人工妖精と行く、ひかるの異世界冒険譚

キングおでん

第一章 ~ 新世界 ~

第1話 目覚めは朝日と共に

 ピッピピッピ、ピッピピッピ……

 耳元で嫌がらせみたいに鳴り続けるアラームの音。頼むからもうちょっと優しく起こしてくれよと、布団の中で嘆いた俺――来宮 輝きのみや ひかるは、しぶしぶまぶたを持ち上げた。


 カーテンの隙間から射し込んでくる朝日が、顔面を直撃してくる。太陽よ、お前もグルか? 目覚ましとコンビ組んで、俺を強制ログインさせようって魂胆か?

 しかし、これが魔法社会・日本の平日の朝。容赦なんて存在しない。


「……ふわぁあああ……朝か……」


 声にならないあくびを一発かました後、俺は気合いで上半身を起こす。脳がまだ寝てる? 関係ない。起きる、それが高校生の宿命。


 なんでこんなに眠いかって? それは昨日、探索者学校の課題で夜遅くまで模擬ダンジョン訓練してたからだ。物理と魔導のレポートも地味に重かった。

 でもそれを言い訳にしたところで、出席スキャンはごまかせない。出席即バレのこの時代、寝坊は即アウト。魔導出席装置、マジ無慈悲。


 ベッドから這い出し、制服へと腕を通す。紺地に金のラインが入った、探索者学科専用の制服。防魔加工もされてて、地味に高性能。

 リュック型のマジックバッグを腰に装着。これは学校支給のアイテムで、中は四次元空間。魔導筆記具、簡易ポーション、ノート、非常食。全部ここに詰め込んである。


「ふぅ……今日も生き残るぞ……」


 一階に降りると、まず洗面台に直行。鏡に映った俺の顔には、見事なねぐせ。右の前髪だけが、まるで意思を持ったかのように跳ね上がっている。


「うおっ……俺の髪型、今日も冒険心に溢れてやがる……!」


 そんなツッコミをかましながら、冷水で顔を洗い、歯ブラシを咥えてガリゴリ磨く。

 魔力感知機能付きの電動歯ブラシは、日本魔導工業の最新モデル。磨いてるときに小型ディスプレイに「今日の口臭指数」とか出してくる。余計なお世話だ。


 顔を拭いて、歯をゆすいで、鏡の前でもう一度ポーズを決める。

 うん、探索者高校二年、来宮輝、本日も準備万端。……たぶんな。


 階段を下りてリビングを抜け、キッチンに入ると、ちょうど母さんが朝食をテーブルに並べていた。


「おはよう、輝」


「んー、おはよー……」


 まだ完全に起きてない声で挨拶を返しながら椅子に腰を下ろす。食卓の上には、トーストと目玉焼き、そしてコップ一杯の牛乳。安定のラインナップ。だけど、なんだろうな、この安心感。世界がどれだけ魔法まみれになっても、母の朝食だけは昔から変わらない。


 トーストを一口かじったところで、母さんが俺の顔を見て眉をしかめた。


「もう、また寝癖ついてるわよ。鏡見た?」


「見たよ。むしろ寝癖に挨拶したくらい」


「ふざけない。ちゃんと直していきなさい。探索者の身だしなみは大事って、学校でも言われてるでしょ」


「そりゃまあ……そうなんだけどさ……でも俺、戦闘系スキル持ちだから、髪型で評価されるのってちょっと不服」


「じゃあ逆に、ねぐせの剣士が信頼されると思う?」


「……うん、否定できない」


 見事なロジックに、俺はトーストの裏側をいじって話題を逸らした。母さん、理屈攻め強すぎるんだよな……。


 ふと、食卓を見渡して気づく。父さんの席が空いてる。


「あれ? 父さんは?」


「今日はね、国管理ダンジョンで氾濫の兆候が出てるって、朝の三時に緊急出勤したの」


「三時……!? マジで!?」


 魔力反応の異常ってやつか。たまにあるんだよな、ダンジョンのコアが不安定になって、モンスターが暴走し始める現象。そういうときは、国家管理局の職員が緊急対応に駆り出される。うちの父さんは、その中堅エージェントってわけ。


「やっぱ社会人って大変だな……」


「大変よ。だから、あんたも将来ちゃんと考えなさいよ。魔導省に入るのか、独立冒険者になるのか、今のうちから……」


「はいはい、説教は牛乳飲みながらでお願いしまーす」


 そう言いながら、コップの牛乳を一気に飲み干す。冷たいのが喉を通って、体にスイッチが入る感じがした。


「でもまあ、父さんみたいに人の役に立つ仕事、ちょっと憧れるかもな……」


 思わず口にした本音に、母さんがふっと微笑んだ。


「輝がそう思うなら、それだけで十分よ。無理せず、自分のペースで頑張りなさい」


「……うん」


 たった一言の励ましなんだけど、朝のテンションでそれは妙に染みる。やっぱ母さん、強いわ。ねぐせくらい直すか……いや、たぶん無理だけど。


 朝食を終え、片付けを手伝いながら、リビングに置かれた魔導テレビに目をやる。画面の中では、スーツ姿のアナウンサーが真面目くさった顔で話していた。


『――昨日開かれた国際連盟の緊急会議において、日本の魔導技術独占に対する懸念を示す決議案が採択されました』


「またかよ……」


 俺は思わずつぶやいた。ここ最近、国際ニュースは大体これ。魔法技術国家・日本が、あまりに強くなりすぎた結果、他国との関係はギスギスしまくってる。


『これを受け、日本政府は「遺憾の意」を表明。併せて、魔石発電の対外輸出について段階的な制限措置を検討中であることを明らかにしました』


 つまり、うちの国が持ってる“便利すぎる魔法技術”を、他の国には簡単に渡しませんって話だ。魔石発電なんて、エネルギー供給の60%をカバーしてるようなもんだし、それが止まったら世界経済は大混乱だ。


「そりゃ文句も出るよな……」


 けどな、ただでさえダンジョンの管理と魔力の安定化でヒーヒー言ってるのに、技術まで外に放り出したら、自国が危なくなる。魔導通信、魔導兵器、魔法医療……ぜんぶ、命に関わる重要インフラだ。安易に開示できるわけがない。


 でもまあ、高校生の俺にできるのは、ニュース見てぼやくくらい。政府の事情も他国の都合も、遠すぎて実感が湧かない。ただ、世界がきな臭くなってるってことだけは、確かに肌で感じていた。


 ニュースが一段落したタイミングで、俺は魔導時計をチラッと見た。針はもう出発10分前を指してる。やべ、結構ギリじゃね?


「母さん、今日ちょっと帰り遅くなるかも」


「ん? 学校のあとに用事でもあるの?」


「いや、今日はダンジョン実習。学校所有のやつで、チームでゴブリン討伐」


「またゴブリン……」


 母さんが小さくため息をついた。いや、その反応はちょっと傷つくな。


「ゴブリンって軽く見られがちだけどさ、戦い方間違えると普通にやばいんだよ。集団戦だし、連携とか必要で」


「わかってるわ。でもあんた、ちょっと無茶しすぎるとこあるでしょ? 前も“反応速度のテストです!”とか言って無茶して、制服ボロボロにして帰ってきたじゃない」


「あ、あれは……その、実験的な……自己強化スキルの応用で……」


「言い訳しないの!」


 ぐっ、完全論破。俺はトーストのカスを指で払いつつ、視線をそらす。

 うちの母さん、戦闘にはまったく関わってないけど、観察力だけは尋常じゃない。俺の一挙手一投足、すぐバレる。


「ちゃんと仲間と協力して、安全第一で行動するのよ。いい?」


「わかってるって。俺だって命惜しいし」


「惜しいって言い方が不穏なのよ!」


 うん、今日も母さんのツッコミがキレッキレで安心する。


 俺が通ってるのは、都立魔導探索者高等学校。通称“探高”。そこの探索者育成学科は、週に一度の実践訓練がある。模擬訓練じゃなくて、実戦のやつ。しかも、使用するダンジョンは学校が保有してるっていう謎の豪華設備付き。


 今日のターゲットはEランク魔物・ゴブリン。とはいえ、油断は禁物。奴らは知性こそ低いけど、地形と数を活かした戦い方が得意。何度か実習で対峙したことあるけど、舐めてかかると普通に負傷する。


 ちなみに、俺のスキル構成は近接剣術+敏捷スキル+光属性魔法っていう、実にバランス型の構成。器用貧乏とも言えるけど、仲間がいれば立ち回り次第でカバーできる。


「ま、無茶はしない程度に頑張ってくるよ。評価もあるし」


「本当にね、何があっても無事に帰ってきなさい。それだけが一番大事なんだから」


「……うん」


 その言葉に、俺は真面目に頷いた。魔導社会での実戦訓練って、どうしても“当たり前”になりがちだけど、それでも命を賭けてることには変わりない。


 母さんの心配は、過保護じゃなくて、正当な愛情だ。


「よし、行ってくる」


「いってらっしゃい。気をつけてね、輝」


 ドアを開けて外に出たその瞬間、俺の運命は大きく動き出す――なんてこと、今の俺はまだ知らない。



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