水の大精霊様を癒し、
── 扉の先に広がっていたのは、大きな部屋だった。部屋は珊瑚や真珠貝など、美しい海の生き物たちで彩られており、その奥、部屋の突き当たりに大きな椅子が一脚置かれている。本来ならば、ここまで辿り着いたものを讃え、もてなすための部屋なのだろう。しかし今は、臥せっている一人の女性とその周囲を心配そうに飛び回るいくつもの青色の光の玉がいる部屋となっている。
「リア!クー!」
女性の傍で彼女に声をかけている二人に僕がそう呼びかけると、二人はこちらに顔を向ける。
「ユーリ!
「倒してきた。それより、大精霊様の容態は?」
「……もうほとんど余裕がない状態だね。かなり無理して穢れを取り込んでたみたいで……。」
僕はそんなリアの言葉を聞きつつ臥せっている彼女 ── 水の大精霊、サラキア様の様子を確認する。
── これは……よく今まで保ってたな……。
彼女の身体は7割ほどが穢れの影響で黒く変色しており、呼吸も苦しそうだ。
── アイリにはあんまりやらないでって言われてたけど……やむを得ないかな。
「リア。」
「何?」
「今から彼女の穢れを僕が何とかする。だけど、もし失敗しそうだったら……。」
「私が一部を負担すればいいんだね?」
「うん。お願いできる?」
「もちろん!」
「ありがとう。」
僕がリアに確認を取ると、既に覚悟していたようで、即座に了承が返ってくる。それを受けて、僕は一度息を吐き、いつもかけているペンダントを外した後、彼女の取り込んだ穢れに意識を集中する。
── 来い……!
僕がそう念じた瞬間、サラキア様の身体から穢れが黒い靄として飛び出し、僕の身体に吸い込まれていく。
── くっ……。久しぶりにやったけどきついなこれ……。さっきの反動もあるし……。しかも、何この穢れ?あり得ないくらいに濃いんだけど?一体何があったらこんな穢れが……?
僕はそんなことを考えつつ、どんどん穢れを吸収していく。
「ユーリ……。」
そんな僕の様子を見、リアがそう小さく言葉を漏らす。リアも穢れを溜め込んでいたから分かるのだろう。今僕のやっていることが、どれだけ危険で、きついことなのかが。だけど……。
「……助けられる命を助けられないのが、一番嫌なんだよ……!」
僕は歯を食いしばりつつそう呟く。そして全ての穢れを吸収すると、それを左手の人差し指へと集めていく。
── すると、人差し指に変化が現れる。徐々に黒く染まっていった人差し指が、僕の意思に反し、めちゃくちゃに動き始める。
「何、これ……?」
「拒否反応、だよ……。限界を超えた、量の、穢れが溜まったせいで、身体が、異常な、動きをするんだ。」
それを見たリアの問いに、僕は途切れ途切れに答える。
── これで、全部!
そして全ての穢れを人差し指に移すと、僕は小刀を取り出し、そのまま人差し指を切り離す。
「!?」
「封印!」
その僕の行動にリアが目を見開く中、僕は予め準備しおいた封印の魔法を発動する。幾重もの結界の中に閉じ込められた僕の指は、しばらく暴れ回っていたかと思うと、やがて闇色の結晶へと変化していく。
「ふぅ……。」
その結晶を封印ごと虚空に収納し、僕は無意識のうちに止めていた息を吐き出す。
「これでよし、と……。」
「良くないよ!指が……!」
「大丈夫。これくらいなら……。」
ぼくは虚空からポーションを取り出し、それを傷口に振りかける。すると、傷口から新たな指が生えてきて、元と同じ状態となる。
「ほらね?」
「よかった……。……でも、そんなことやるなら先に言っておいてよ……。急に指を斬るなんて、見てる側からしたら衝撃でしかないんだよ?」
「ごめんごめん。」
どこか起こった様子のリアに僕がそう謝っていると、先ほどまで臥せっていた女性が体を起こす。
「うぅ……。……あら?穢れが……。」
穢れが綺麗さっぱり消え去った自分の身体を不思議そうに触りつつ、彼女は辺りを見渡す。そして僕たちに気づくと、何があったかを悟ったような顔をし、こちらに頭を下げてくる。
「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
「頭をあげてください!」
そんな彼女の行動にあわてて僕がそう言うと、彼女は頭を上げる。
「あなた方がアルノーの言っていた?」
「はい。契約で、魔力を補填するために来ました。」
「そうですか……。……では、早めに盟約をしてしまいましょうか。」
「そうですね。」
そんなやりとりを経て、僕はサラキア様と盟約を結ぶ。すると、どこかくすんだような色をしたていた彼女の髪や瞳に輝きが戻り、どこか辛そうだった顔も穏やかなものへと変化する。
「……ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。……ところで、なぜあのような状態に?この辺りには穢れを発するようなものは無かったと思うのですが……。」
彼女からのお礼を受けつつ、僕はずっと疑問に思っていたことを問いかける。
「……実は……。」
すると彼女は、僕の想像もしていなかった真実を口にするのだった。
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