終章① 決着

龍剣ロンジエン! お願い、目を覚まして!」


龍剣ロンジエン! 頼む!」


 深い闇に意識が沈み、体が冷たい湖に溶けていくようだった。

 俺を呼ぶ声が、胸の奥まで突き刺さる。

 

「龍剣! 起きろ!」


 この声はお父だーー。

 力強く、揺るぎない声。


「龍剣! 私……あなたに謝りたい。だからーー」


 この声は龍梅ロンメイ、姉貴だーー。

 優しく、温かい声。

 

 二人の声が重なって、必死に俺を引き戻そうとしてるのがわかった。

 俺は「ガハッ」と大きく咳き込み、肺に溜まった冷たい湖水をむせるように吐き出しながら、目を薄く開ける。

 視界にぼんやりと、涙で顔を濡らす龍梅ロンメイと、必死に呼びかける父親の姿が映る。


龍梅ロンメイ……、お父……」


 喉の奥から、かすれた声が漏れた。

 

 みんな、生きてる。

 

 お父は頬を濡らす涙を拭おうともせず、俺と龍梅を迷いなく力強く抱きしめた。


「お前たちはただの双子だ。そして、誰よりも強い心を持つ子供たちだ……私の誇りだ。」


 その言葉が、胸の奥にずしんと響いた。

 「忌み子」「呪いだ」、なんて言葉で縛られてきた俺たちを、お父はただの家族として抱きしめてる。

 喉の奥がじんわりと熱くなり、込み上げてくるものを必死に堪えた。

 俺は龍梅ロンメイの手をそっと握った。

 ひんやりとした指先。

 しかし、その奥には確かな温もりが息づいている


「馬鹿っ! 私は大丈夫なのにーー」


「龍梅……俺、腹減った」


「もうっ! こんな時でも食い意地はるんだからーー」


 あの呪いの赤い目は、俺たちの剣舞で打ち砕いたんだ。

 ふと見上げると、湖を覆っていた赤黒い靄は跡形もなく消え去り、夜の静けさが戻っていた。

 静かな水面に、月光が揺れて、まるで戦いが終わったことを告げるみたいに輝いてた。

 湖から吹く風がそっと頬を撫でた。

 これまでの荒々しさが嘘のように、穏やかな空気が体を包んだ。

 俺は息を止めて、湖の静けさに耳を澄ます。

 もうあの不気味な咆哮は聞こえない。

 胸の奥に絡みついていた重いものが、ふっと溶けて消えていくような感覚がした。

 前世の後悔ーー姉貴を守れなかったあの日の重さが、ようやく消えた。

 龍梅が俺の手をぎゅっと握り返して、唇の端で小さく笑った。

 その穏やかな微笑みを見て、俺は思う。

 やっと、俺は――この手で、大切な家族を守ることができたんだ。

 呪いも、過去も、全部ここで終わったんだ。

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