター上がらないでしょ?」
スマホどころかアカウントが乗っ取られてる!? 王女といえども、そこまでの権限は無いよ。え? もしかしてあるの?
「それ犯罪だよ? ねえ、王女ってそんなに権限あるの? 不正アクセス禁止法違反は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金だよ?」
「なんでそんな事ばかりスラスラと出てくるのよ? 家臣が何しているか監視、いや見守るのが上に立つ者の努めでしょ? あなたの場合、違法行為の心配はしてないけど。今も、道路交通法をきっちり守って運転しているものね」
「じゃあ、何を心配してんの? 脱法的な行為? 14歳女児と一緒にお風呂に入るのは脱法行為ですかね?」
「14歳女児をたぶらかすのは条例違反よ。私は数えで15だから適用外だけど。私が、気にしているのは、あなたの要領の悪さよ」
「じゃあ、殿下に手を出すのは、合法ロリロリ?」
「王女に対する不敬罪で打首ね。裁判も必要ないわ。私の証言、いえ気分次第で有罪よ。というか気にするのはそこではないわよ?」
なんか、すげえ変顔しながら言ってる、これってどういう意味のサインだったっけ?
直視したら死ぬから見ないぞ。今俺は、車の運転中なのだ。平日の昼間で交通量は少ないから単独事故で済むかも知れないけど。全力で回避するぞ。うっかり生き残ったら、警察が現場検証に来て、ロリロリ法違反で別件逮捕間違いない。
「何かアドバイスがあるなら、聞くぞ?」
「なんで上からなのよ? あなた、そろそろ本業に戻りなさいよ」
「本業って何? ロックスター? 文豪? 投資だけで寝て暮らすのは理想だけど、本業ではないなあ」
「何言ってるの? 脳だけ異世界に行っているの? あなたの本業はね」
彼女は、そこで一旦言葉を飲んだ。これ、言っていいのかしら? そんな気配を感じる。もしくは、どう言うべきかを迷っている?
しかし、意を決したのか、ぐっと真剣な顔に切り替えて言う。見えてないけど、そういう気配ね。美少女はそういうオーラを発する異能があるのだ。
「騎士よ」
それこそ異世界じゃん。
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