人身御供
一週間後、西山と正木は、再び御殿場の実験場に来ていた。
「今度はなにですか?」
正木は、この好き勝手言が言える評価が、多少好きになっていた。
「あれだ」
「タイヤ履きの戦車?」
「装輪式戦闘装甲の偵察戦闘車だ。兵器の種類ぐらい知っておけ」
「へ~い。しかしあれば米軍のものじゃないですね」
「わが実験部隊が開発しているものだ。六輪だから不整地走行もできるし、最高速度も150Kmを越える。積んでいるのは砲身が細いがレールガンだ。米軍のM1エイブラムスとタメを張れる」
「また、実験部隊お得意の『羊の皮を被った狼』というやつですか?で、どうしろと?アイツをぶっ潰すんですか」
「ばかやろう。味方を潰してどうする。あれに乗るんだ」
「乗って、何を潰すんですか?」
「お前は、潰すことしか考えられないのか。レールガンはダミーだ」
「ダミー?じゃ何をするんですか」
「ただ、乗って運転するだけでいい。安全確認だ」
「『乗っているだけ』そして『安全確認』。また実験部隊、アホなことを考えましたね」
「ほ~何が分かった?」
「戦闘車両に乗っているだけの安全確認。要するに標的になっての安全確認でしょ」
「さすが防衛大卒の少尉だ。その通り。安全確認のフルコースだ。120ミリ滑腔砲を受けての確認、対戦車地雷を踏んでの確認、そしてシメは50mの崖を転落しての確認だ」
さすがの正木も、声を出さずに西山を睨みつけている。
西山も間が持たない。
仕方ないので言葉を続けた。
「あの車両にはエアバックが装備されている。乗用車より遥かに強力なやつだ。計算上は安全だ」
「計算上?『ハズ』付きですか?実験部隊にはこの評価を止める人物はいなかったんですか?」
実は、西山も強硬に反対した。しかし、『弾性セラミック』を装甲に使った場合の着弾衝撃に対してのエアバックのデータがなく、押し切られた。
このような経緯があったので、西山は、この正木の文句に返事ができなかった。
悩んだ挙句、当たり前のことしか言えなかった。
「エアバックの性能を実証しないと、実戦に使えない。どうしても、生身のデータが必要なのだ」
正木は、しばらく西山を睨んでいた。
「いいでしょ。やりましょ。犯罪者や捕虜にやらせる訳にはいかない。俺がやらなきゃ、誰かが犠牲になる」
「すまん」西山はそう言わざるを得なかった。
上の者から謝られる。
正木は驚いていた。初めて経験だった。
正木は右手を上げて、頭の横で止めた。
彼にとって、初めての自発的な敬礼だった。
西山は、これで、前野に引き合せることができると思った。
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