新型空母

前野はぼやいていた。

「なんで、俺が空母まで絡まにゃならない。高射隊所属だったのに」

ペアになっている西山が突っ込む。

「せっかく、中尉になったのに。何なら、高射隊の曹長にもどしてやろうか?」

「いえいえ、満足しております。殿」

今までの新兵器開発・評価で、西山も少佐に昇格していた。


「しかし、空母ですよ。失礼ですが西山少佐も空母は門外漢でしょ。『素人意見も大切』と言われても、あまりに畑違いですよ」

「その『素人意見』が採用され続けるのはどういうわけだ?この前の『ヤマト型砲艦』にしても、一隻で、米艦隊と渡り合えるものが出来上がってしまった」

「言いたいのはこっちですよ。好き勝手言ったら、3ヶ月で大量生産されるようになってしまいました。お次は空母ですよ」

「本音は楽しんでいるのだろ。今回もお前のアイデアでとんでもないものが出来上がった」


話題の空母の名称は隼鷹じゅんようという、双胴二段式空母であった。


初めは、『ヤマト型砲艦』と同じく、ジェットフォイル船が考えられていたが、空母では船体が大きく、重くなりすぎ、そのままでは、ジェットフォイル船にすることは不可能だった。


そのため、前野が出したアイデアが双胴船。二つの船体の間に、『ヤマト型砲艦』と同じく『電磁推進』の水ジェット噴出と、赤燕の『電磁推進』もどきの空気の高速噴出、そして水中翼フォイル、この三つの力で浮かび上がらせ高速航行する。


この空母の搭載機は『赤燕』。

そのSVOLにより、甲板の短さはほとんど問題とならない。

初め、その構造の複雑さから、竣工に一年かかると思われていたが、兵器製造組織は『弾性セラミック』の加工のし易さから、4ヶ月で進水させてしまった。


空母隼鷹の試験航行に、前野と西山は乗りこむことになった。

急遽の乗船だったので、二人とも私服であった。

下段甲板で、若い兵数名がたむろしていた。

そこに、艦長に案内された前野と西山が通りかかった。


たむろしていた若い兵は声を上げた

「前野?なんでお前がここにいる?」

その若い兵は、自分が載っている船の艦長の顔を、まだ覚えていなかった。


前野は、声を掛けて来た兵の顔を見て驚いた。

「正木?それに青島?」

彼らは、防衛大卒業の時、問題を起こした相手達であった。

声をかけたのは、リーダー格の正木である。

「前野。ここはお前がうろつけるような場所じゃないぞ。それともゲームセンターと間違えてきたのか」

彼らは、防衛大卒業後、何とか幹部候補生学校も卒業して、少尉にはなったが、色々と問題を起こし、実験部隊に放り込まれ、この空母配属となっていた。

彼らは、前野が私服のため中尉であることに気づいていなかった。


西山も気が付いた

「お前ら、あの時のバカどもか?」

彼らも西山に気が付いた。

「西山准尉?」

「おう。准尉でなく少佐だけどな」

「少佐……」


艦長も、このやり取りで察しが付いて、応援してきた。

「お知り合いですか?前野中尉」

彼らも、前野が中尉であり、また艦長もいることに気が付いた。

そして、その大佐の艦長が、中尉とは言え前野に対して敬意を払っている。


前野はゆっくりと言った。

「知り合いと言えば、知り合いですね。大昔ですが。先を急ぎましょう」

艦長もゆっくり答えた。

「そうですね。彼らの油は後でゆっくり絞りましょうか」

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