第2話 どうやら目的が決まったらしい

モグモグ


私は目の前に出された飯に食らいついていた。


「…おかわり!」


「はいはい、大丈夫よ。まだ沢山あるから」


セナに器を差し出すと、すぐに中身を注いでくれる。


木の実やキノコ、野菜を使ったスープは空っぽだった胃に染み渡った。


(たしかにキノコやら野菜の旨みもあるんだろうが…)


私は具材ではなく汁の味により感動していた。


「なんだっけ…出汁だったか?うまいな、それ使うと」


「ふふん、そうでしょう。そうでしょう。自分の国の特産品っすよ~」


そう言って私の隣にいた少女が誇らしげな顔をしている。


猫の耳としっぽが特徴的な獣人の少女…フィーネは自分の国のことが褒められて嬉しいのだろう。


銀色の髪から覗いている耳はぴょこぴょこと、しっぽはふにゃふにゃ動いている。


「いっぱい食べるといいっすよ!ベルちゃんみたいな小さい女の子の人間さんは特に」


「小さいって…お前私より小さいだろうよ」


「自分は全然小さくないっすよ~むしろ獣人なら普通ぐらいっす~」


(私より10cmくらい低いやつが何を言うか)


そう思ってジト目で彼女を見つめた。


彼女の名前は宮内フィーネというらしい。

獣人で、セナの冒険仲間なのだとか。


たしかに彼女の格好はセナと同じく、軽めのジャケットにショートパンツ、ブーツと動きやすいものだ。


「冒険者って具体的に何してんだ?」


「うーん、人によって違うのよね。単純に冒険したい人もいれば、人助けしたい人もいるから…」


「ちょっと前には魔王討伐画が目的の人もいたっすね」


「魔王?」


「えぇ、『グラディス』っていう国に最近まで魔王がいたのよ」


「魔物と人間が対立してる地域っすね。冒険者ギルドの前線基地でもあるんっすよ」


「魔王が『いた』って言うことは今はもういないのか?」


「そうっすね。転移者…あ、転移者って知らないっすよね?」


「いや、さっきセナに説明してもらったよ」


「お、なら良かったっす。で、その転移者さん達のパーティと人間の騎士団が魔王を討伐したらしいんすよ」


「なるほど、だからいないんだな…それで、お前らは何で冒険者何かやってんだよ」


「私たちはただ単純に冒険がしたい人達よ」


「元々お互い1人で行こうとしてたんすけどね~利害が一致したから一緒に行動してるんっすよ」


2人はそう言うとニコニコと向き合う。


…いい関係なんだろうな、と私は思った。


(セナは面倒見がいいし、フィーネは…まぁ、なんか元気だし)


「……」


ふと、スープの残りをすくいながら、私はぽつりとこぼした。


「…私には、そういう目的ってないな」


「え?」


セナとフィーネが同時にこちらを見る。


「いや、記憶がないからってのもあるけどさ。唯一目的があるといえば、何か…自分にとって大切なことを思い出すことだしな」


記憶が無い空間の中で、1部だけがモヤがかかっている。

まるで、クレヨンなどでそこだけを塗りつぶしてしまったようだ。


「ふふ、大丈夫よ、ベル。そういう旅もあるわ」


セナは静かに笑いながら言った。


「探してる“何か”が見つかるまでは、私たちと一緒にいましょう?」


「自分も賛成っす!ベルちゃんは、飯も食うし、元気もあるし、仲間として問題なしっす!」


「…なんだよ、その条件」


「重要なんっすよ~旅の仲間としては!」


そのやりとりに、思わず笑ってしまう。


(まぁ、悪くないか。今は)


そうやって平和な会話をしているうちに事件は起こった。


森の奥から「ズズ…ガサガサ…!」という不穏な音が響く。


「っ、何か来る!」

セナが立ち上がり、背負っていた弓を構える。


「魔物っすか…!」

フィーネもすばやく耳を立て、地面を蹴って跳びのいた。


木々の間から現れたのは、黒く巨大な四足獣。目は赤く光り、牙をむき出しにしてこちらに向かってきている。


「っ、自分が前に出るっす!」


フィーネが素早く駆け出すが、その魔物の体格と動きは予想以上だった。


「ぐぅぅぅうう!!」


魔物の咆哮が森に響き渡る。その声に、背筋がぞわりとする。


「フィーネ、危ないっ!」


セナが叫ぶのと同時に、魔物はフィーネ目掛けて突進してきた。


「くっ……!」


フィーネが跳び退いてかわすが、魔物の巨体は木々をなぎ倒しながら突き進み、地面を大きくえぐった。


「っ、速すぎる……!」


セナが矢を放つも、魔物の硬い毛皮に弾かれてしまう。


「ベルちゃん、下がってるっすよ!」


フィーネが叫び、前へ出ようとするその瞬間。


「セナっ、危ないっ!」


私の体が勝手に動いた。セナに向かって跳びかかる魔物に、思わず彼女に体当たりするように飛びついた。


「うわっ――」


私はセナを押し倒すような形で倒れ込む。


その拍子に、私の唇が、彼女の頬に軽く触れた。


目が合うと、私はすぐにセナから飛び退く。


「うわぁぁぁぁ!?ごめん!ほんとにごめんん!悪意はないんだ!」


セナも驚きの表情を隠せないのだろう。

顔が赤くなっている。


しかし、同時に彼女の驚きの顔は別の意味に変わる。


「せ、セナちゃん。どうしたんすか…その魔力量!」


(え……?)


フィーネの言っていることに困惑し、セナを見る。


セナは淡い緑色の雰囲気を纏っていた。


周りには彼女の雰囲気に共鳴するかのように強い風が吹いていた。


「なに、これ……?」


セナが驚いたように手を見る。


「精霊がすごい共鳴してる……力が、あふれてくる……!」


直後、セナは矢を一本構え、再び魔物に向き直る。


「これなら……っ!」


放たれた矢は、まるで風のような速度で魔物に突き刺さり――今度はその装甲すら貫いた。


「ぐおぉぉぉぉ!!」


魔物が苦痛に吠え、そのまま倒れ込んだ。


「す、すごっ……!? いきなり強化されたっすよセナちゃん!」


フィーネが目を丸くして叫ぶ。


私は自分の唇を軽く手で押さえる。


(今の……私が? あの時、セナに――)


「……もしかして、ベル。あなた……」


セナがこちらを振り返る。その目には驚きと、何かを確信したような強さが宿っていた。


「あなたの力、じゃない?」


「私の……力?」


「えぇ…!だって私あなたとキスしたら今までに無いくらい強くなったのよ!」


「精霊とこんなに共鳴したの、初めて!」


その発言を聞き、フィーネも何かを確信したかのように私に話しかける。


「ベルちゃん、もしかしてすごい人なんじゃないすか!?」


その目はとてもキラキラして、こちらを見ている。


「こんな子見つけちゃったらやることは1つっすよね!セナちゃん!」


「えぇ、もちろんよ。これは旅が楽しくなるわね」


そう言って2人は私に手を差し出す。

笑顔で微笑みながら


自分たちと行こうと、楽しいことが待っていると。


自分の力が何なのか、自分が何者なのかもわからない。


(でも…こいつらといれば…)


私は少し微笑んでで2人の手を握る。


「一緒に着いて行ってもいいか…?」


「「もちろん」っす!」


私の旅はここから始まるのだ。

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