File 20 読点の向こう側
三月、卒業式の前日。
新聞部の部室では、逢人と琴音が最後の原稿を確認していた。
【特集】ことばと、わたしたちの一年
──読解ファイルの記録より
学園新聞の卒業号。その中にふたりが1年間かけて集めてきた“読解の記録”をまとめた連載が掲載される。
全20話の完結。けれど、どうしても逢人は、最後の“締め”に悩んでいた。
「……どうやって“終わる”べきなんだろうな、この文章」
琴音が笑う。
「読点で終わったら、怒られるよ?」
逢人もつられて笑った。
それでも彼が悩んだのは、“終わり”の持つ力だった。
句点ひとつで、物語は静かになる。
三点リーダーで終われば、余韻が残る。
疑問符で終えれば、問いかけが読者の中に生き続ける。
「どれも間違いじゃない。けど、どれも違う“気持ち”になる」
「読者の中で、物語が止まるか、歩き出すか。それが、“最後の一文字”で決まるのよね」
ふたりは、過去に取り上げたファイルを読み返した。
File 01「はじまりの読点」
そこでは、《コトノハ》が初めて言った言葉が、文末に「、」で終わっていた。
「読点、とは。“まだ続く”という約束です、」
あの瞬間から、彼らの物語は始まったのだった。
そして今、ふたりはその“続いてきた言葉”をどう終えるべきかを考えていた。
「《コトノハ》。あなたなら、この文章、どう締める?」
しばらくの静寂のあと、AIの声が静かに答える。
「言葉に終わりはありません。
文を閉じることはできますが、意味は読み手の中で続いていきます。
だから、“あなたのための最後の一文”を、あなたが選んでください」
琴音は、ふと目を閉じた。
「じゃあ、こういうのはどう?」
ここまで読んでくれて、ありがとう。
ことばはつづく。あなたのなかで、まだ、ずっと。
逢人は、ゆっくりと頷いた。
「句点じゃない。“まだ続く”って、信じてるんだな」
卒業式当日。
配られた新聞を手に、生徒たちが思い思いのページをめくる。
そこには、逢人と琴音、そして《コトノハ》と共に辿ってきた、20の読解ファイルが載っていた。
誰かが笑い、誰かが黙り込み、誰かはそのページを静かに閉じた。
でも、心の中では──まだ読み続けている。
教室の黒板に、誰かがチョークで小さく書いた言葉。
「読み終えたあとも、読む人が残っていれば、それは終わりじゃない」
逢人と琴音は、最後にそっと“読点”を書き加えた。
、
[読解のひとこと:by《コトノハ》]
句点は、文の終わりです。
でも、“意味”はあなたの中で、いつまでも生き続けます。
読むとは、考えること。
考えるとは、誰かを想うこと。
その先に、また新しい“ことば”が生まれます。
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