精霊王と盟約を結び、

── リア 視点 ──

「!?何を……!」


精霊王様が指を鳴らした瞬間、形容しがたい不快感に襲われた私は、音もなく崩れ落ちたユーリさんを支えつつ思わず精霊王様を睨みつけしまう。


「へぇ……。……君も、その穢れがなんとか出来れば精霊と仲良く出来るかもね。」


そんな私を見、精霊王様はそう口にする。


「今のは……。」

「盟約のための、準備だね。普通の人だと何も感じないけど、精霊と相性のいい人は何か心が落ち着く感じがするんだよ。……一瞬で寝ちゃうのは珍しいけど。君の場合は、その穢れのせいで不快感になっちゃったみたいだけど。……そろそろ盟約を始めたいから、彼から手を離してもらってもいいかな?」


そんな彼の言葉に従い、私はユーリさんから手を離す。


「── 親愛なる隣人よ。」


すると、眠っていたはずのユーリさんがひとりでに立ち上がり、そう言葉を口に出す。だけど、目は閉じたままだし、何よりさっきまでの彼と雰囲気が違う。


「汝、何者なりや?」

「ユーリ=シスト。」

「汝、何を欲す?」

「恒久の平和と世界の安寧を。」


それに驚いた様子もなく、精霊王様は言葉を返す。そして、


「汝、盟約の文言を。」

「ユーリ=シストの名に於いて、盟約を望む。」

「アルノー=リストリアの名に於いて、盟約を結ばん。」


そんなやりとりが行われた瞬間、ユーリさんを中心に膨大な魔力が吹き荒れる。そして彼は何事もなかったかのように、またゆっくりと倒れていく。


「今のは……。」

「これが僕との『盟約』だよ。……まさか、ここまでとは思ってなかったけど。」


思わずこぼれた私の言葉に、精霊王様も言葉を返す。そんな彼が見ているのは、周囲の水晶花スノークリスタルフラワーだ。先ほどまでは透き通った色で天井の光を反射していたそれらは、ユーリさんの魔力の影響を受けて、今では虹色に輝いている。


「……ところで、一つ伺ってもいいですか?」

「君の穢れ・・のことかな?」

「はい。……精霊王様は、これが何かご存じなのですか?」

「そうだね。珍しくはあるけど、それについてはよく知ってるよ。」

「でしたら……!」

「残念だけど、それは僕にはどうしようもないよ。下手に他者に干渉すれば、どっちも危険だからね。」

「そう、ですか……。」

「でも、彼だったら何とかできそうだよ?心当たりもありそうな感じだったし。」


彼がそう言った時、ユーリさんが軽く身じろぎをする。


「ユーリさん!」


身体に異常がないかたしかめるべく、私は彼に駆け寄っていった。


── ユーリ 視点 ──

「── さん、ユーリさん!」


僕を呼ぶ声に導かれるように、僕は微睡みから目を覚ます。目を開けると、僕の顔を覗き込むようにしているリアさんが目に入る。


「大丈夫でしたか!?」

「うん。……むしろ、調子がいいくらいだよ。」


僕は体の調子を確かめつつ、そう返す。


── すごいな。今までになく魔力が身体中に行き渡ってる。それに、量が明らかに増えた。流石は精霊王様だ。


「その様子だと、問題はなさそうだね。」

「はい。この度は、ありがとうございます。」

「お礼なら、むしろこっちが言いたいくらいだけどね。……それで、同僚だいせいれい達のことだけど……。」

「確か、炎、水、風、土属性でしたっけ。」

「うん。……そうだ。いいものをあげよう。」


そんな彼の言葉と同時に、僕の頭の中に地図が浮かび上がる。


「ヴァルク大火山に、テティ海底遺跡、森人エルフの森の神殿に、ラウン大鉱山……。」

「ちゃんと届いたみたいだね。四人は、これらのダンジョンの奥にいるはずだよ。……シルフィは例外だけど。」

「ありがとうございます。」

「それで?最初はどうするの?」

「そう、ですね……。」


── うーん……森は遠いし、海は専用の装備がむりだし……。


「……とりあえず、はじめはヴァルク大火山に向かおうかと思います。あの辺りの精霊ならある程度顔見知りの精霊もいますし、あそこなら装備もそろえられるでしょうし、それに……彼女のためにも、そこに向かうのが一番ですしね。」


僕はリアの様子を見つつ言う。僕の心当たりもあの辺りだし、もし当てが外れてもあそこならなんとか出来る装備も作れるだろうしね。


「分かった。それじゃああっちにも一応連絡は入れておくね。」

「お願いします。」


最後にそんなやりとりを交わし、僕達は精霊王様の元を後にした。


「── ユーリさんは、どうして冒険者に?」


返りの道すがら、リアがそんなことを聞いてくる。


「そうだね……。僕の場合は、その方が楽だったからかな。」

「楽、ですか……?」

「うん。さっき見せたとおり、僕の家系はちょっと変わっててね。そのせいで、昔からよく陰口を言われてたんだよ。」

「それは……。」

「それで、実力主義の冒険者になればそんなこともないだろうって思ったんだよ。事実、昔よりは大分ましになったしね。」


例外はいたけど。


「それより、今からのことに集中しようか。」


僕は、今日の最後の目的地 ── 冒険者ギルドに到着していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る