キミは世界を渡る者 無限の箱庭転移譚

渡り者

第0話 目覚め

――ター


…。


――マスター。


遠くから声が響いてくる。


[……マスター、目を覚ましてください。]


それは、夢とも現実ともつかない境界に立たされた彼の意識を、そっとこちら側へと導いていく。


「……う、ん……」


祝人ほうりは、まぶたの裏に温かな光を感じながら、ゆっくりと目を開けた。


まばゆい陽射し――

そして、それ以上に目を奪う光景が広がっていた。


風にたなびく草花の音。

海の匂いを運ぶ風。

広大な碧(あお)の海と、いくつもの小島が遠くに浮かぶ。


ここは……山の上?


地面は滑らかで赤みがかった岩肌。

周囲には手つかずの森が広がっていた。

眼下には、遠くに広がるサンゴ礁と白い海岸線――まるで絵巻から抜け出したような世界だった。


「……ここは、どこだ……」


祝人はゆっくりと身を起こすと、足元を見た。


服装がいつの間にか変わっていた。

現代の衣服ではない。織り目の粗い麻のような布でできた上衣に、軽く動きやすそうな腰巻。


首元には、小さな貝殻でできたアクセサリーがぶら下がっている。


触れたことのないはずの布地なのに、肌はその感触を知っているようだった。


「まさか、これ……」


そこまで考えたとき――再び声が響いた。


[おはようございます、マスター]


「…っ」


祝人は反射的に辺りを見回す。


……声だけ。周囲には、誰もいない。


「……誰だ?」


なにがあるかわからず警戒する祝人。


すると、少し間を置いて返答があった。


[はじめまして、鏡 祝人かがみ ほうり。私は情報統合思念体じょうほうとうごうしねんたい、個体識別名を【アイン】といいます。]


機械的とまではいかないが、感情の少ない落ち着いた声だ。


「情報統合…なに?」


[情報統合思念体。情報を集積し、思念を束ねて行動する存在──いわば、意思を持つコンピューターのようなものです]


「そのアイン……さん?は、姿が見えないけど、どこにいるんですか?」


[情報統合思念体は特定の姿を持ちません。必要であれば投影体を通じて現れることもできますが、今は実体を持たずにマスターのそばに“存在”しています]


なんだその概念…。


「そのマスターってのは、おれのことですか?」


[はい。あなた、鏡祝人はアインの主人であり、アインはマスターのために構築された、自律・独立型の情報統合思念体。そのプロトタイプです。

よって、アインに対する敬語・敬称は不要です]


「主人って…」


得体のしれない存在から主人扱いされても戸惑うばかりだ。

構築されたって、誰が、何のために?

そもそもこのアインとやらが何なのかさえ知らないってのに――


「……えっと、その…構築されたって言ったけど、アインって誰かにつくられたの?」


[アインはメモリによって構築されました]


「えっ、メモリに……?」


思わず聞き返してしまった。

あの正体不明な存在――確かに「メモリ」という名だったけど、まさかそんなことまでしていたとは。


…俺は、ここまでの経緯を思い出そうとする。


――――



--------------

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


アイン

[マスターがここまで読み進めたという事実は、解析結果として非常に有意です。よろしければ、★評価やフォローという形で観測の継続を希望します]

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