第12話 どうやら簡単には済まないらしい
宿に着き、ベットへ飛び込む。
「あ~しんど…」
セナに頼まれたからなのだろう、前の宿屋とは格段に違う。
まず建物が高い。
それにベットはふわふわで、窓からは国が一通り見渡せるほどだった。
「大丈夫っすか?長旅でお疲れっすもんね~」
フィーネは私のベットの横に来ると、私の顔を覗き込んできた。
「最後のお前の行動のせいでもっと疲れたわ」
フィーネは何の事かわからないのか首を傾げていた。
腹いせに彼女の髪をくしゃくしゃ掻き回すと
「にゃぁぁぁぁ!?!?!?」と予想外の行動に驚いたのか彼女は声を上げ後ろに飛び退く。
目を丸くさせ、ギョッとこっちを見てきたため、「これで、おあいこだよ」と言った。
フィーネはムスッとしながら髪を直すと、寝っ転がっていた私の腕を引っ張ってきた。
「ほら、起きるっすよ。まだ仕事あるんすから」
「あーお前の姉さんに会いに行かなきゃだよな。どこにいるんだ?この国のどっかには来てるんだろ?」
「っす、多分姉さんは…」
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「っ…冷えるわね」
夜風が窓から入ってきた。
普段なら私が寒がっていると、フィーネがゆっくり近づいてきて耳を触らせてくれる。
彼女の耳は少しだけ暖かくて、触っていると少し落ち着く。
(触ってたら、嫌こと一旦忘れられたから好きなよね…)
思い出すと、手が恋しくなった。
それと同時に2人のことが心配になる。
(ベルとフィーネ…大丈夫かしら)
そんなことを考えていると、自室の入口が騒がしくなった。
「…な、セナ!セナ、いるんだろう!?」
「なんですか…?父上」
少し声のトーンを落とし、睨むような形で父の方を見る。
細身で人間だと20代程に見えるが、実際は私の何百年も生きているエルフだ。
ニコニコしながら私に近づき、話しかけてくる。
「そんな怖い顔しないでくれセナ。この結婚が我がフォレス家にとって、どれだけ大事なことか君もわかっているだろう?」
「…」
「それにほらお役目もだ。まさか、うちの家族から2人目だなんて。他の兄弟も期待しているよ」
「…そうですね。すべてが上手くいくよう、どうか祈っていてください」
「大丈夫さ、君なら絶対上手くやってくれると信じているよ」
(さっきのが嫌味だとも気付かずにニコニコして、私の機嫌をずっと伺ってる。心の底から気持ちが悪い)
どんな種族だろうと、人の顔色を伺って会話することはあると思う。
けれども、エルフは特別だ。
権力者の顔色を伺い、時には利用し、時には欺く。
特に種族としてそれが、色濃く現れる。
「そろそろ明日に備えたいので、就寝させて頂いてもよろしいですか?」
「あぁ、もちろんだよ。おやすみ、セナ」
軽くお辞儀をして、父が出ていったのを確認するとベットに横になった。
「…ベル、フィーネ…」
2人の名前を呟きながら目をつぶった。
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「ほら、やっぱり自分の言った通りだったでしょ?」
「いや…フィーネ」
「予想通りだったす~姉さんのことだから、窓を開きっぱにしてると思ってたんすよね」
「わかった…わかったから…」
「ん?なんすか?」
「わかったから、早くお前の姉さんの部屋入れよ!!!」
「えー…もうちょっと怖がってるベルちゃんが見たいっす…」
「宿の外壁に張り付いてのに頭おかしいのか!!!」
フィーネ曰く、姉は同じ宿の最上階に泊まっているらしい。
毎度、ここに泊まるのが当たり前なんだとか。
最上階に行くには特別な鍵がいるらしく、それを手に入れるのは簡単では無い。
というわけで、フィーネが私をロープで引っ張りながら登ることになった…だが
「こんな高いとは思ってなかったよ!!!」
「いやー綺麗っすね、景色を見ると心が洗われるっす。ベルちゃんもどうっすか?」
「見れるか!!!」
最上階の窓の付近で2人で騒いでいると、空いていた窓からチラリと人影が見えた。
その人も私たちの声が聞こえたのだろう。
私が上を覗くと相手もこちらを覗き込んできた。
「…なにしてんだ、お前」
「あ、姉~さん~」
フィーネが手を振った先には、彼女と同じく猫耳を生やした人が変質者を見るようにこちらを見ていた。
「姉さん~可愛い妹から用事があるっす。中に入れてください」
その人は顔をしかめながらも部屋に入れてくれた。
そして私は部屋に着いた安堵感で「はぁ~…」と普段は出ないであろう声がついでてしまった。
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