第9話 僕は入部する
突如、窓から侵入した恐山響子は巨乳の前で腕を組んでいる。
僕のほうを見るとあのにちゃりとした笑顔を見せる。
どうやら僕は恐山響子から逃げられないようだ。
もうこれは受け入れるべきかもしれない。
恐山響子の顔は怖いが実害はあったかと訊かれたらないのである。むしろ密着してきてむふふっな気分に良くさせてくれる。
「よろしくね」
恐山響子はこの部室にいる全員の顔を見る。
僕はよろしくと返事する。
僕の返事にだけ恐山響子はにちゃりとした笑顔を向ける。なんだか特別感があるな。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
最初こそ目を丸くしていた丹下桜子であったが、入部希望者と知ると態度を一変させた。
ぴょんぴょんと飛び跳ねそうだ。
この丹下桜子という少女は小動物のようなかわいらしさがある。これで巨乳だったらよかったのに。僕がみるかぎり目黒美々よりはあるかなという感じだ。
巨乳レベルは圧倒的に恐山響子が上だ。
「よかったな桜子」
中村智和は丹下桜子に微笑みかける。この二人、やっぱりただの同級生ではないな。二人の間の空気が違う。ほんのりとあったかい気がする。
僕の左隣にいる目黒美々は下唇を前歯で噛んでいた。強く嚙んでいるので血が出そうだ。トイレでも我慢しているのだろうか。
じっと恐山響子のことを睨んでいる。
「僕も入部します」
僕は中村智和の戦士のような精悍な顔を見る。
僕の言葉を聞いた丹下桜子は本当にぴょんぴょんと飛び跳ねた。
感情表現が豊かな子だ。
「わ、私も入るわ」
目黒美々は吐き出すようにいった。両の拳をにぎりしめている。まるでボクサーのような構えだ。
「やったー智和君。これで五人そろったわ!!」
感極まって丹下桜子は中村智和に抱き着いた。抱き着いたことに恥ずかしくなり、丹下桜子は顔を真っ赤にして離れた。
友ノ浦高校の信条は自由自主自立であり、生徒は公序良俗に反しなければ、学校サイドはとくになにもいわない。
どのような部活をつくるのも自由だ。
ただ部費が支払われるのは部員が五人以上という規則がある。
僕たちが参加したことで二次元文化研究部はやっと部活としての体裁をととのえることができたのだ。
「まだ実績のない僕たちの二次元文化研究部につく部費は年間二万円ていどですけどね」
中村智和は苦笑する。
たった二万円、されど二万円だ。
母子家庭の僕はお金の大切さを身に染みて知っている。
今でこそ母さんは正社員で働いているが、僕が小さいときはパートを掛け持ちしていた。住んでいたところも古くて狭いアパートであった。
あの時と今では生活は雲泥の差だ。
部費の申請は翌週にするということでこの日はお互いの連絡先を交換し、グループラインを作成した。
僕のラインのQRコードを読み取っている目黒美々はなぜかにやにやしていた。
「この部でやりたいことなんかのアイデアがあったらどんどんこのグループラインに入れてください。一緒にこの部を育てていきましょう」
中村智和はそう言った。
彼は年下だけどあきらかに僕よりもリーダーに向いている。
それは皆も同意見だったようで部長はあらためて中村智和に決定した。
自転車で帰宅した僕を妹のりんが出迎えた。
「お兄ちゃん珍しく遅いじゃないの」
エプロン姿のりんは僕のそういった。
「うん、部活に入ったんだ」
僕がそう言うと良かったじゃないとりんは言った。
りんの身長は中学二年生ながら百六十五センチメートルもある。しかもまだまだ成長中だ。スタイルも中学生とは思えないほど抜群である。
しかも顔は母親の美咲に似て美少女だ。
我が家には美魔女と美少女がいる。平凡な容姿をしているのは僕だけだ。
「ほらお兄ちゃんの好きなカレーつくったから食べよう」
りんは鼻歌まじりにキッチンに戻っていく。
しまった。
家庭科の実習でカレーを食べたというのをりんに言い忘れていた。
でも、りんのカレーは格別なのでまあいいか。
りんのつくったカレーを堪能した僕はお風呂にはいり、自室に入った。宿題を手早くしあげてベッドに寝転がる。
寝転がりながら、漫画を読む。
就寝前のリラックスタイムだ。
漫画は「超能力調査団」というタイトルのものだ。
謎の異星人に侵略された人類は地下に都市を築いて、逃げ込んだ。地上を支配された人類であったが十四歳になる少女たちの中に異星人に対抗できる超能力をもつものがあらわれた。超能力少女たちと異星人の激しいバトルを描いた漫画だ。
今度、恐山響子にすすめてみるか。
僕の頭のかたすみに恐山響子が住みだした。暇になると恐山響子のことを考えてしまう。とくに今日見た花柄パンティーのことが頭から離れない。
これではまた夢にでてきそうだ。
僕は夢に恐山響子がでることを防ぐために先手をうった。一人でことをすませたのだ。脳裏には、はっきりとあの花柄パンティーと揺れるおっぱいが再生される。
そして賢者タイムにはいった僕はやってしまったことに後悔した。
ただ、すっきりはしたのでよく眠れそうだ。
明日からもうちょっと恐山響子に接しよう。
あいつって顔は怖いけどスタイルは僕の好みのセクシーグラマーだ。思わずおかずにしてしまうほどのだ。
怖い顔も赤フレーム眼鏡のおかげで少し和らいできている。それに恐山響子って妙に僕になついているような気がするんだよな。
僕は恐山響子のことを避けずに見直すべきなのかもしれない。
四月に入って恐山響子とかかわるようになって僕の生活に彩りができた。
今までの僕では女子と買い物にでかけたりするなんて想像もしていなかった。
恐山響子がぐいぐい来てくれたおかげで僕の生活はあきらかにかわった。僕がもっと積極的にでたら、もしかしてもしかするかも知れない。
でも僕の勘違いであるというのも考えられる。
男子っていうのはちょっと話かけられただけで好きになってしまう動物だ。
勘違いだったときのダメージはでかいので積極的に出つつよく考えて行動しないといけないな。
さて寝るかと漫画を本棚になおしたとき、スマートフォンがピロンとなった。
「舞台のチケットが手に入ったのでゴールデンウィークに皆でいきませんか?」
丹下桜子からのメッセージがグループラインに届いた。
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