第23話 拗ねた霊は手がつけられません


 新しく現れた幽霊少女・ノノが屋敷に加わって、早くも三日。


「悠真くん、これ……昨日のお礼に……」

「ありがとう、ノノちゃん。これ、折り紙?」


 居間のテーブルの向こう側で、ノノが照れくさそうに笑っている。悠真が優しく微笑んで返す。


 その光景を、部屋の隅からむすっと見つめる男がひとり――蓮だ。


「……はぁ」


 大きめのため息をついてソファに寝転がるが、その目は明らかにこちらをチラ見している。


「なんか言いたいことある?」


 悠真が気づいて声をかけると、蓮は顔を背けた。


「別に……何も。俺には関係ねーし」


「またそれ言う。わかりやすいなぁ、蓮」


 悠真が笑うと、蓮は「うるせー」とだけ返し、毛布をぐるぐる体に巻きつけて引きこもった。


 ノノが心配そうに覗きこむ。


「蓮さん……怒ってる?」


「怒ってないっつってんだろ! 俺は……別に……」


 言葉がだんだんしぼんで、顔だけ毛布からひょこっと出る。


「……お前が俺以外に優しくするの、ちょっとムカついただけだよ」


 ぽそっと呟いた声に、悠真が一瞬、固まる。


 目の前で、珍しく感情を露わにした蓮。耳が、うっすら赤い。


「蓮……それって、」


「言うな!!!」

 バッと枕を投げる蓮。悠真はそれを片手で受け止めながら、笑う。


「……可愛すぎてヤバい」


「うっせ!!幽霊に“可愛い”とか言うな!!」


「言うよ。ってか今の蓮、世界一拗ねた可愛い霊だったよ」


「殺すぞ」


「……すでに死んでるでしょ?」


「成仏して二度と会えない呪いかけんぞ!!」


「それは勘弁して」


 毛布にくるまりながら、目だけこっちを睨む蓮。

 でもその頬は、完全に――真っ赤だった。

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