彼氏持ちに囲まれた大学生の一年間
濵 嘉秋
第1話 主人公と美女たち(彼氏あり)
「おはよう
「おはよう。楽しめたのか?先週は」
「うぅん…まぁボチボチかな」
講義が始まる数分前に入室してきた黒髪ロングの女学生・
半年前、この講義の第一回目に幾つかの班が作られ、それ以降は班のメンバーで固まって席についている。まぁ不思議はない当たり前の行動だ。
だから野村よ、その人を殺められそうな目を僕に向けるのはやめてくれ。その目を向けるべきは僕じゃないぞ。
「あ、そうだ!お土産渡すよ。講義終わったら」
「ありがとう。ていうかどこ行ってたんだっけ?」
「群馬、ほら千と千尋のモデルになった温泉だよ」
「へぇ?あそこって結構高かったんじゃ?」
「高いけど…バイト代で事足りるくらいだよ?」
「それでも一月分はするだろ…」
そんな会話を繰り広げていると先生がやってきて講義が始まる。相変わらずの内容だが、月曜の朝には丁度いいくらいだ。
というわけで何事もなく抗議を終え、次の教室に移動する…その前に。
「はいこれ、入浴剤!と陶器のカップ!」
「お、ちょうど新しい入浴剤欲しかったんだよって、これもしかして手作りか?」
カップのほうは正規品にしては形が歪だ。まぁ物としては十二分に使える出来だから問題はないんだけど、気になったのでつい口から出てしまった。
「うん…前に千十くんの家に遊びに行った時にさ、部屋にあった
あぁ、あったなそんなこと。ちなみにその轆轤は部屋の隅で埃を被っていることだろう。
しかしあんな何でもない場面を思い出すとは…せっかくの旅行で僕を想起しないでほしいものだ。
が、こうして作ってきてくれたのは素直に嬉しい。
「ありがとう」
「どういたしまして、本当はね?スイーツとか持ってきたかったんだけど期限が短いからさ。土日挟んじゃうとねぇ」
「2,3日だもんなあぁいうのって。…やべっ次の教室E棟だ。じゃあ愛理、また明日!」
「あぁうん!またねぇ!」
二限も終わり、学食に向かう最中、見知った背中を見つけて声をかける。
「
しかし彼女は月曜の…というか毎日、必修以外の二限は入れてないって言ってた気がするが。今から学食に向かうのは遅くないか?
「あ、千十。そうなんだよレポートに時間食われてさぁ、今になっちゃった」
「レポートって…もう期限のやつがあるのか?」
今は7月のはじめだ。もうすぐ前期も終わるとはいえ、早い期限でも中旬頃だと思っていたが…なんて疑問に遊佳は首を横に振った。
「いや、日本史よ」
「日本史って…あれの期限は7月の末だろ」
「ダメだなぁ千十くんは…これから月末にかけてレポート課題にプラスして試験勉強まであるんだよ?余裕持たないと!」
「試験勉強?必要かソレ」
「必要だろうがよ⁉」
大学の試験勉強なんて如何に過去問を手に入れられるかであって、その手筈は入学数週間で決まる。期末一月前から頑張るものじゃない。というか、そもそも過去問がなくても前日にレジュメを見れば合格点は取れるだろ。
なんて言っても、今回が初めての期末である遊佳には通じないんだろうな。ここに関しては僕が特殊なだけだ。
「まぁいいや。千十もこれからお昼でしょ?一緒に行こうよ」
「あぁ、でも混んでるだろうなぁ。テーブル空いてればいいけど」
「二人ならいけるでしょ」
結論、学食は混み混みだったが何とか座ることが出来た。二人してカレーをチョイスして遊佳が二人分の席を確保、僕が二人分のカレーを席まで運ぶ…うん、そこまでしなくても座れた気がする。
「で?写真サークルだっけ、最近は何してんの」
「特に何も。毎日馬鹿なことしてるだけだよ」
本当にバカやってるだけである。
直近でのサークルらしい行事といえば夏休みにある合宿くらいなもので…普段は写真を撮る時間よりもゲームしてる時間のほうが長いまである。
「ふぅん…ほらあの何とかコンテストで入賞した先輩。あの亜麻色のさ」
「新藤先輩か?」
「そうその人!あの人ってさぁ…」
スプーンを口から抜き取ってそこに反射する自分の顔を見つめていた遊佳はやがてコチラを向く。その顔は疑心に満ちていた。
「男に手を出すようなタイプ…じゃ、ないよね?」
「はぁ?」
「だぁから!ビッチじゃないよね?って聞いてんの‼」
「おいっ声が大きいって⁉」
「ビッチ」なんて単語が飛び出すもんだから学食内の視線の何割かが僕たちに向けられる。が、すぐに興味が失せたのか散らばっていく視線に安堵しながら話に出てきた先輩を脳内で投影してみる。
「……ビッチというほど軽いわけでもないと思うけど、かと言って身持ちが硬いかと言われるとそうでもないような?」
「そうでもないって……アンタまさか…!」
「違うから。至って健全な先輩後輩の関係だから」
「その健全ってのは写真サークルにおける健全って意味かしらぁ⁈」
「ウチのサークルを如何わしくするんじゃないよ…いるだろ?割とそういうのがスポーツ感覚な人って」
「いるか?そんな人…」
「そうそう。スポーツっていうとちょっと手頃すぎる感じだよねー」
「スポーツ感覚だとそれこそって感じもする……てぇ⁈」
「
「いやぁあそこの連中に誘われてさぁ。そしたら知ってる顔を見かけたもんだから?」
紫がかった黒髪をショートにしたこの女性こそ話に出てきた
近くの女子大の学生だ。まぁ学食は外部にも開放されているし、怜南さんがここにいる理由はさっき本人が語ってくれた通りだ。が、そうか。
遊佳と怜南さんってコレが初対面か。
「千十のカノジョさんかな?」
「違いますよ。ただの幼馴染です」
「またまたぁ」
「いやマジで。そもそもコイツは」
「千十の幼馴染の天音遊佳といいます。
「怜南先輩ですが…あれ、なんで私のこと知って」
「先日は
久遠?あぁ、だから遊佳は怜南さんのことを…なるほどね。
「久遠?あぁ、あの子が言ってたのって貴女のことだったんだ」
「随分と良くしてくれたみたいで…!」
敵意剥き出しだな、遊佳さんや。だが久遠なら心配ないだろ、怜南さんだって面倒事は避けるはずだ。
少なくともこの大学の彼女持ちに手は出さないと思う。
「もしかして何か勘違いしてる?安心しなよ、別に何もなかったからさ。ね、千十?」
「あぁ、そっすね」
正直、何かある一歩手前ではあったのだが「久遠に彼女をいる」という僕からの情報を得た怜南さんはあっさりと引いた。
だから遊佳が心配する必要は一切ないのだが…強いて言えば乗せられそうになっていた久遠に灸をすえるくらいか?
「千十…知ってたの?」
「うん。僕も一緒にいたし…言わなかったっけ?」
「言ってないよ!」
「とにかく!天音ちゃんが心配することはないよ!私、彼氏持ちには手を出さないって決めてるから」
そう言って僕の首に絡んでくる怜南さんを無視してカレーを口に運ぶ。そんな様子を見て、遊佳の視線が再び険しくなったのが分かる。
「千十とは随分と仲がよろしいんですね。付き合ってるわけじゃないんでしょう?」
「だねぇ。私としてはそれでもよかったんだけど…コイツめ、せっかくの誘いを蹴ったから」
「ひゃめれくらはい」
頬を人差し指でグリグリされ、流石にその手を掴む。
「僕には気になってる人がいるんです」
「こう言うの」
「なにそれ、私も初耳なんですけど」
「言ってないからな」
「誰よ。私の知ってる人?」
「さぁ?」
「さぁってアンタ」
「真面目に答える気ないなコイツ」とでも言いたげな視線を飛ばしてくる遊佳から顔を逸らす。
だが実際、こう答えるしかないんだよ。僕にだってそれが誰なのか分からないんだから。
「運命の人ってやつだ。顔も名前もまだ知らない」
「は?運命ってアンタ…そういう感じじゃなかったでしょ」
まぁ確かに幼馴染が急に「運命の人」とか言い出したらこんな反応になるだろう。一目惚れとかそういう話ならまだ分かるが、僕が言ったのはまだ会ったこともない未知の人物に対してだ。
気色悪い物を見る目で見るのも分からんでもないがやめてくれ。
「まったく、そんな曖昧なものに負けたなんて…お姉さん悲しい。あ、じゃ千十…今日の16時に部室ね!」
「了解でーす」
手を振りながら待たせているお仲間の元に戻っていく怜南さんを見送ると、遊佳は立ち上がると、いつの間にか完食していたカレーの皿を持ち上げる。
「じゃあ私は行くけど…そういえば今日、久遠と会うよね?」
「あぁ、4限が一緒だから」
「コレ返しておいて。昨日忘れてったの」
「なんだコレ」
渡されたのはUSBメモリ。話の展開からすると久遠の持ち物らしいが、課題のデータでも入っているのか?
「講義で発表する資料のデータ。じゃあ頼んだわよー」
3限目の講義は心理学だ。
そして今日はグループワークがある…で、そのメンバーは僕の他に二人。
「久遠、コレ遊佳から」
「うん?あ、これアイツの家にあったのか!良かったぁ、なくしたかと思って焦ったんだよ」
「ていうか遊佳も教えてくれればいいのに」と唇を尖らせているのは
そして今までの話で予想できる通り、遊佳の彼氏である。
「いよーう…早いなお前ら」
「明津が遅いんだよ!」
講義開始のギリギリに入ってきた無精ひげのコイツは
朝方まで配信してたみたいだから仕方ないか。遅刻しないなら文句もない。
「おい浅倉。頼んでたの、買っておいてくれたか?」
「ほら。でももう時間ないぞ?」
深夜の3時くらいに送られてきたメッセージで頼まれていたおにぎりを渡して代金を受け取る。もう少し早く来ると思っていたが、この時間じゃ食べている暇はないな。
「また売店のおにぎりかよ…足りんのかよそれっぽっちで」
「足りるわけねぇだろ。この後ラーメン食いに行くんだよ…お前らも来るか?奢ってやるけど」
「僕はパス。4限もあるしその後はサークルだ」
「俺もー。遊佳と約束あるから」
「はっ、リア充がよぉ」
「お前も彼女作れば?」
「嫌だよ。恋人に費やす時間なんざねぇ…」
実際、配信活動が成功している明津は同年代の中でも金銭に余裕があるほうだろう。容姿も整えれば悪くないというのが女子間での評判…らしい。まぁ本人にはその気が微塵もないらしいが。
「大体、彼女云々の話なら俺より浅倉だろ」
「確かに!遊佳は俺のだけど、他にもいっぱい可愛い子侍らせてるよなっ!誰だよ、誰が本命だ?」
「誰も違う」
「そりゃないだろ。あんな高偏差値…その歳で枯れてんのか?あ、だから遊佳にも手を出してなかった?」
「または女が恋愛対象じゃないとかな」
「へぇ…あ、いや、差別はないよ?」
「違うから。ちゃんと女が恋愛対象だから」
まぁ一行に運命の人が見つからない辺り、その認識も危ういのかもしれないが。
「お疲れ様でーす」
16時少し前…写真サークルの部室になっている部屋に入ると、すでに僕以外のほとんどが揃っていて、そのうちの一人が真っ先に声をかけてくる。
「おう浅倉!お前また怜南と出掛けたらしいなッ!」
「い、いや間宮さん?アレには色々と訳が…」
「訳なんざ知るか!どこのどいつが彼氏持ちの女と朝から晩までお出かけすんだよ⁈」
ここの浅倉がですが。
まぁ確かにおかしいわな。何考えてたんだあの時の僕たちは…。
「浅倉テメェ…もう我慢ならん!」
「あ、ちょっと⁉暴力反対!」
「見ろコイツを!」
「お?」
振り上げた拳…を棚のアルバムに伸ばした間宮さんはそれを開いて僕の前に叩きつける。
「コレは怜南と行った温泉旅館での写真だ!」
「あぁ、先週の?」
「そうだ!見ろこの笑顔!コレを引き出せるのは彼氏である俺だけなんだよッ!」
まただ…惚気が始まるよコレ。早く来てくれ怜南さん。
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