精霊術士の家族に遭遇し、少女は穢れを浄化しました。

── リア 視点 ──


先を行く精霊さんに着いていく形で建物に足を踏み入れた私は、その内装に驚かされることになる。


建物の中は、その外見とは異なり、体を休める椅子や飲み物を冷やしている魔導具など、高級旅館にも引けを取らないレベルの設備が整えられていた。


〈こっちだよ〜。〉

 そういう精霊さんに促されるまま服を脱いだ私は、建物の裏手にある温泉に繋がっているらしい扉を開く。


「んぁ……?誰か来たのか……?」

〈ユーリ君が連れてきてた子だよ。〉


扉の先には、こんこんと湧き出る温泉をなみなみと湛えた石造りの湯船に浸かる一人の女性がいた。若葉色の長い髪に空色の瞳をで、出るとこは出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいるという、非常に女性らしい体つきをしている。そして、何より特徴的なのはその耳だ。その耳は人族ヒューマンとは違い、その先が尖っている。


「あいつが……?そりゃ珍しいな。」


そう言いつつ湯船から立ち上がった彼女は、私のことをじっと観察するように見つめてくる。


「ふむふむ……。獣人アニマノイドか……。……あいつが連れてくるわけだ。あんた、名前は?」

「リ、リアです。」

「リア、ね。……やっぱりか……。」

「あ、あのっ!」

「何だい?」

「あなたが、ユーリのお師匠さんですか?」

「ああ。それがあいつに精霊関係のあれこれを教えた師匠ってんなら、そうだよ。」

「ちなみに、お名前は……。」

「ん?あいつから聞いてないのかい?アタシはサリア。『流離の旅人』って呼ばれることもあるね。」

「えっ!?あの『流離の旅人』ですか!?」


『流離の旅人』といえば、世界に5人しかいないSランク冒険者の一人で、水属性の精霊魔術を巧みに操る冒険者だ。攻撃はもちろん防御、回復まで一手に引き受けられるその能力から、史上最高の精霊術士と呼ばれている。


「まあ、それはそれとして……。あんた、よく今まで大丈夫だったね?」


すると突然、サリアさんがそんなことを言う。


「?何のことですか?」

「その穢れ・・だよ。そんなに溜め込んで、よくこれまで何の影響も無かったね。」

「穢れ……それって、どういうものなんですか?」

「穢れってのは、モンスターの討伐時や自分自身が傷ついた時。誰かが誰かに悪意を抱いた時なんかに生まれる負のエネルギーのことさ。これが溜まれば、体調に違和感が出てくるのはもちろん、マイナスな気持ちになりやすくなったり、最悪当然のように相手を傷つけたりするようになる。そういうものさね。」

「へー……。」

「そんな穢れだけど、普通の人はそれを溜め込みすぎないよう、無意識のうちに放出しているんだ。……だけどたまに、それができない人がいる。そういう人は、大抵穢れを溜め込み過ぎて精神がやられちまう。仮にそうはならなかったとしても、周りから孤立したりしちまう。人は無意識に穢れを避けようとするから、穢れが溜まった相手になんて近寄りたくないんだろうさ。」

「そう、なんですね……。」

「その体質をなんとかできるのが、この温泉さ。ここは身体の汚れだけじゃなく穢れも落としてくれるからな。」

「そんな効能が……?」

「ああ。なんてったって、ここが神癒しんゆの湯だからな。」

「えっ!?」


その言葉に、私は思わず声を漏らす。


「神癒の湯って、私たちの先祖が神との戦いでの傷を癒やしたっていう、あの!?」

「ああ。……というかあんた、やっぱり銀狼のとこの出身か。」

「あ……。……えっと、このことは……。」

「分かってるよ。アタシは他人の秘密を話すようなことはしないからね。それより、手伝おうか?その穢れを1人で落とすのは大変だろ?」

「ありがとうございます。」


私は彼女に促されるまま近くにあった背もたれのない椅子に腰掛ける。


「メル。手伝っとくれ。」

〈いいよ〜。〉


そんなやりとりの後、私にあたたかなお湯がかけられる。身体の芯まで温かさが伝わってくるそのお湯は、私の髪の上を流れていく間にどんどん黒く染まっていく。


「わっ!?」

「かなり溜め込んでるなとは思ってたけど、ここまでとはね……。」

「何ですかこれ!?」

「それが穢れだよ。ここのお湯は、穢れを洗い流してくれるんだよ。」

「へー……。」

「とりあえず、あんたの穢れを落としきっちまおうかね。」


── 数分後 ──

「── これで十分かね。」


しばらくの間彼女に髪を洗ってもらい、うとうとし始めた頃、彼女はそう言う。


「あ……終わったんですか……?」

「ああ。見てみるかい?」


そういうと彼女は、水でできた鏡を私の前に移動させる。そこには、


「うわぁ……!」


温泉の明かりを反射してキラキラと輝く白銀の髪と透き通るような碧い瞳に変化した私が写っていた。


「だいぶ綺麗になったな。……あいつのことだから、きっとその体質を緩和する準備をしてるはずだし、それに関しては今は考えなくていいな。……とりあえず、あんたも一緒に暖まろうか。」


そう言って再び湯船に浸かる彼女に続くように、私も湯船に浸かるのだった。

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