便利屋
オークの巣窟から出た僕たち三人は、もと来た森を引き返してアシェ村に戻ってきた。言葉にすれば一行だが、当然森を戻っているときもエリスさんとリーナさんのあられもない姿は僕の目線と意識を翻弄し続け、歩いているだけで妙に神経がすり減った気がした。
アシェ村に帰還したときには夕暮れになっていた。日が傾いたことで外を歩いている村人の姿はまばらだ。帰る道中でリーナさんから聞いたが、今夜はここで一泊するらしい。
「宿屋に向かいましょう。……ええっと、どこかしらね?」
日中の武具屋を探すシーンが脳裏に蘇った。やばい、またそのへんを歩いている少年に声をかけられてはたまったものではない。将来が歪んでしまう被害者が増えるだけだ。
「て、適当にそのへんを歩いてみようよ!」
「うーん、人に聞けば手っ取り早いんだけど……まぁいいわ。歩きましょう」
「うん、いこいこ!」
そう言ってエリスさんはリーナさんと仲良く並んで歩き始めた。
二人のお尻側の腰布が揃って左右に揺れる様は何とも贅沢な景観に思えた。相変わらず人の営みがある場所をこんな素肌むき出しの格好で、しかも裸足で歩くというのは、いつ見ても非常に浮いて見える。
オークの巣窟での緊張感が解かれた僕は、そんな二人のお尻をぼーっと眺めながらついて行っていたが――
「相変わらずいいケツしてんなぁ!」
まるで僕の思考がそのまま言葉として外に押し出されたように、後方から威勢の良い声が飛んできた。
「!?」
真っ先に僕は振り返った。
――そこに立っていたのは、長身で、ガタイの良い上半身を黒い鎧で覆った、短髪黒髪の男だった。立っているだけで目立つほどの屈強さを全身から放っていたが、更に目を引くのは、彼の背中には自身の身長ほどもある長い大剣がぶら下がっていた。
「えっ!? えーっと……」
全く見覚えのない人物、かつ今しがた投げかけられたストレートなセクハラ発言に僕はリアクションを取れないでいると、
「ジェドー!? なんであんたがここにいるのよ!」
今度はリーナさんが予想外のセリフを吐いた。
「ジェドーさん! 来てたんだ!」
エリスさんも知っている人のようだ。
間に立って僕は双方を見比べる。
「え、あ、それぞれ顔見知り?」
「この人は便利屋のジェドーさん。リュシーラの住人で、ディラメルの酒場にもよく来てくれてるよ」
「何が便利屋よ。こいつはただのスケベおやじよ」
エリスさんの丁寧な紹介と、リーナさんの雑な紹介が何とも対照的だったが、どっちもしっくり来る表現に思えた。
ジェドーさんはニヒルな笑みを浮かべる。僕よりもずっと年上で、頼りがいのある男性と言った雰囲気だ。
「おいおい、元カレに向かってそんな言い方はひどいんじゃないか?」
「はぁ!? 何が元カレよ! 前にたまたまクエストで一緒になっただけじゃない! あのときはよくもあたしを――!」
「おっと、それ以上は外で言うもんじゃないぜ。周りが引いちまう。それで、そちらの青年は誰だい?」
リーナさんの噛みつきを華麗にスルーしたジェドーさんは僕に目を移した。
リーナさんが一体何をされたのか正直知りたかった……という欲求を抑え、僕は自己紹介した。
「あ、ヒロクって言います。ええっと、僕は踊り子さんたちの……」
「踊り子たちを
「い、いえいえ! 違いますよ!」
妙にドキッとさせられる言葉をぶつけてくる。さっきのリーナさんのときもそうだが、人をいじるのが好きそうなタイプだ。
「僕は、なんというか、踊り子さんたちの支援役です。僕は踊り子にしか効かない回復術を持っていて……あ、回復だけじゃなくて強化とかもできるんですが……その能力でエリスさんとリーナさんをサポートしているんです」
たどたどしい説明は伝わっただろうか。
「回復? 強化? そりゃすげぇ。魔法みたいだな。どうやってやるんだ?」
「おっと、それ以上は企業秘密よ」
リーナさんがすかさず割り込んできた。確かに、踊り子の体を撫でたり揉んだり――とか言ったらまたジェドーさんにかき回されそうだ。
「エリスたちはさっきオークの巣窟を潰してきたところだよ。ジェドーさんは便利屋の仕事でアシェ村に?」
「ああ。俺もオーク関連だぜ。奴らに壊された家の改修だの畑の手直しだのを手伝いに来ている」
(し……至極真っ当な仕事ーーー!)
口ぶりは無遠慮だが、その筋骨隆々の肉体に相応しい重労働をこなしているようだ。
その上で僕は違和感を抱いていた。
「あの……ジェドーさんこそオーク討伐に相応しそうな気がするんですが」
僕はジェドーさんの背中に背負われたとんでもなくでかい大剣を見やる。その装備、そしてこの雄々しい体格――オークの巣窟に踏み込むとしたら、半裸の踊り子よりもこの人の方が明らかに合っている。ギルドが他にあったとしたら、ギルドマスターでもやっていそうな風貌だ。
この世界には踊り子以外に戦える人がいないと日中聞かされたが、どう見てもジェドーさんは戦える。
しかし――
「あー無理無理。怖ぇもん。死ぬのもやだし」
う、嘘だろ……この
「じゃあその背中にしょっているそれは……?」
「ああ、便利なんだぜこれ。薪割りとか草刈りとかできる。木の枝も切れるな。あとモンスターが現れたらとりあえず振り回してビビらせて、その隙に逃げることも可能。化け物退治なんざ踊り子さまたちにお任せよ」
――これほどまでに宝の持ち腐れという言葉が似合うケースはあるだろうか……。
どうやら本当に、この世界の人たちは戦うという思考が皆無のようだ。
「それによ――」
ジェドーさんは素早く僕に近づいて耳打ちしてくる。
「モンスターと戦う踊り子の姿って、正直見ていてグッと来るものがあるだろ?」
……ちくしょう分かるーーー!
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