第4話:ピンチ、そして爆死勇者の本当の力!?

「かけら」を追って。森の奥に、進んでいきます。

きっと、あれは事件の核心……!


兄さんたちを置いて、私は一人、一歩、また一歩と進んでいきます。


「よーしっ!いくぞーーーっ!!!」


この事件をかっこよく解決して!皆さんにもぜひともやる気を出してもらいましょう!!


「やっぱり……続いている……!」


小さいかけらだけど、たしかに、点々と森の奥へ続いている。


ひとつ、またひとつ。かけらをたどって、森の奥へ。


木々はどんどん密集して、道も細く、暗くなっていく。

土の臭い、湿った空気、妙に静かな森。


「ふふん、これが英雄の第一歩ですか」


私は鼻歌交じりに、森の奥へ進んでいった。


***


何時間経っただろうか。私は、ひたすら歩き続けた。


さっきから、同じような景色ばかり。

見たこともない、静かな、静かすぎる森。


ふと不安になって、振り返る。

誰もいない道。

帰り道の目印に、拾わず残しておいた小さなかけらだけが、ぽつりぽつりと続いている。


「……」


何も聞こえない。

誰も、いないんだから。


「私たち……本当に、魔王を倒せるのかな……」


足元の土を見つめながら、ポツリとこぼしたその言葉。

返事なんて、あるはずもない。


「なんで、誰もついてこないんだろう……」


木々の隙間から、わずかに差し込む日差しを見上げる。


……でも。


「……やるって決めたんだから、やる!」


そう、ここまで来たんだ。

私がやらなきゃ、誰がやるんだ。

英雄が欲しいなら、自分たちでなるしかない。


「いくぞ、レリィ・アーネスト!」


拳を握りしめ、私はまた一歩、森の奥へと踏み出した。


急な日光。


突然、視界が開ける。


うっそうとした木々が急に途切れ、空間が出現する。


その、中央に。


「……っ!?」


何かが、いた。


鈍い緑色で、わずかに銀色に光る艶やかな鱗。

妖しく光る、鉛色の角。

わずかに広がる翼が、バサリと風を巻き起こす。


ドラゴン――。


(う、嘘……。なんで、こんなところに……!?)


体が、動かない。


声も、出ない。


ズシン――ズシン――。


地面が、揺れる。

ドラゴンが、こっちに向かって歩いてくる。


やっぱり、魔王の力は強まっているんだ。

じゃなきゃ、ドラゴンなんていう魔物が、こんなところにいるはずない。


逃げなきゃ。

本能の全部が、叫んでいる。


でも、体は、凍ったかのように動かない。


息の仕方も、もはや忘れた。


ドオオオオオッ!!!


空気を揺らす、圧倒的な唸り声。


そして、私を見据える。口元をカチカチと動かし、火花を散らす。


そのままドラゴンは息を飲みこみ。


――来る。


知ってる。本で読んだ。


超熱圧縮焔ドラゴンブレス


ドラゴンの口に、炎が充満するのが、やけにはっきり見える。


――あ、これ、死ぬやつだ。


刹那。


「――爆炎死獄・絶エクスプロージョン・ドーン


ドォンッ!!!


視界が、爆風で真っ赤に染まった。


「……え?」


唐突な、重低音。

何が起きた?


風が一気に吹き抜ける。

焦げた木々の匂い。

巻き上がる土煙。


……そして。

土煙の先に……ドラゴンの姿は――なかった。


粉々に砕けた鱗が、風に乗って散っていく。


私は、ぽかんと、そこに立ち尽くしていた。


「……え?え?」


呆然とした私の視界の先。


その煙の向こうに、ダルそうに歩いてくる男がひとり――


「――ユートさん……?」


彼は、手をポケットに突っ込んだまま、あくび混じりにこっちを見て。


「……別に。ちょっと試してみただけ」


「え……?」


「なんか、召喚されたときスキルが付いてたっぽかったから。使えるか、試しただけ」


それだけ言うと、またポリポリと頭をかいて、興味なさそうに立ち止まる。


圧倒的な最大火力。

圧倒的な瞬間威力。


私は、言葉を失ったまま、立ち尽くしていた。


――あれを、ユートさんが……やったと、いうの?


脳裏にずっとこびりついていた、「爆死」の二文字が――爆発した。


鱗が風に流されていく、その光景を見つめながら、

私は、知らず、口元がゆるんでいた。


(……いける)


(この力があれば――魔王だって……!)


ちら、とユートを見る。

相変わらず、ダルそうな顔。

全然やる気なんて、見えない。


でも――。


(私が、この力を……この“勇者様”を、そしてみんなを……!)


(絶対、導いてみせる……!)


ぐっとこぶしを握る。


(あとは――あとは、やる気だけ……!)


あふれてくる興奮と希望を押し殺しながら、

私は、静かに、でも力強く――呟く。


「……もう、行きましょう」


「おばさんに報告をしたら……その足で」


「――魔王城を、目指しましょう」


ユートは、こちらをちらりと見やる。


「……は?何言ってんの……?いいじゃん、ダラダラしとけばさ……」


「私たちなら、絶対いけます」


善は急げ。思い立ったが吉日。今日より若い日は無い――。

私は、決意を胸に、歩き出した。

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