第43話 何がほのぼのだよ


「うあああああああああああああ」


「お母様!スウェンが壊れましたわ!」


「母乳飲ませるからこっちによこしなさい」


「嫌ですわ。私の母乳を飲ませますわ」


「二人とも何言ってるの?」


「急に落ち着きましたわこの子」


 僕は適当に発狂するフリをしていつものように遊んでいた。


 もうみんな僕のやることに慣れてるので意味がわからないやりとりをしている。


 まだ出ないだろというツッコミ、すると後が面倒なのでしません。


「もう、どうしたの?そんなにイライラしちゃって」


「お母様と違って更年期でもないですのに」


「何で家族間で煽り合うの?」


「ウェイル、後でこっち来なさい」


 隙を見せたら煽りあって僕を取り合うのはどうなのか。


 僕は1人しかいないし割と都合のいい男というのは自覚してる。


 そして拳で語り合うのが女みたいな風潮が我が家で流行っているので止めることもできない。


 だって、僕非力だもん。


 いくら鍛えようとしても筋肉はつかないし、もうすぐ14歳だけど身長も140cm程度だ。


 おかしい、『先生』に運動を見てもらってるのにどうして?


 え?1日1時間程度の運動で力をつけようとしてる気になるなって?まあ、僕って基本引きこもりに近いから…………


「すー、はー、それで何か悩みでもありますの?」


「ウェイル、私にも吸わせなさい」


「『クリスタルロボ』のシナリオ書き込んで基礎の動作はほとんど終わったんだけど、物足りなさすぎて辛い」


「あれでも十分と思いますわよ?」


「あとはだいたい声を当てるだけって聞いてるわ。むしろ短期間で仕上げてるのが気になるくらいだけど…………こっそり起きてたりしないわよね?」


「そんな事ないよ!」


 だって夜9時くらいまで起きてたらメイドさんか母さん、もしくは姉さん達がやってきて強制的に寝ることになるもん!


 起きる時間が毎回朝10時くらいになるから必死だもん!


「パソコンだけじゃ不健康ですもの。もっと健全な遊びをしましょう?」


「健全な遊びぃ?家族とまぐわってる時点で今更じゃない?」


「やだ、スウェンがグレましたわ!」


「グレる程度で恋愛ゲームを作らないわ」


「どういう事???」


 なんだか貶されたような気がしたけど、ウェイル姉さんが何かおかしいと思ってる僕を一旦膝の上からソファーに置いて、メイドさんが事前に用意してあった何かを出す。


「昔懐かしのボードゲームですわ。たまたま寄った店にいい双六があったので買ってみましたの」


「…………値札ついてるけど、これは?」


「まあまあ、値段は些細な事ですわ」


 おそらく新品ではあるんだろうけど、長い間置いていたみたいで古そうな雰囲気がある双六ゲームを持ち込んできた。


 値札にはいち、にい、さん、しい、ごお、ろく…………


 プレミア価格で買った?めっちゃ高いやつを?


 どんなボードゲームなんだ?これくらい値段がつくならめっちゃ気になる。


 宝石とかついてるのか?成金趣味なやつが作ったのか?


 マジで聞いたことがないぞ、双六ボードゲームでこんな値段するやつは。


 それを些細な事って言うウェイル姉さんも大概だけど、興味がそそられるのは当然だろう。


「最近は新しいやつの設定を詰め込もうとして根を詰めてるように見えましたので、これで気分転換いたしません?」


 気分転換、確かに前作から空いた時間がどうなったのかというメインストーリーに関わらない設定を練っていたけど、なかなかいい感じにならなかった。


 ケイ・ゲームズの方々を納得させるために納得いくようにしないといけないのだから、ぶっこむには難しくて悩んでる。


 だから最初に発狂してストレス発散してたし、確かに気分転換は今の僕に必要なのかもしれない。


「どんなのかな?どんなのかな?」


「やってみてのお楽しみですわ」


「私も参加していいかしら?」


「こういうのは大人数でやった方が楽しいですもの。ロウルとルゥはいませんが、家族三人でやりましょう」


 こういう時はメイドさんは参加しないのか、と思うが一応職務中なので何か言伝がある時のために待機している。


 実際は一緒に遊びたいんじゃないかと思っていました。


 こうして、僕たちは家族三人で双六を始めるのであった。









〜●〜●〜●〜●〜









「謀ったな!謀ったなお姉ちゃん!」


「おーっほっほっ!内容を見ないのが悪いのですわ~!」


 この双六はただの双六ではなかった。


 何故なら今の僕は短パンバニーボーイになっていた。


 そう、これはコスプレ双六、確実にそういった・・・・・目的で作られた双六だったのだ!


 何でメイドさん達が静かなのかと思ってたらこういうことか!最初から双六だけじゃなくてコスプレ衣装込みだから値段が普通のと比較するとバカ高くて僕を着替えさせるために待機していたんだ!


 最初からきわどい短パンを僕に着せたいがために!うさ耳をみたいがために!


「いい眺めね。流石は私の娘、きわどくセクシーなものを買うセンスがあるわ」


「お母様はキッッッッッッッッッッツいですわ」


「後で覚えておきなさい」


 何故か無双しているウェイル姉さんはいつもと変わらず私服だが、母さんは幼稚園児の服を着させられていた。


 え、なに?アレ本当は僕にも着せる予定だったの?


 明らかにサイズが母さんに合わせられてるけど…………え?成人女性用にもある?なんで?同じ園の幼稚園児プレイをしたいからという理由で作られた?正気か?


「くっ、僕のターン!さいころを振るよ!」


 コロコロとさいころが壺の中で転がる。


 出た数字通りに駒を進めるが…………


「『今着ている衣装に「逆」を付ける』!?どういうこと!?」


「さあお坊ちゃま、こちらへ」


「何を!?どう変えるの!?むしろお母さんだった逆幼稚園児服ってなるけどどういうこと!?」


「おばあちゃんの格好になりますわ。説明書にそう書かれてありますの」


「狙った?もしかして私に当たっても面白くなるように狙った?」


 何のコントか分からないが、普通に面白いので良しとします。


「お坊ちゃま、こちらへ」


「早く、早く」


「もっと坊ちゃまのいい姿を見せてください」


「待って、来ないで、手つきが怖い」


 久しぶりの恐怖、今まで自分から恐怖に陥れる側だったが、何故か今日は僕が陥れられる側になっている。


 そうだ、何もかも自分から攻めていて後手に回ることは無かった。


 だが、今回は完全に後手に回ってしまって手が付けられなくなっている。


 にじり寄ってくるメイドさん達、壁に追い詰められる僕。


 それをにこやかに眺めている幼稚園児服の母さんと私服のウェイル姉さん。


 流石に数には勝てず僕は…………








〜●〜●〜●〜●〜







「…………勝っちゃった」


 隠された下の剣を出すというマスに止まり、全員仕留めて終わった。


 やはり性欲、性欲が全てを解決するのかもしれない。


 全員を倒した僕は、その場で仁王立ちしてしばらく勝利の余韻に浸るのだった。

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