ランク調整依頼終了 ハンターライセンスと新装備検討

翌日、シドはベットの上で目を覚まし、時間を確認する。時刻は6時を少し回った位であった。


のそのそと起きだし、装備を整えようとして手を止める。


昨日の戦闘で、防護服とスナイパーライフルがお釈迦になった事を思い出したのだった。


<おはようございます。ワーカーオフィスから連絡がきておりますよ>


イデアが情報端末に届いていたワーカーオフィスからの連絡を教えてくれる。


<わかった。確認してみる>


シドは情報端末を手に取り、ワーカーオフィスからの連絡に目を通す。


そこには、ミナギ方面防衛拠点で治安維持依頼の終了を告げる内容が記されていた。


昨日シドは、防衛戦で失った装備の事をワーカーオフィスに連絡し、今のままでは依頼続行が不可能である事を伝えていた。拠点には装備の補充が出来る施設もあるにはあるが、ミスカ達の所で購入した品質のものが無く、シドは購入を見送っていたのだった。


<依頼終了か。ダゴラ都市に帰って来いってさ>


<ようやくですね。ランク調整依頼が終了したと思っていいでしょう>


<そうだな。ランクの査定と報酬については都市のワーカーオフィスで受け取れるらしい>


<それならば、早速都市に戻る手続きを行いましょう。ここにと留まっていると、また妙なトラブルに巻き込まれる可能性も否定できません>


<そうだな。朝飯食ったらさっさと出ていくか>




そうしてシドは準備を整え、拠点での任務完了手続きを終わらせ1ヶ月以上滞在した防衛拠点を出て行こうとする。


出ていく途中、ヤシロとレオナのコンビに会い、ここから去ることを告げる。彼らはまだこの拠点からシドが発見した遺跡に潜る為、しばらくは滞在するようだった。


新しく知り合いになった先輩ワーカー達にも挨拶ができ心置きなく拠点を後にする。




都市への期間の最中、出てくるのはモンスターとも言えないようなバーサクハウンドのみであり、特に問題も発生せずに都市にまで帰って来れた。


ワーカーオフィスに直行し、バイクを返却した後、依頼の報酬を受け取る為総合受付に向かっていく。


「すみません。ミナギ方面防衛拠点での治安維持依頼の完了通知が来たのですが」


「はい、ライセンスをお願いします」


受付職員はそう言い、シドからライセンスを受け取ると端末を操作し、手続きを行う。


「・・・・完了しました。今回の報酬はこのようになっております」


職員は端末で依頼の報酬を提示してくる。


そこには巡回任務・未発見の遺跡発見・防衛戦でのシドの戦歴と、その報酬について表示されていた。


金額にして7000万コール。


ワーカーとしてもかなりの大金が表示されており、その下に現在のシドのランクが表示されていた。


<ランク24か・・・期間の割にかなり上がったな・・・>


<妥当な所ですね。遺跡発見と最後の防衛戦がかなりの評価を受けたようです>


<頑張った甲斐があったって事か>


「シド様は今回の依頼でランク20を超えました。ライセンスの更新を行いますので少々お待ちください」


職員はまた端末の操作を行い、何やら情報を打ち込んでいく。


しばらくそのまま待っていると職員が顔を上げ質問してきた。


「シド様は今後の活動をどうお考えですか?」


「どういう意味です?」


「ハンターとしてモンスター討伐をメインで行うか、シーカーとして遺跡の探索をメインにするかですね。その違いで発行するライセンスを振りまけます。もちろん、メイン活動以外を行って話いけないと言う話ではなく、オフィスがシド様に依頼を斡旋する際の依頼傾向を決める目安になります」


「どういった依頼になるんですか?」


「ハンターの場合はモンスター討伐や護衛の依頼。シーカーの場合は遺跡で特定の遺物やシステムデータの回収依頼などですね」


「なるほど・・・」


シドはしばし考え込む。モンスターと戦うのは当然として、遺跡での遺物捜索もやっていきたい。どちらかを選べと言われ、迷っていた。


<シドはハンターで登録しておくべきでは?>


<その心は?>


<今のシドでは遺跡での遺物捜索はともかく、システムデータの扱いは出来ません。その辺りはライトが養成所を卒業してから手を付けていくのがいいと思います>


<あ~、なるほど。じゃハンターで登録するか>


イデアの助言でシドはハンターとして登録する事に決めた。


「ハンターでお願いします」


「承知しました」


職員はシドの選択を受け、端末でシドの情報を登録していく。全ての情報が更新され、シドのハンターライセンスが発行される。


ランク20以上で、自分の専門を決定すると、それぞれの分野でのライセンスが発行される。


シドの場合は。黄色に変色された強化銀のライセンスで、シドの名前と登録番号・現在のランクが表示されていた。


「ランクに関しましては、これより依頼達成後の報告で変更があった場合、その都度更新されることになります」


「はい、わかりました」


シドは新たに発行された自分のハンターライセンスを受け取り、しげしげと眺める。


<これで俺も一人前って認められたってわけだな>


<はい、そうなりますね>


<ここまで長かっ・・・長かったか?>


シドがワーカー登録を行ってから約半年。通常で考えれば、ランク1から始まって専門ライセンスを取得するまでの時間で言えば異常なペースである。


だが、その分非常に濃密な半年だったと言えるだろう。


<これで防壁の中で自分の拠点を購入できます。今回の報酬を使って装備を整えましょう>


<そうだな!ミスカさんに連絡を入れて見繕って貰おう!>


シドは勇んでオフィスから出ようとする。が、そこに通信が一件入って来た。それはキクチからの通信だった。


「はい」


シドは通信を繋げる。


『よう、思ったより早く依頼が終わったみたいだな』


「そうだな、向こうじゃ大変な目にあったからな」


『みたいだな。お前の戦績を見て笑い転げるところだったぞ。ランク11のやつが上げる戦績じゃないな』


キクチは笑いながらそう言う。


「笑い事じゃないぞ。最後のは本気で死ぬかと思ったんだからな」


『まあそういうな。まだまだ戦績に対してランクが追い付いたとは思えねーがあまり急に上げ過ぎるのも問題だからな。これからはオフィスにも遺物の納品を頼むぞ。また調整依頼が出されるってのはあまり宜しくないからな』


「ああ、わかった。俺も今回で最後にしたいよ」


『ははは。これからもよろしく頼むぜ。しばらくは俺がお前の担当だ。ランクに見合った依頼を紹介するからよ』


「よろしく頼むよ」


『ああ、任せろ。じゃ、今後も良い探索を』


そう言いキクチは通信を切る。シドは今度こそオフィスを出て防壁の外に向けて歩き出したのだった。






東門の外、自由市が開かれる広場にシドは来ていた。


行商人であるミスカとガンスからまた装備を購入しようと考え、彼女達のトラックを探している。


<ん~、前はこの辺りだったんだけどな>


<毎回違う場所なのでしょう。連絡して場所を送ってもらえば探す手間が省けるのでは?>


<いやいい。なんかこうやって探すのも面白いし>




イデアと話しながらシドは自由市をうろつく。さまざまな大型トラックを見ながら歩いていると、見知った相手を発見した。


<お?あいつは>


<ビルですね。ミスカ達の所に行く途中でしょうか?>


自由市を歩いているのは遺跡でシドを襲い返り討ちに合ったワーカーの片割れのビルであった。




「おーい、ビル」


シドはビルに声を掛ける。ビルは声に反応し、辺りをキョロキョロと見渡しこちらに気づいた。


シドは久しぶりにあった同業者に会い少しテンションが上がる。


「おう、シド。久しぶりだな」


「そうだな、久しぶりだ。ビルは元気そうだな」


「まあな。ぼちぼちやってるよ。俺ももうすぐランク10になれそうだ」


ビルはあれからコツコツと実績を積みあと少しで壁越えを果たせる所まで来ていたようだ。


「お~、なるほど。がんばってんだな。ミスカさん達の所にいくのか?」


「ああ、弾薬の買いだめをしたいんだ。なんでか知らねーが、ワーカーオフィスが暫く閉鎖してて遺物の換金も弾薬の補充もままならなかったからな」


「・・・おう、そうだったんだな」


「ん?知らなかったのか?スタンピード直後だっただろ?」


「ああ、俺、スタンピードの際にランク11に上がってさ。本部の方に行ってたから・・・」


シドはワーカーオフィス出張所の原因である。だがそれを他人に話すわけにはいかない為、知らなかった体を装うことにした。


「なんだよ、もう壁越えしたのか・・・流石だな」


「まあ・・・その後、結構大変だったんだけどな・・・」


「そうか、お前もミスカ達の所に行くんだろ?この際だ、一緒に行こう」


「わかった。案内よろしく」




こうして二人は一緒にミスカ達のトラックに向かっていった。




「お~、シド、ビル久しぶりやな。」


「お久しぶりです」


「おう」


シド達がミスカ達のトラックを発見した時、ミスカは開店準備をしている最中だった。


「シドは防衛拠点で世話になったな~。ウチらのトラック守ってくれたん、あれシドやったんやろ?」


「はい、そうですね。偶然近くにいて俺が派遣されたんです」


「ほんま助かったで~。商品に手ぇ付けるかどうかホンマに迷ってたんよ。めっちゃすごかったってガンスが言うてたで。同乗者もえらい興奮してたわ」


「助けになれたならよかったです」


(同乗者?)


トラックはミスカとガンス以外の者が乗っていたらしい。


二人はミナギ方面防衛拠点での事を話す。あの時ミスカ達はモンスターに追い回され、商品の武器を持ち出すかどうかの瀬戸際まで追い込まれていたのであった。


「なんだシド?お前、東方の防衛拠点にまで行ってたのか?」


事情をしらないビルが聞いてくる。


「ああ、壁越えしたときに俺のランクが不自然に低いって事でランク調整依頼をかけられたんだよ。んで、配属先がミナギ方面防衛拠点だったんだ」


「壁越えして直ぐにランク調整依頼って・・・聞いたことねーぞ」


本来、ランク調整依頼が出されるのはワーカーオフィスから直接依頼が持ち込まれにくいシーカーが出されることが多かった。まだ分類別けも終わってない駆け出しに出される依頼ではない。


「めんどうな依頼だったぞ。一日中荒野を走り回ってモンスター駆除ばっかりだったからな。最後は化け物みたいなモンスターも出てくるし」


「そりゃ災難だったな。・・・っとそうだ、ミスカ俺の用事は弾薬と回復薬の補充を頼む。予算は20万コールだ」


「はいよ。ちょっと待っといてな」


ミスカは注文を受け、商品を取りに行く。


「ビルは今一人で活動してるのか?」


「ん?ああ、そうだ。防壁外のワーカーと下手につるむとえらい目に合うってわかったからな」


ビルはパートナーとして組んでいた相棒の暴挙でシドに殺されかけた経験から今はソロで活動している様だった。


「そうだな。仲間は信頼できるヤツの方がいいよな」


「・・・・・・まあそうだな、お前はどうなんだ?」


殺されかけた相手とは言え、原因はこちら側にある。それに、シド自身が悪性の人間という訳ではない為、会話位はしてもいい相手とビルは認識していた。


「俺も相棒が出来たよ。今は養成所だけどな」


「あ~、卒業できればランク10から始められるんだったな」


「そう。あいつが自由になったら本格的に活動する予定だ」


「なるほどな。まあ、死なない程度に頑張れよ」


「ああ、ビルもな」


ビルは当たり障りのない会話でミスカが戻って来るのを待つ。8段飛ばしくらいの勢いで自分の数年を飛び越えていったシドに思うところが無い訳でもない。だが、同じ第三区画出身のワーカーとしての親近感の様なモノは間違いなく存在していた。


「おまたせ~。ほいこれ、ビルの注文分やで」


ミスカが弾薬と回復薬を持ってきてカウンターの上に置く。


「ああ、サンキューな」


ビルはライセンスで支払いを済ませ、商品を持ってトラックの外に出ていく。シドはそれを見送り、自分の要件をミスカに伝えた。


「俺は防護服とまた長射程の銃が欲しいんですけど」


「なるほど、ご予算は?」


<イデア、どれくらい言うべきかな>


<今の資金が1億を超えていますね。 しかし、この後拠点や移動手段の確保の事を考えるとここは4000万コールくらいでいいのでは?>


<少なくないか?>


<それ以上の装備を持っても持て余すだけかと。もっと東部や北部に移動する際に考えればいいのでは?>


<それもそうだな>


「ええっと、4000万コールでお願いします」


「・・・・・それはまた・・・えらい高額商品をお望みで・・・」


「ま、まあ。今まで着てたのがこの前の拠点防衛戦でダメになったんで、もっと頑丈なのがあればと」


<抑えた予算でも多かったみたいですね>


<そうみたいだな>


脳内でイデアと会話しながら、シドは装備についてミスカと相談する。


「う~~ん。・・・なあシド。その装備って急ぐ?」


「え?いや、急ぎって訳でもないですけど」


「それやったら、また明日来てくれへんか?シドに会いたいって言うてるヤツがおんねん」


「?俺に会いたい人?」


「そうや。唐澤重工の営業マンやねん。シドの事なんでか知っとってな。合わせてくれいうて無理やり付いてきたんよ」


ミスカ達以外の同乗者とは唐澤重工の人間だったらしい。


「どうして俺に?」


「そりゃ、今まで誰にも見向きもされんかった銃を使ってるワーカーやさかいな。売り込みでもしたいん違う?」


<それは素晴らしい提案です。この銃を作った企業ならばさらに高次元の装備を開発していてもおかしくはありません>


何かと唐澤重工推しのイデアが賛成の声を上げる。


(また突拍子の無いモンが出てくるんじゃ・・・)


シドもKARASAWA A60の性能は認めている。この銃が無ければ2回の防衛戦では生き残れなかっただろう。だがしかし、あまりキワモノ装備ばかりで身を固めるのもどうかと考える。


「・・まあ、会うだけなら。買うかどうかはわかりませんけど・・・」


「よっしゃ、んじゃ明日また来てくれへんかな。今日はガンスと一緒に防壁内に行っとっておらへんねん」


「わかりました。また明日来ます」




シドはそうミスカに言い、トラックから出ていく。


ミスカはそのシドの背中を見送り、この数カ月間でさらに実力を上げてきたのだと実感した。


シドが軽く口に出した4000万コールという金額。大手のワーカーギルドでも即決しない金額であり、ダゴラ都市所属の個人で活動しているワーカーがポンと出すような金額ではない。これからもっと成長していくであろうシドにどこまで付き合って行けるだろうかと考えるミスカであった。


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