第27話 お前がここにいてよかった

ノノを見送った次の日の夜。


いつものようにリビングで過ごしていたが、どこか静かだった。


「……ノノ、もういねぇんだな」


蓮がぽつりと呟いた。テレビはついているけど、誰も内容なんて見ていない。


「うん……あの子、ちゃんと行けたんだよな。笑ってた」


「……そっか」


蓮は何気なく言っただけだったのかもしれない。


けれど悠真は、ふと蓮の横顔を見て思った。


(あぁ、やっぱり――こいつが、俺のそばにいるのが当たり前になってたんだな)


 


◆ ◆ ◆


 


その夜、少し冷えた空気の中。


ベランダに出ていた蓮に、悠真がそっと毛布を持ってきた。


「風邪引くぞ、幽霊でも」


「……気ぃ遣ってんのか?」


「うん、まぁ。お前がそこにいるの、好きだし」


「……っ、何、いきなり……」


蓮が少しだけ肩をすくめた。


「ノノが成仏して、思ったんだ。幽霊でも、いなくなることってあるんだって」


「…………」


「だから、お前がまだここにいてくれてるのって、奇跡だなって思った」


 


しばらくの沈黙。


蓮は黙っていたが、やがて毛布をぎゅっと抱きしめたまま言った。


「バカだな、お前。俺は、まだ行かねぇよ」


「……じゃあ、行くときはちゃんと教えろよ」


「当たり前だろ。黙って消えるような、ヘタレじゃねぇし」


「よかった」


 


――ぽん、と、悠真の手が蓮の頭にのった。


「お前が、ここにいてくれて。ほんとによかった」


蓮は何かを言おうとして、結局何も言わなかった。


けれどその頬が、ほんの少し、赤くなっていたのを悠真はちゃんと見ていた。


 


◆ ◆ ◆


 


翌朝。


悠真のベッドに、ちゃっかり毛布ごと入り込んでいる蓮。


「おい、お前。いつの間に……」


「寒かったから」


「幽霊だろ」


「……お前の横、あったけぇから」


「……もー、こいつ……!」


でも、どこか嬉しい気持ちで、悠真は蓮の髪をくしゃっと撫でた。


(……やっぱり、俺はこいつがいないとダメだ)


 


ベッドの中に、確かに“あったかい”気配が、ふたりぶんあった。

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