第46話 感情は揺さぶられる


「「「「「「「「

     お誕生日、おめでとうございます

                」」」」」」」」


 僕は今日、14歳の誕生日を迎えた。


 廊下を歩けば必ずメイドさん達がこの挨拶をしてくれる。


 前世の年齢を考えたら30はとっくの昔に過ぎている。それに今更だが子供ぶるような真似は最近全くしていない。


 まあ、だって全員抱いたしどうていいやって…………


 こほん、そんなめでたい日だが一つ憂鬱な事がある。


 誕生日プレゼント、大体の家庭なら覚えがある単語だろう。


 普通なら一個、可愛らしく欲しいものが手に入るようなイベントとも捉えられる。


 だが、それはあくまで普通の話だ。


 ケイ家は大富豪である。嫌味にしか聞こえないがそこらの家庭とは資金力が違いすぎる。


 よくドラマやアニメ、漫画で描かれる金持ちの子供に与えられるプレゼントは非常に多い。僕もその例に漏れず滅茶苦茶多い。


 最初の頃、だいたい5歳くらいの時に誕生日プレゼントとして熊のぬいぐるみを与えられな事がある。


 肉体に精神が引っ張られていたのか普通に嬉しかった、それが効いたのかは分からないがきっかけはそれのはずだ。


 そこから自制が効かなくなったのかと思うくらい急に大量にぬいぐるみやおもちゃ(子供用)を与えられるようになった。


 先に釘を刺しておくけど(子供用)は本当に子供用だからね。普通に遊ぶタイプのおもちゃだからね。


 もうね、せめて一回は遊ぼうとしても床の踏み場が無くなりそうなくらいの量でどうしようか泣きそうになった。


 多すぎるのが泣くほど嬉しいと誤解されたのか、実際嫌ではなかったが、プレゼントの選択というのを放棄して全部載せてくるのを毎年してくるようになった。


 どれだけお金かかってるんだろうね、考えたくないので思考放棄で受け入れていた。


 そして今年もやってきた。それだけの話。


 最近は館のメイドさん達も入れ替わりで新しい人がどんどん増えていっているし、僕の子がどんどん増えていくのが言わなくても伝わってくる。


 まあ、当然のことだから僕がとやかく言う必要はない。


 産ませて増やせて地に満ちて、誰の言葉だったか。


 いつかは数百、数千と自分と血だけが繋がった子が増えるだろう。


 ちょっとナイーブな気持ちになりながら僕は家族が待つ朝食の場へ向かう。


「おはよう、みんな」


「おはよう、そして誕生日おめでとうスウェン」


「おめでとうですわ」


「おめでとさん」


「おめでとっ」


「みんな、ありがとう」


 何故か足が高い椅子に座り、黙々と朝食をとり始める。


 意外なことに、我が家の朝ご飯はとても静かだ。


 金持ちだからこそ優雅にご飯を食べるという習慣を幼いころから教えられる。


 僕は前世という事前知識があったからやんわりと教えてるくらいで済んだ。


 姉さん達は滅茶苦茶厳しかったと聞く。それはもう、メイドさんや姉さん達からほのめかせていた。


 どれだけ厳しかったのか、僕には想像が付かない。


 何故なら僕へのしつけは滅茶苦茶甘やかされたからだ。


 最終的に襲うつもりではあったんだろうけど、やっぱり子供時代の男の子は可愛かったんだろうね。


 その頃からボディータッチが多かったのも覚えてる。そして僕を触りすぎると姉さん達が母さんに鉄拳制裁を受けていたな。


 子供ながらドン引きしていた記憶はある。どうしろってんだよあれは、仲裁に入れないほど互いに気迫があって殴り合いしてたもん。


 それでも母さんが絶対に勝ってたけど。


「スウェン、今年の誕生日プレゼントなんだけど」


 ほらきた、やっぱり誕生日の朝食の時はこの話になる。


 僕が明確に欲しいものを言わないから、喜びそうなおもちゃやゲームを片っ端から買ってきてはくれるって感じなんだよね。


 今年は何個プレゼントが届くんだろう。


「今年は趣向を変えてみたの。あれを」


 母さんがメイドさんに何か用意させている。


 なんだろう、一枚の紙きれ?いや、写真?


 そこには妊娠して最近顔を出さなくなったメイドさん、その腕には可愛らしい赤子が写っていた。


「産まれたのよ」


「うま、れた」


「まずは4人、1ヶ月前よ」


「…………え、なんでもっと早く教えてくれなかったの?」


「発売前のゲームの最後の調整で忙しかったでしょう?それに、ちょうどだったの」


 かちゃり、と食堂の扉が開く。


 上品に歩き、腕に大事な『者』を抱えている。


 その瞳は興味深そうに見ていた。興味なさそうに視線が泳いでいた。


「検診が終わって外に出られるようになったのよ」


 それは赤子だった。


 いつ産まれるかは知らなかったが、そろそろとは思っていた。


「お坊ちゃま、貴方の子ですよ」


 ゆっくりと、僕の前に近づくメイドさん。


 眠そうだった目がゆっくり開いて僕を見る。


 純粋無垢な瞳が向けられる。


 この子が、僕の子?前世では彼女すらいなくて結婚を諦め仕事を趣味にしてきた僕に?


「………………………………うあ」


「坊ちゃま!?」


「スウェン!?」


 やばい、涙が出てきた。


 なんか色々な感情が溢れてきて止まらない。


 こんな経験は初めてだ。産まれた時とお漏らしした時以外に泣くのは初めてだ。


 だからみんな慌ててる。滅多に泣かない僕が泣いてるのだから。


「な、何か気に触ることでも?」


「坊ちゃま、タオルを!」


「大丈夫、大丈夫だから…………ちょっと気持ちが追いついてないだけ」


 ああ、もう、腕の中の赤ちゃんも泣きそうになってるよ。


 なるほど、これが僕への誕生日プレゼントって訳か。


「嬉しい…………ありがとうみんな、ありがとう」


 口にできたのはこれくらいだけだった。


 涙声でぐずった風にしか言えず、ボキャブラリーだって死んでいる。


 感情が未だに追いついていない証拠だ。


 ただ嬉しかったのに泣いてしまうのはどうしてなのだろうか?


 ぐすぐすと鼻をすする僕は気づけなかった。


 こんな情けない僕を見たみんなの何かが変わったか。

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