新規開発
潜水艦開発
前野は、再びぼやいていた。
「空母の次は潜水艦か」
ペアになっている西山が突っ込む。
「開発部隊から見れば、前野大尉大明神ですからね」
前野は大尉になっていた。
「戦闘機にしても、空母にしても、今まではSF戦記などを元に何とか考えてきましたが、潜水艦なんて、ジュール・ヴェルヌのノーチラス号しか知らない」
この前野の発言に西山は再び突っ込む。
「じゃ、そのノーチラス号の仕様を書いとけば」
「西山少佐の指示により、『ジュール・ヴェルヌの海底二万里を読め』と書いてよいですね」
「おう、書く度胸があればな」
「書く度胸はありますよ。赤城大佐に提出する度胸がないだけで……」
「それは言える。しかし、俺は赤城大佐より中山政務官の方が怖い。彼は技術的内容をすぐに理解するし、お前のバカげた提案も実現させる」
前野は、常々思っていた疑問を口にする。
「提案がバカげているかどうかは置いといて、中山さんは恐ろしさより、不自然感が強いですよ。
私が何を提案するか分かっているような。頭の中を覗かれているようです。
そして中山さん配下の製造組織、民間の会社が関係していることまでは聞いていますが、詳しい事は霧の中ですよ」
西山が応じる。
「だよな~。噂に聞いている『予測システム』もカード大統領の行動予測が80%以上の確率だ。中山さんにシンクタンクが付いているとは聞いているが、見たことが無い。大石総理も彼が動かしている感じだしな。ま~頑張って、彼が悩むような提案をしてくれよな」
その潜水艦の試験航行に、前野を同行させる指示が出ていた。
「嫌です。試験でしょう。沈むかもしれないじゃないですか」
「前野大尉。潜水艦は沈むものです。沈んだら成功じゃないですか」
案内役として派遣された青島少尉がなだめる。
前野の相方の西山少佐は、別件開発でいなかった。
今回は、あの防衛大卒業のトラブルの相手、正木と青島のコンビの片割れである。
その二人は、サボっているのが見つかり、艦長からこっぴどく怒られたそうである。
* * * * *
正式名前『先端技術開発実験部隊』は、初期の間、『人身御供部隊』と陰口をたたかれ、人員にも問題のある者が多かった。
しかし、『問題のある』と言っても、考え方が新しすぎて周りから浮いた者や、無茶な上司に反抗した者など、本当に役に立たない不良は極力排除していた。
それでも、立ち上げ当初の初期の間、どうしようもない人物は行く所がなくなり、実験部隊に放りこまれる場合があった。
二人も、その初期不良ではあった。
防衛大卒業でのトラブルの後、一応被害者として幹部候補生学校に入学したが、そのトラブルで周りからうとまれ、何かと問題を起こした。
その結果、幹部候補生学校卒業後、実験部隊配属となった。
その二人と空母で出会った後、西山から評価班で引き取りたいとの希望がなされた。
初め、前野も反対していたが、西山に押し切られた。
その『初期不良』の片割れである青島は、評価班に入って初めて、前野が防衛大を卒業して短時間で大尉になり、開発部隊では一目置かれていることを知った。
正木と縁が切れたこと、また、元々、音響に興味があったこともあり、青島は潜水艦のソナー開発に関与した。
青島は、前野に新型潜水艦の説明を行うという話を聞いた際、真っ先に説明員に志願した。
そして、前野に会って直ぐ、今までのことを謝った。
しかし、前野は、その謝罪に驚いた。
前野にとって、あの卒業式でのトラブルは西山が大きくしたものであり、ちょっとからかわれた程度の認識でしかなかった。
その周りからのからかいがあったからこそ、防衛大の4年間でもゲームを意識し続けられ、今に至っていると認識していた。
このため、前野は、青島の謝罪に目を白黒させただけであった。
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