第12話
「さて、それじゃあ晴れて仲間になった訳だが……まずは情報交換と行こう」
「情報交換?」
「そうだ。具体的にはこのダンジョンに関するお前の知識を借りたい。さすがに数百年規模で彷徨っているなら、俺より詳しいだろうしな。それを聞いたうえで、俺がゴールまでの道筋を探る」
「なるほど」
軽く頷く彼女に、俺は人差し指を立てて問いかけた。
「それじゃあ質問その一、お前はどの階層まで潜ったことがある?」
それは最初に確認すべきことで、最も重要な事でもある。先ほど彼女が見せたステータスからして、ダンジョン内のモンスター自体はおそらく敵ではない。問題なのは、迷宮というダンジョンの特性。要は、ダンジョンとは入った者を迷わせるようにできているのだ。
その為、まずは彼女がどこで迷っているのかを尋ね――。
「私はこの一つ前の階層、湖のある階層で足止めを喰らっている」
告げられた言葉に、俺は内心舌打ちするのだった。
(使えねぇ)
§
エラルカを連れて俺は四十五階層へと舞い戻ってきた。
曰く、先程まで話していた螺旋階段と滝、そして謎の小部屋は四十六階層ではなく、エラルカが自らの手で作成したものらしい。
次の階層へ続く階段が発見できなかった彼女は、壁を破壊すれば次の階層へ向かえると考え、その人外じみた力でガツガツと掘り進めたそう。
しかし掘っても掘っても何も出ず、仕方がないので部屋を作り、滝を流し、見栄えの美しい空間を作って、日がな一日中螺旋階段の中央でぼんやりしていたのだとか。
頭がおかしくなりそうな生活だな。
……いや、頭がおかしいからそんな生活をしていたのか。
どっちでもいいか。
「とにかく、そういうことなら……次の階層への階段はこの先だろうな」
そう言って俺が指さしたのは、水龍が泳ぐ巨大な湖。
「この先、と言われても水しかない」
「あぁ、水の中って意味だ。調べたのか?」
「一応調べた。けどそれらしいものは発見できなかった。それ以降は、暗いし怖いからあまり近付いていない」
「……そっか」
怖いってなんだよ怖いって。
子供か?
なんて思いつつ、湖をちらり。
水の底は全く伺い知ることができず、ただ薄らぼんやりと水龍のシルエットが蠢いて見えた。
(……いや、やっぱ怖ぇわ)
おそらくモンスターはエラルカの相手ではないが、そうではない根源的な恐怖があるのだろう。
人のこと言えないけれど、ここで怯えた姿を見せても意味がない。
エラルカは重要な駒だ。
実力差という意味では、俺が一生かけた所で追いつけないだろう。
だが、だからと言って弱弱しい姿を見せていれば舐められる。
今後のことを考えると、それはあってはならない。
故に、俺は不安も恐怖も咀嚼して喰らい、精々強がってみせる。
「ちなみに、あの水龍を倒すことはできるか?」
「水龍……? アクアサーペントのことか? 倒すのは問題ない。このダンジョンに……少なくともこれまで出会ってきたモンスターで私より強い奴はいなかった」
彼女の口ぶりからして、昔はアクアサーペントという呼び名だったのだろう。
意外なところで彼女が大昔に閉じ込められた天使だと実感した。
言葉も通じているし、本当かどうか分かったものではなかったからな。
「そう言えば聞いてなかったけど、エラルカのステータスってどれくらいなんだ? 天使っていうぐらいだからかなりレベルが高いんだろ?」
「……ステータス? すて、すて……あぁ、あれか。最近は全く見ていなかったな」
エラルカは頭を抱えながら思い出し、空色の瞳で虚空を見つめる。
ステータスを見ているのだろう。
通常、他人のステータスを見ることはできない。
特殊な魔法を使えば閲覧可能だが、俺は使用できない。
しばらくするとステータスチェックを終えたエラルカが視線を戻し、淡々と答えた。
「私の現在のステータスはレベル277だ」
「……ほう」
「攻撃力など、細かい数値も教えた方がいいか?」
「そ、そうだな。教えてくれ」
そうして告げられたステータスは以下の通り。
―――――
名前:エラルカ
種族:天使
レベル:277
攻撃力:492
防御力:240
敏捷力:554
魔力:772
スキル:『天使』外敵に対して攻撃力が上昇する。
状態異常:『怨嗟』目的を果たすまで心が晴れることが無い(復讐心に+1000『累積値2200』)。
―――――
うん、あれだな。
(こんな化け物に殴られて、俺よく生きてたな)
すでに痛みの引いた右頬を擦りながら、そんな寸感を抱いた。
「それで、どうするんだ?」
「湖の中を捜索するにしても、とにかく水龍を倒さなきゃ無理だ。引き摺り出すから殺してくれ。その後は、ちょっと腹ごなししてから捜索を始める」
「……わかった。けど、どうやって引き摺り出す?」
「あぁ、それは簡単だ」
俺は湖に近付くと、軽く水に触れて波を立てる。
瞬間、湖底よりゆらりとした影が気配もなく接近。
警戒していなければ気付かない動きであるが、来るとわかっていれば問題ない。俺はさも気付いていないそぶりで誘うと――次の瞬間、どばぁ! と喰らいつこうとしてきた水龍の攻撃を回避した。
「今だエラルカ!」
叫ぶと同時、俺の横を銀色の風が吹き抜ける。
ダンジョンの光に照らされ輝く銀髪は目にも止まらぬ速さで水龍に近付くと、水上に出ていた顔面に向かって勢いそのままに蹴りを放つ。
大地がひび割れる踏み込みから放たれた一撃は、水龍の長い身体を水中から引きずり出し――そのまま遥か上空のダンジョンの天井へと叩き付けた。
「……」
まさに一撃必殺。
絶句する俺の前で、エラルカは優雅に振り返る。
一糸まとわぬ美しい身体を惜しげもなく晒した彼女は、空色の瞳に一切の感情を映すことなく、小首を傾げた。
「これでいい?」
その言葉と同時に、天井に叩き付けられた水龍の亡骸が落下。
地面に砂埃を立てる。
そんな光景を前に、俺は口元がにやけるのを抑えられなかった。
「あぁ、もちろんだ。これ以上なく最高の結果だよ、エラルカ!」
「ほんと? これなら人間を絶滅させることができる?」
「可能性はあるさ。俺と手を組み続ければな」
「……よかった」
こちらの打算的思考に気付いているだろうに、全く気にした様子もなく――否、事実彼女は気にしていないのだろう。彼女の目的は、人を絶滅させること。その行動の邪魔をしないのなら、俺がどんな打算を組んでいようと、究極的にはどうでもいいのだ。
(全くもって、使いやすい駒だ)
何てことを思いながら、俺は水龍の亡骸を喰い尽くすのだった。
―――――
レベル61→レベル65
―――――
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