未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~2

「おはよう、叔父さん! なに作ってるの?」


 椛音はそう言いながら、キラキラした目で俺の手元を覗き込む。そんな椛音を周囲の料理人たちは微笑ましげに見つめている。

 ……椛音は本当に愛されているな。

 がさつなところも多いが、いい子に育って本当によかった。


「なにを作ってるか、当ててみたらどうだ?」

「むむむ……」


 少し意地悪な口調で言えば、椛音は俺の手元を見つめながら真剣な表情で唸る。

 それを見た周囲からは「勇者様、頑張ってください!」などという椛音を応援する声が上げった。


「粉を手で混ぜてるってことは……うどん! うどんでしょう!」


 たっぷりと考え込んだあとに、椛音は俺を指差しながらそう言った。


「うん。当たりだ」

「やったー! 今日のお昼は叔父さんのうどんかぁ」


 正答したのが嬉しいのか、うどんが嬉しいのか、椛音は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び回る。


「椛音。今日は儀式とか修行とかはないのか?」


 椛音は旅に出る準備のため、毎日忙しく飛び回っている。こんなにのんびりとしていていいのだろうか。


「今日はお休みなんだよ。だからゆっくり過ごすんだ」

「遊びに行ったりしなくていいのか?」

「うーん。アリリオに城下町に遊びに行こうって誘われたけど、疲れてるし断っちゃった。それに、アリリオとはいつも一緒にいるし休日まで一緒っていうのもね?」


 訊ねてみれば、椛音はあっけらかんと容赦ないことを言い放つ。

 アリリオ殿下、無念だな。恋する少年が落ち込む姿を想像し、俺は内心涙を流す。

 殿下のわかりやすい片想いは城内でも周知の事実で、皆がそれを応援している。周囲の料理人たちも椛音の言葉を聞いて、がくりと肩を落としていた。


「……椛音が食べるのなら、食べでがあるように肉うどんがいいかな」


 この世界には『醤油』が存在しない。なので洋風スープで、うどんを煮てから食べることになる。

 自分一人なら野菜を盛ってさっぱり食べるか……などと思っていたが、椛音が食べるならもっと食いでがあるほうがいいだろう。


「肉うどん、食べたい!」

「じゃあ、そうしようか。なんの肉がいいかな……」

「あっ、私いいもの持ってるよ!」

「いいもの?」


 椛音はにやりと笑うと、自身の腰につけているマジックバックに手をかける。

 マジックバッグは大量のものが収納できる魔法のバッグだ。わかりやすく言えば、四◯元ポケットである。

 椛音はごそごそとマジックバッグを漁ると、とあるものをずるりと引きずり出した。

 それは……死んだアナグマのようだった。

 ただしサイズは、ふつうのアナグマの三倍程度で爪も見ていてぞっとするくらいに鋭い。


「椛音、それなんなんだ?」

「ああっ! それってオボロアナグマじゃないですか!」


 女性の料理人が、椛音が取り出したものを目にして血相を変えてやって来る。

 その勢いに、俺は少しばかり気圧されてしまった。

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