学校生活
「雄作君ー! ここはね、こうしてこうしてこうするの!」
学年一位だと言う茉子ちゃんに、授業そっちのけで勉強を教わる。
ちなみに、他の四人はとてもじゃないけど、授業はちゃんと受けておかないと勉強に置いていかれるらしく、残念だけど俺に教えている余裕はないとの事だった。
だからこそ、こうして授業そっちのけで勉強教えてくれる茉子ちゃんには頭が上がらないのだけど。
本人からするとすでに行きたい大学に入れるだけの勉強は終わっているので、特に気にする必要はないって話だ。
まあ、だからって気にしちゃうよね。
だもんで、一生懸命頑張っているのだけど。
「……ここになんかチョンって点の数が増えるだけで、そんなに意味変わっちゃうの?」
「そうだよー。だからメロディアス語って簡単なんだよねー。フランクリン語も別に難しくないんだけど、慣れてないのなら断然こっちだよー」
うん、アラビア語とかヒンディー語とかをネットてみてミミズみたいって思ってたけどさ、近いのは多分その辺りと言うか、今の俺には一緒に見える。
で、今リンゴを一つ下さいって文章を教わっているんだけど、途中の点を一つ多くしたら、リンゴを一つ奪うぞって意味に変わるって言うんだから恐ろしい。
とは言っても、日本語でも確かにちょっとした言い回しでも意味が全然変わるもんなぁ。
例えば、貴君とか貴殿なら尊敬語だけど、貴様ってなると昔はともかく今だと罵る言い方になっちゃうし。
知らない言葉を覚えるのってやっぱり難しい。
と言うか、俺英語ですら平均点取るのでひぃひぃ言ってたくらいだ。
メロディアス語なんかマジで頭に入ってこない。
一か月でやっと基礎的な文字覚えただけだものなぁ。
「はー、難しいなぁ」
「まあ、どうしても話し言葉は魔力で分かる言語に変換されちゃうものね。文章を音で理解できないのは難しいのかもしれないわ。とは言っても、いざ契約を結ぶとか書面で話すってなると必要だから、ちょっとずつでも頑張ろう! 勿論私達がサポートするけど、やっぱり雄作君も自分で意味が分かってた方が良いだろうしね」
そうやって、茉子ちゃんが優しく励ましてくれる。
とは言っても、間違いなくこれは俺の我儘で、それに応えてくれる優しさがありがたい。
今は周りの第二語学の勉強しているから、こうしてメロディアス語を教えてもらっているんだけど。
これが数学に変わろうと、科学に変わろうと、歴史に変わろうと、魔法技術学に変わろうと、体育以外なら何でもばっちりござれだからなー。
まあ、体育は男女別だから、そりゃ教わるなんてできないだろうけど。
そう言えば、こうして俺に時間を割いているにも拘らず、先週の中間テストでまた断トツの学年一位だったんだから、本当に凄い。
家でも全然自分の勉強している雰囲気じゃないのに。
それどころか、最近楓さんとなんか小難しい話しているんだよね。
俺にはもうチンプンカンプンで全然分からないのだけど、何度も楓さんが感心していたからなぁ。
勿論、違うよーって楓さんから指摘を受ける事もあるんだけど、今はもうお互いに対等に議論したり、より良い答えを導き出したりしているそう。
ちなみに、茉子ちゃん談だけど、自分以上に頭が良いかもしれないって思った初めての相手が楓さんなんだって。
だからか、二人は今じゃ姉妹みたくなっているものなー。
茉子ちゃんは皆に上手く甘える甘え上手さんなんだけど、楓さんも茉子ちゃんにはなんかどこか甘えている時あるし。
となってくれば、俺だって頭の良さとかは足りないとしても、心の支えとか、そう言うのにはなりたい。
だったら、やっぱり最低限の知識って絶対いるよな?
知能レベルもそうだけど、積み上げて来た知識とかにも差があったら、そりゃ会話が成り立たないだろうし。
「よし、じゃあ一人で解いてみる!」
「うん、頑張って」
意気込んだ俺に、茉子ちゃんがそうやって応援してくれる。
うん、環境は最高なんだし、これで頑張らないなんて嘘だ。
だから、やれるだけはやらないとなー。
「ぐへー、疲れたー」
「確かに、フランクリン語は難しすぎるぞ」
伸二の泣き言に、武がそう相槌を打つ。
どうも愛華さんと恵梨さんの専攻がそっちだったらしく、二人はそっちを選んだからさっきは別々に授業を受けていた訳だ。
「おう、メロディアス語もやべーぞ」
そう言って、一生懸命書いた俺のミミズを見せる。
「うへー、よくそんなミミズみたいなのを……やっぱこっちがマシじゃね?」
伸二が顔を顰めながら言うが、確かにフランクリン語ってラテン文字っぽい部分もあるからマシに感じる気持ちを分からんでもないけど、半分は絵が入るじゃん。
文字らしいけど、どう考えても絵じゃん。
無理だよ、俺絵心全くないのに、全く書ける気がしない。
だから、やっぱり俺はメロディアス語の方がマシかな。
「やっぱ日本語が一番だなー」
しかし、武のこの言葉に俺と伸二は即賛成した。
と言うか、日本国の文字が日本語で本当に良かった。
漢字、ひらがな、カタカナがこんなにも愛おしく感じられるなんて。
に加えて、
実は日本国だとこの術文字を使って、魔法の補佐をしたり発言させたりするそうで。
これがまた難しいんだ。
なにせ、ちょっとした濃淡や太さ、そして流し込む魔力の種類と質と量、それぞれで起こる現象がガラッと変わるみたいだから。
で、それを安定させるために科学技術が凄まじく役に立っていて、その科学技術では不可能と言われたことを可能にできるのが魔法技術って訳で。
この辺りは国家機密とか色々あるらしいんだけど、なんか、それはもう凄まじい。
どのくらい凄まじいかと言うと、普通にそう言うのに憧れた俺も武も伸二も、全員その道に進むのを諦めたほどだ。
いや、爆発して上半身が吹っ飛ぶくらい可愛いような学問とか、怖くてできません。
そんな怪我をしても、一日以内なら完治できる程度の軽傷だよとか言われたら、ねぇ。
恐ろしい世界だ。
勿論普通に死者が出る事もあるんだって。
うん、魔法も魔法化学も、科学魔法も皆こえーや。
流石に全部辞退しちまったぜ……。
化学と物理は前の世界と同じだから、自然とこっちになったけど。
それでも、普通に魔力がある世界だと知らない法則やらあるみたいで、結構苦労している。
まあ、危険がないから難しくなるくらい、全然良いんだけどな。
「術文字は流石の私でも難しいと感じるし、日本語こそ難しいと思うんだけどね」
茉子ちゃんが隣からそう話しかけてくるが、しれっと伸二の隣にいる愛華さんの視線が怖い。
いや、伸二に教えるからって自分の教室に戻らず、ずっとべったりだからなんだけど、なんか茉子ちゃんは嫌われているっぽいんだよね。
武の両横を陣取る双子も、睨んではないけど茉子ちゃんに良い思いしてないみたいだし。
本当になんでだろうね。
「貴女が言っても嫌味にしかなりませんよ。ほんっっっとうに性格の悪い……いえ、雄作さん。すみません、口が過ぎました」
と、我慢できなかったのか、愛華さんがそう口にした後、苦々しい表情で黙り込んでしまった。
伸二を見たらおろおろしているし、茉子ちゃんを見たら、なんか笑顔張り付けているなぁ。
その笑顔可愛くないぞっと思って、とりあえずほっぺをぷにっと痛くない程度につまんでおいた。
うん、目を見開いた後、デレっとしただらしのない顔になったけど、俺はこっちの茉子ちゃんのが好きだぜ。
って、とりあえず愛華さんとの件はいずれ解決しないとなぁ。
やっぱ伸二と武と過ごす時間も大事だから、誰かがいがみ合うのは好ましくない。
つっても、どうしても今の生活に慣れるのにまだまだ時間が掛かっているし、自分の事で精一杯すぎてどうしても二の足を踏んじまう。
結局、この後愛華さんは茉子ちゃんを徹底的に無視するし、双子もそうだし、茉子ちゃんは察した上で配慮したのか、俺にしか話しかけなくなっちゃったし。
俺も武も伸二も気まずくて仕方なかったぜ。
とりあえず一度トイレに逃げ込んで作戦会議をしたけど、武も伸二もまだまだお見合いラッシュなのもあって余裕がないとの事だ。
俺もVの準備もあるし、そもそも茉子ちゃん達と他のクラスメイトとの問題もあるからなぁ。
はあ、家と違って学園生活は問題山積みだぜ。
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