第6話「森の守り人」

白い影――“森の守り人”は、静かにわたしたちを見つめていた。


「……風の娘よ。

この森は、いにしえの誓いにより、風を入れぬ。

さあ……おぬしの風を、わしに示してみよ」


守り人の声はやさしくも、しんと重たかった。


わたしは胸の呼び羽に手を当てた。

でも、ここは風が入らない森。

羽はまだ、かすかにしか光らない。


「どうしたものかの……」

笠松さんが小声で言った。


ハクも心配そうにわたしを見上げている。


(でも……ここまで来て、引き返したりしない)

(風はきっと、どんなところにも届くはず!)


そう思ったわたしは、そっと目を閉じて心の中で呼びかけた。


**「風よ……。

森の中にも、君の声を届けて。

守り人に、わたしたちの願いを伝えて――」**


すると――胸の羽がふわりと光った。

その光は静かに広がり、細い風の筋となってわたしのまわりに生まれた。


「……!」


森の空気が、ほんの少し動いた。

枝葉がかすかに揺れ、鈴の音がしゃらりと鳴った。


白い影が、ふっと目を細める。


「……やわらかい風じゃ……。

争うための風ではない……

だが――なぜ、この森に風を求める?」


わたしは深く息を吸い、しっかりと答えた。


「風が止まって、苦しんでいる場所がたくさんあるの。

わたしは、その風を取り戻したくて旅をしてる。

この森もきっと、ほんとうは風を待っているんじゃないかって……!」


守り人はしばし静かに揺れていた。

そして――


「……よかろう。

おぬしの風、受けてみよう」


その声とともに、白い影が大きく広がった。

まるで森じゅうに響くような風鈴の音が、からん、と澄んだ音を立てた。


「今一度、その羽に想いをこめよ――

森に、新しい風を――!」


「うん!」


わたしは羽に両手をそっと重ねた。

村のみんな、南の丘の花たち、風を待っている人たち――

その想いを胸にこめて。


「風よ――吹いて!」


ぱあっ!

羽が光を放ち、森じゅうにふわりと風が走った。


枝がざわめき、葉が揺れ、森の奥からさまざまな音が戻ってきた。


「……風が……入った!」


ハクがうれしそうに跳ねた。

笠松さんもにっこりとうなずいた。


白い影――守り人も、静かに笑んだように見えた。


「……この森も、長きにわたり、風を忘れていた。

されど……新しい風は、やさしいものじゃな。

これよりは……風を受け入れよう」


そして、守り人の姿はふわりと空へ溶けていった。

やわらかな風が、森じゅうをめぐっていた。


* * *


森を抜けるころ――

また、新しい便りが舞い降りてきた。


**「東の海辺に、風のない町あり」**


わたしは呼び羽に手を当てて、そっとつぶやいた。


「まだ、行くところがあるんだね。

次も、がんばろう」


ユラリ丸はふたたび帆を張り、東の空へと進んでいった――。

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