第10話 成長



 そうこうしている内に誕生日が来た。

 シャックスは6歳になった。


 これまでに過ごしたわずかな日々の中、シャックスはセブンに自分の誕生日を告げていた。

 今日は、シャックスの誕生日が来たので、お祝いをしたのだ。

 シャックスは去年と比較して、涙を流しそうになる。


 去年自分を祝ってくれた者達の顔が脳裏に浮かんだ。


 テーブルの上にはたくさんの料理があり、食卓にある花瓶にはミミとモモからの花が活けてある。

 そして、セブンが用意したプレゼントは五つもあった。

 プレゼントの内容は、剣と杖、弓。そして、地図。方位磁石だった。


「年頃の男の子が何を欲しがるのか分からないから、選ぶ時に悩んだけど……」


 とセブンは不安そうにする。


 シャックスは微笑んで、セブンと抱擁を交わした。


 セブンは「後は愛情」と、シャックスの額にキスをして六つめのプレゼントを贈る。

 シャックスは少し照れくさくなった。


 必要か必要でないかよりも、セブンが自分を思ってプレゼントを選んだという事実が、シャックスには嬉しく感じられた。


 去年のシャックスは三人の家族に祝ってもらった。

 ワンドやアンナ、サーズ達は何も言わなかったが、レーナ達からは生まれてきてありがとうの言葉とプレゼントをもらっていたのだ。


 レーナからは魔法の本を、ニーナからは石鹸や香水を、フォウからは筆記具をもらった。


 使用人の一部やカーラからも、美味しい料理やお菓子を貰ったのだった。


 過去を思い返したシャックスは自分がやるべき事を決めた。

 ワンドたちへ仕返しをすると。

 仕返しを終えてから、自分の人生をやり直すと決めたのだ。


 セブンには申し訳なく思ったが、気持ちは変わる事がなかった。


 シャックスが筆談でセブンに正直に告げると、セブンは残念そうな顔で「分かったわ」と言うだけだった。


 シャックスは少しだけ心が痛んだ。

 しかし、立ち止まるわけにはいかないと、己の心を叱咤する。

 

 セブンはシャックスがシャックスなりに考えたのならと、その答えを否定しなかった。


 弟子入りを願ったシャックスを受け入れ、修行を始めたシャックスを見守る事にした。


 翌日からセブンは、シャックスのための修行メニューを考えていく。

 知り合いなどに頭を下げて、色々と計画していった。


 それらの知り合いはセブンにとって友人なのではないが、信用のできる相手だった。




 数日後。

 起きて動きやすい服装に着替えたシャックスに、自信に満ちた表情のセブンが紙切れを見せた。


 それは修行のメニューだ。


 その内容にシャックスはドン引きして、冷や汗を掻いた。

 メニューは何十行にも及んでいたからだ。

 シャックスはセブンの顔とメニュー表を交互に見つめる。


 セブンはその内容に全く疑問を持っていないようで、小首を傾げながらシャックスの反応を不思議がる。


 今目にしているものは、ジョークなどではないのだとシャックスは悟った。

 

 しかし、強くなるためと思い、とりあえす修行をこなしていく。


 モンスターを一日百体倒すとか、七つの異なる魔法を同時に行使するなどとあるため、かなり内容がハードだった。


 それらは普通ならできない事だった。


 普通の人間であれば一日ともたない。


 シャックスは毎回、死にそうな思いを味わった。


 しかし、シャックスはそれらを地道に一つずつこなしていく。




 ある日は、川の中を泳ぎながら魚型モンスター、ブルーウォントと戦った。


 素早い動きで泳ぎ回る魚についていくのに、シャックスは苦戦した。


 何度か溺れかけて、近くで見守っていたセブンに助け出された事があった。


 だが何度かかけてコツを掴み、スムーズに泳げるようになった。


 そして、水の魔法で水流を操作し、モンスターを剣で倒したのだ。


 倒した魚は焼いて美味しくいただいた。




 またある日は、深い谷の底で、真っ暗な暗闇の中、岩石のモンスターと戦わされた。


 巨大な岩でできたそのモンスターは異常に硬く、耐久性があった。


 シャックスはなかなか倒す事ができず、苦戦した。


 問題はモンスターにあるばかりではない。


 周囲が暗くて見えないため、動きづらく、シャックスは何度も怪我を負った。


 しかし、生命の気配を察知する方法を身に着け、硬い体表を貫くため、炎と雷の魔法を合わせた攻撃で相手を倒した。


 モンスターの体の一部は防具にして、役立てた。




 さらにまたある日は、氷の張った湖の上で兎型のモンスター、ホワイトラビットと戦った。


 大勢いるホワイトラビットは弱いが、群れで敵と戦う生き物だった。


 何度も噛みつかれたシャックスは、歯型をつけて家に帰った。


 背中を噛みつかれたまま気づかずに帰った事もあった。


 シャックスはなかなかホワイトラビットを倒せなかった。


 一度に数匹は倒せても、全滅させる事ができなかったのだ。


 しかし、同時に行使できる魔法を100に増やし、それらの氷の魔法でホワイトラビットたちを貫いた。


 氷の魔法は雷の魔法に次いでシャックスの不得意な分野だった。


 アンナに真冬の中、屋敷の外に放り出された過去があったため、そのせいだ。


 大量に倒したホワイトラビットは異常繁殖していたため、近隣の村や町の者達に喜ばれた。


 ついでにその毛皮が防寒具となり、人々を寒さから身を守った。


 シャックスも、冬の防寒具に役立てた。




 シャックスの日常はこのように過ぎていったが、たまに突発的なトラブルを利用して、強さを身に着ける事もあった。


 それは、買い出しの時の話だ。


 他の町への移動のために利用した乗り合いの馬車で、シャックスはとある親子と会話した。


 その親子は、訳アリのようだった。


 貴族の男性にちょっかいをかけられた、母親と小さな男の子だ。


 貴族の男性には正妻がいたため、平穏を望む親子は、遠くへ移動しようとしている所だった。


 母親は、子供を身ごもった時に、その事を決意し、入念な準備をしていたと言う。


 その話はオブラートに包んで口にしていたが、シャックスは前世の経験からおおよその事を察した。


 話を聞いたシャックスは、自分やレーナの事を思い出し、彼らには幸せになってほしいと願った。


 そもそもその母親がそのような話をしたのは、シャックスに男の子が懐いていたからだ。


 窓の外の景色を見たがる男の子が、見づらくしていたため、シャックスが膝の上を貸していた。


 人見知りする性格の男の子が懐いたのを見た母親は、シャックスは信用できると判断し、今までため込んでいたものを吐き出したのだった。


 それは、母親が顔色を悪くし、シャックスが気遣って背中をさすっていた事も影響していた。


 シャックスは親の子の幸福を願わずにはいられなかったが、何事もなく目的地へ到着とはいかなかった。


 他の乗客と共に移動している中、馬車が盗賊に襲われたからだ。


「金目の物を出せ!」

「騒ぐな! 大人しくしていろ!」

「大人しく言うことを聞いていれば、命だけは助けてやる」


 盗賊たちはそう言ったが、約束を守る保証はどこにもない。


 そのため、シャックスは人々を守りながら戦う事になった。


 誰かを守りながら戦う事はシャックスにとって軽いトラウマだったため、緊張が強くなると魔法が出なくなる事があった。


 他の人間に危害が及びそうになると、動悸で苦しみもした。


 かばうために、何度か怪我を負ってしまう。


 しかしシャックスは、話を交わした乗客の親子を見て、自分の心を強く保ち、盗賊を撃退するために行動する。


 盗賊の一人が放った魔法を乗っ取り、相手を自爆させた。


 その後シャックスは、盗賊たちを数秒でせん滅する。


「お兄ちゃん! 強いんだね! わるいやつ、やっつけてくれてありがと!」

「本当になんてお礼を言えば良いのか、助かりました」


 親子を含めた他の乗客に感謝された。


「若いのにすごいな!」

「ありがとう! もうだめかと思ったよ」


 シャックスは照れくさくなって頭を掻く。


 この出来事で、シャックスは自分の欠点を一つ乗り越える事ができたのだった。


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