クレーマーに絡まれてた美人姉妹店員を助けたら、ヒロイン達がやけにグイグイ来るようになった件

果 一

第1話 コンビニに入店したら美人店員がいました

「腹減ったなぁ……」


 大学からの帰り道、隣を歩く男が自分のお腹をさすりながら笑う。その際、チラチラと俺の方を見てくる。――正直、わかっているがここは見ないフリをしようと思う。


「なあ、達樹たつき

「……なに」

「腹、減ったよな?」

「とりあえず俺に圧をかけて同意を求めるのはやめてくれ」


 こうなることがわかっていたから見て見ぬフリをしていたのに、思い通りにはいかないものだ。


「やや! 見てみろ、あんなとこにコンビニが……! 丁度良い、あそこで“からあげさん”買ってこうぜ!」

「ああ、そうだな」


 去年も一昨年も、変わらずあそこに建ってたけどな。……面倒くさいからもうツッコまないぞ?

 俺こと浅井達樹あさいたつきは、意気揚々とコンビニへ向かって行く親友の背中を見て、盛大にため息をついた。

 

 彼の名前は鳴瀬宗也なるせそうや。大学1年生になって一ヶ月しか経っていないにも関わらず馴れ馴れしいのは、高校1年の頃からの付き合いだからだ。短い茶髪に茶目っ気のある二重の瞳が特徴的な美青年。

 かわいい系のイケメンといった具合で、我が親友ながら憎たらしいほどにモテる。……が、明るいと言うよりあけすけな性格が禍いし、長続きしないという、いわゆる“残念系のイケメン”というやつだ。

 というわけで、「お前は俺が初めて3年以上付き合ったヤツだ! もう結婚したみたいなもんだろ!」とか言われているが、謹んでお断りしたい。


「まあ、悪い奴ではないんだけどさ」


 去って行く背中を追いながら、宗也に聞こえないように呟く。変なヤツだけど、嫌いじゃない。すごく変なヤツだけど。


――。


「「いらっしゃいませ」」


 若い女性店員の声で出迎えられ、俺は店の奥――出来合いのお弁当が並んでいるコーナーへと向かった。

 小腹が空いたという宗也の後を追って来たわけだが、この際だから夕飯を買っていこう。


「どれにしようかな~」

「……お前、またコンビニ弁当かよ」

「うおっ!?」


 並んだ色とりどりの弁当を見比べていた俺は、不意に後ろからかけられた声に驚いて肩を跳ねさせる。振り返った先には、あきれ顔の宗也が立っていた。


「なんだ宗也か。脅かすなよ」

「脅かしたわけじゃないんだが……とにかく、お前高校んときからコンビニ弁当ばっかだよな。ちゃんとしたもん食べないと身体壊すぞ」

「お前は俺の母さんか。ていうか、その言い分だとコンビニに風評被害がいくぞ」


 ジト目を向けてくる宗也に、俺はそう言い返す。コンビニ弁当ばかりだと身体に悪いぞ、とは一人暮らしを始める前に実家の両親から口を酸っぱくして言われていたが、実際どうなんだろうか。


「それよりどうしたんだよ、“からあげさん”買うんじゃなかったのか?」

「ああ、それなんだがな……唐揚げとかどうでもよくなるような、一大事なんだよ」


 ふと、宗也が真剣な顔をする。

 急に似合わない顔をするものだから、俺は宗也の体調不良を疑って――


「新人さんの店員が、めっちゃカワイイんだが?」


 ――よかった、いつもの宗也だ。

 彼の熱い視線に釣られてそちらを見ると、なるほど。2箇所あるレジにそれぞれ新人の女性店員が立っている。

 大学やその附属高校が近くにあるこのコンビニは、バイトとして入ってくる店員も多く、入れ替わりも激しい。だから、見ない顔の店員がレジに立っているのはさして珍しくもないのだが――


「なるほど、確かに」


 俺は思わず、宗也に同意してしまった。ちくしょう一生の不覚だ。

 

 向かって左側に立っているのは、亜麻色の長い髪を持つ、柔和な顔立ちの女性だ。年の頃は俺や宗也と同じくらい。身体のラインが見えにくい衣装の上からでもはっきりとわかる女性的な身体のライン。

 営業スマイルなどしなくても、その柔らかな表情に自然と目が吸い寄せられる――そんな人物。


 熟れた果実を思わせるのが彼女だとしたら、もう一人は青い果実だ。

 年の頃は先の女性より2、3下。

 切れ長の瞳に、ツインテールに括った紫メッシュの黒髪が特徴的な少女。小柄で華奢ながら、溌剌とした雰囲気があり、それが少女の魅力を強く引き立てている。


 二人とも、驚く程に美人。

 本来であれば女性を比べるのは失礼なのだろうが、自然と比べてしまったのには理由がある。

 それは――


「あの二人、姉妹かな?」

「ああ、だろうな」


 俺の言葉に、宗也は深く頷く。

 ぱっと見の雰囲気は真逆の二人だが、鼻筋とか顔の輪郭が、ほのかに似ている。

 そして何より、若葉マークのついたネームプレートには同じ「桐谷きりや」という苗字が書かれていた。

 おそらく、姉妹ともどもバイトを始めたのだろう。


 あれだけ可愛ければ、看板娘として名をあげてもおかしくない。「またお越しくださいませ」なんて言われた日には、金欠でも来てしまいそうだ。


「やばい。明日から毎日このコンビニで買い物しよ」

「なるほど、こうして金蔓が増えていくわけか」


 密かに決意を固める宗也を見て、俺は小さくため息をついた。


「手始めに今日はどっちに並ぼうか。亜麻色の彼女はおっとり系で癒やし萌え要素が抜群。馴れない作業であわあわしてるところも見てみたい! あーでも、妹の方も捨てがたいな! あの見た目で「ざーこ♡ ざーこ♡」とか言われてみたい言わせたい! ハッ! いっそのこと買い忘れたフリをしてもっかいレジに並べば、どちらかを選んで彼女達のどちらかを悲しませる必要もないのでは? 天才か俺! なあ、どう思うよ達樹!」

「ああそうだな。天災だな」

「会話のキャッチボールが微妙にズレてる気がするのは気のせいか!?」


 目を剥いて騒ぎ立てる宗也に、「どっちでもいいから行ってこい」と背中を押して、半ば強引にレジへ向かわせる。

「よしっ、今日は優しさに包まれたい気分!」などと息巻いて姉と思しき女性の方へ歩いて行く。実際、妹の方は50代くらいの男性を相手にしているから、そうなるのは必然だと言えよう。


「はぁ、ったく」


 思わず嘆息しつつも、内心では宗也の態度には羨ましく思うものがあった。

 彼は自分に嘘をつかない。好きなものは好きだと言うし、付き合いたい人には臆せずアタックする。

 

 俺は、そんなに正直になれない。

 人にはそれぞれ身分に見合った生き方がある、というのが、俺がこれまでの人生で得た考えだ。

 あんな美人と付き合えたらと、そう思う。でも、同時に俺なんかとは釣り合わないと思う気持ちが前に出てくる。

 当たり前だ。料理を知らないからコンビニ弁当で済ませるように――俺の人生には、自信を持つための裏付けになるものが、何もないのだから。

 だから時たま、あのどこから湧いてくるかもわからない自信のままに生きている友人が、眩しく見えて――


「――“からあげさん”レッドを一つ。あ、それから……君のスマイルを一つ(キリッ)」

「え? えぇ……と」


 ――前言撤回。完全にドン引きされているのに、構わずキメ顔でとんでもないことを要求している宗也を見て、感傷が一気に冷めた。

 ほんと、こんなのが連れでごめんなさい。


――。


 宗也がコンビニを出て1人残された俺は、お弁当選びを再開する。

 どうせ外で立ち食いしているだろうから、もう少し待たせても構わないだろう。


「からあげ弁当……いや、今日は生姜焼きにするか?」


 そんな感じで頭を悩ませていると――不意に、それは起きた。


「ったくいつまで待たせてんだよ! このノロマが!」


 バンッ!

 男の野太い怒鳴り声と同時に、何かを蹴り飛ばす凄まじい音が店内に鳴り響いた。


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