第5話 どうやら猫を捕まえるらしい
ニャー…ンニャァ…
「ふむふむ…高くて下りれないそうっす」
「やっぱりそうだったのね。早く降ろしてあげましょ」
そう言いながら私たち3人は木の上の小さいな猫を見ている。
「冒険者になるためには簡単な依頼を1つこなしてもらうって言われたけど…こんな簡単なのでいいのか?」
「まあ、なりたいっていう気持ちは尊重してるんじゃないかしら?お金が貰えるか貰えないかはまた別問題だしね」
「そうっすよ~とにかく、早くこの依頼終わらせてベルちゃんも冒険者になって色んな国回れるようにしましょ!」
そう言ってフィーネは木の枝に手をかける。
フィーネはスルスルと木を登り、猫のいる枝までたどり着く。
「さすが猫の獣人だな」
「そうね…まあ、あの子もたまに降りれなくなってるけど…」
「…行かせて大丈夫だったのか?それ」
フィーネは穏やかな顔で、猫が警戒しないようにゆっくり近づく。
「ほら、おいでっす。怖くないっすよ~」
だが猫はフィーネの手が届く寸前、驚いて「ニャッ!」と鳴き、枝を伝って別の方向へ逃げてしまった。
「うわっ、ちょっ、待つっす!」
フィーネも慌てて追おうとするが、猫は器用に枝から枝へ、最後は地面に飛び降りて走り出す。
「うおっ、ちょ、待て!」
そう言って私は猫の背を追いかける。
「ベル!待って…!ほら、フィーネも行くわよ…って」
「せ、セナちゃーん…」
木の上でプルプルと震えながら、フィーネはセナに話しかける。
「…下りれないの?」
先程までの自信たっぷりのフィーネは気まずそうに木の上で頷いていた。
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「待てってば……っ!」
ベルは猫を追い、細い路地へと飛び込んだ。空気がひんやりと変わり、喧騒が遠のく。
猫の尻尾が角を曲がったのが見え、ベルも勢いのままに飛び出す。
ドンッ
「うわっ……!」
人影にぶつかり、ベルはよろめいた。とっさに腕が伸び、彼女を支える。
「大丈夫か?」
低く落ち着いた声。
見上げると、高そうなコートを羽織った若い男がいた。
20代半ばほど、鋭い灰色の瞳がベルを見下ろし、肩までの黒髪が揺れ、洗練された気品を纏っている。
「す、すみません!猫を追いかけてて……!」
ベルが慌てて謝ると、男はふと微笑んだ。
「猫……なるほど」
すると彼はその場から逃げようとしていた猫を簡単に抱き抱え、渡してきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
「ベルー!」
猫を受け取った所で、遠くからセナの声が聞こえてきた。
「あ、セナ…それにどうしたんだフィーネ」
フィーネは小刻みにブルブルと震えていた。
「何があったんだよこいつに」
「色々あったのよ…」
そう話しているとセナは先程の男性を見て目を丸くした。
「レオさん!一体こんな所で何してるんですか?」
「レオさん?」
「レオ・ハルベルトさん。この街のギルドマスター…えーと、この国の冒険者のリーダーみたいな人よ」
「ほぉ~そんな偉い奴なのか」
「ふふっ、面白い子だね君は。名前は?」
「ベルだ。ベル・スノーリフレ」
「そうか。ギルドマスターとして冒険者が増えることは歓迎だ。ぜひ頑張ってくれ」
そう言って彼は握手を求めてきたので、私もそれに返す。
「さて、美しいレディたちがこんな薄暗いとこにいるものじゃないよ…とくにセナくん、君のような結婚前の女性はね」
レオはセナの方を見て皮肉のようにそれを言う。
セナはその言葉を聞くと、強く拳を握っていた。
「…ご忠告ありがとうございます。レオさん。さ、ベル、フィーネ、猫は捕まえたしギルドに帰りましょ」
「はぁいーっす」
「お、おう」
私たち2人にそう言うとセナは早歩きでその場を離れた。
横から見たセナの顔は、いつもではありえないほど怒りの感情が出ている。
「セナ、大丈夫か?」
そう言うとセナはすぐに笑顔になり、こちらを向いた。
「えぇ…大丈夫。大丈夫よ。まだ…時間はあるもの…」
私はなんだか、これ以上、彼女のしかめっ面の理由を聞いてはいけない気がした。
そして… 彼女の笑顔は、どこか遠いものに見えた。
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