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「こういうお店も楽しいですね」




 王都へと戻ってきたグレーシカは、顔を隠すために仮面を被っている。だけれどもその声色から、彼女が今の状況を楽しんでいることはよく分かるだろう。





 彼女たちが足を踏み入れたのは、王都でも有名な商会である。

 基本的に子供一人で足を踏み入れるような雰囲気の場所ではないので、グレーシカはこの商会に来たのは初めてである。

 特に今足を踏み入れているお店は、貴族や平民の中でもお金持ち向けの商品が並べられている店舗である。

 王族とはいえグレーシカは、こういう商会にお世話になったことはない。





(真っ当な王族として生きているのならば、自ら商会に足を運ぶというより王宮に来てもらうのが自然だろうしなぁ。私、王女として扱われていた時だってこういう商会と接したことなかった。お母様が体調を崩していたからもあるだろうけれど……)



 そんなことを考えながら彼女は興味深そうに商品を見ている。



 前世の記憶を思い出してからようやく活動的になったグレーシカは、今まで必要なものを買いそろえるばかりでそれ以外の物を購入することはなかった。それはそこまでの余裕がなかったからと言えるだろう。




 ただルーイタはともかくとして、グレーシカはそれなりに身なりを整えている少女でしかないので一部の店員からは不躾な視線を向けられていた。

 そのような視線も当然だと思っているグレーシカは当たり前のように受け入れている。





(もっと自分のためのものを購入していきたいな。今の状況をどうにかするために強くなるのも重要だけど、自分磨きももっと頑張らないと)



 グレーシカはそんなことを考えながら、目を輝かせている。

 妹王女であるスレイナに贈り物をするという目的のためにここを訪れたわけだが、彼女自身の物も集めたいとそんな風に本人は考えている。





「ルーイタさん、どちらの方が似合います?」

「両方似合うと思うが」



 グレーシカが髪飾りを見ながら問いかけると、ルーイタはただそう答える。

 おそらく女性の髪飾りなどにルーイタはあまり興味がないのだろう。




(前世の私はあまりこういうものに興味がなかったけれど、髪飾りに心が躍るのはお母様の影響かしら)




 うっすらと記憶に残っている今世の母親。

 とても美しい人だったことは、グレーシカはよく覚えている。幼いころに亡くなっているとはいえ、印象に残る人だったとグレーシカは思う。



 その美しさから国王に見初められ、そしてグレーシカのことを産み落とした人。

 グレーシカは母親のことがとても好きだった。いつだって娘である彼女を慈しんでくれており、その笑顔を思い出すと穏やかな気持ちになる。





(色違いで購入して……いつかお母様の墓参りが出来た時に捧げるのもありよね。お母様はきっと喜んでくれるはずだわ)



 そこまで考えてグレーシカは何とも言えない表情になる。





(……でもこのまま私が王女としての役割を放棄して、自由に生きていくことにするのならば娘としてお母様のお墓には行けないのよね。やっぱりどうするか悩むなぁ)





 グレーシカはこのまま入れ替わりを告発することなく、国を出ることもありだとそう思っている。ただし母親のお墓に向かうのが難しくなるのは嫌だなと思っていた。

 側室とはいえ王の妃であった女性なので、ただの平民の立場で向かうのは難しいのであった。



「グレーシカ、両方買うのか?」

「はい。二つとも買います」



 一つは自分用に、もう一つは母親のお墓に持っていくために。



 そんな用途についてはルーイタに説明をすることはなかった。他にも自分用に何か買おうとも思ったが、髪飾りを二つ購入するだけでもそれなりの額になるのでそれ以上購入するのは諦めるグレーシカであった。



(もっとお金を稼ぐことが出来たら、色んなものを買いたいな。自分のお金でこうやって買い物をするのも楽しい)



 そんなことを考えながら、グレーシカはにこにこしている。




 次に彼女は妹王女への贈り物にするお菓子などを見ることにする。こちらの商会に置かれているものは飲食物に関してもそれなりの値段がするものが多い。

 一つだけなのにこんな値段がするのかと驚くようなものもある。

 またなかなか日持ちのしないお菓子などもあった。

 子供でも食べやすいものはどういうものだろう、とグレーシカは頭を悩ませている。





(……どんなお菓子が好きかとか、聞いておいた方が良かったかな。とりあえず甘いものなら子供は好きなんじゃないかなと思うし、そういうお菓子を買うとして……。もし食べられないということがあったら代わりに私が食べられるものにしよう)





 彼女が妹王女と会ったのは、まだ一度きりである。

 なので妹王女に関して知らないことが山ほどあった。寧ろ知っていることの方が少ない。



(あの子とまた会うのは楽しみだと思うけれど、仲良くなりすぎてもいずれこの国から去ることを選択するなら辛くなるかな……。でも“グレーシカ・ラシェンダ”の情報も集めたいし)




 グレーシカは今日も今日とて、これからどんなふうに生きていくかを悩み続けている。




 そうしながらも妹王女への贈り物を購入し、すぐにルーイタと別れて、グレーシカは王宮へと戻っていった。

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