第14話

「ここ何処だろ?」


悠希は困惑したように辺りを見渡した。


「…こんにちは。辺りを見渡していますがどうかなさいましたか?」


そんな悠希に声をかける男の声が聞こえてきて悠希がその声を聞いて目を向けるとそこには自分よりも背の小さい青年が一人、たっていた。


「道に迷ってしまって…」


悠希は青年と目が合った瞬間、素直に答えた。


「貴方は…わかりました。ご案内しますよ。僕とのお茶会が終わったあとで」


青年が悠希の目を見て何かを悟って微笑み、そう言うと軽装ではあるがきちんと帯剣している吸血鬼が二人ほど瞬時に現れ、悠希が逃げ出せないように両脇にたって腕を掴んだ。


「え、え…」


悠希は困惑し、声を漏らした。だがそんな悠希を無視して青年は歩き出し、吸血鬼二人は悠希は悠希を連行するように青年のあとを追う。そして暫く歩くと一つの大きな扉の前につき、悠希の腕を掴んでいた吸血鬼が一人離れ、その扉を開けた。中には悠希が使うようにと案内された部屋よりも更に豪華な造りになっていて恐らくこの城内で一番広く豪華な造りになっているように思われた。


「陛下!また勝手に動かれて!」


その部屋の中には執事服を身に纏った男がいて男は青年の姿を目にするなり、慌てたように声を上げた。


「そんなに慌てなくても…近衛兵も常時近くにいる訳だし…それよりラル。お客さん連れてきたからお茶入れて?」


青年は体を動かし、自分の後ろにいる悠希の姿を男…ラルに見せた。


「……かしこまりました」


ラルはそんな青年の態度に小さくため息をつき、悠希の姿を目にしたあと一礼をして部屋から出ていった。


「さ。入って入って」


青年はラルと入れ替わるように部屋の中へと足を踏み入れたあと、悠希へと目を向けて手招きをした。


「失礼します…ってえ…」


青年が手招きをした時点で拘束していた吸血鬼二人は消え、自由の身になっていた悠希は言われるがまま部屋の中へと足を踏み入れた。そして壁に飾られていた肖像画を見て驚き、思わず足を止めてしまう。


「それは敬愛する兄上の肖像画だよ。もう亡くなってしまっているけど」


食い入るように肖像画を見つめる悠希に気が付き、青年は悲しげな表情をする。


「え…でも…」


悠希は困惑したように青年へと目を向けた。


「今、貴方が着ている服は昔、兄上が着ていたものなんだよ」


青年はとても悲しそうに目を伏せ、悠希はそんな青年を見て嘘をついているとは思えず黙り込んでしまう。


「さ。この話はこれでおしまい。座って座って」


話題を変えるように青年はソファーに座るよう悠希へと促し、悠希はそのソファーへと腰掛ける。


「改めまして僕の名前はベルサス。知っていると思うけどこの国で王様をやってます」


青年、ベルサスは机を挟んで反対側にある一人用のソファーへと腰掛けたかと思うと早々に口を開いた。


「それでユフィとは何処で出会ったの?告白とかは?」


王であることを知って困惑している悠希に向かってベルサスは食い気味に言葉を続けた。


「え…告白?」


悠希はどうしてそんなことを聞くのかと更に困惑する。


「とぼけなくても大丈夫だよ!ユフィの友人としてこの城に滞在し始めたってことは恋仲なのでしょう?」


ベルサスは勢いよく立ち上がり、身を乗り出すように悠希へと顔を近づけた。


「ち、違います!俺はっ…」


悠希は全力で否定をし、此処に滞在する理由を言おうとしたが契約者であることを言ってもいいものなのかと言葉を詰まらせてしまう。


「俺は?」


ベルサスはその言葉の続きが気になり、首を傾げるれ、これは本当のことを話すべきだと思った悠希はユフィの父親なら大丈夫だろうと自分が契約者であることや此処に滞在している理由などを包み隠さず話した。


「……なんだ。契約者の知り合いがいるとは聞いていたけれど貴方のことだったのか」


ベルサスは早くユフィにも恋愛結婚させたかったのに…と言葉を続け、とても残念そうにソファーへと腰を下ろした。


「悪いことではないとは思うんですけどどうしてそこまで恋愛結婚を推すんですか?」


どうしてそこまで残念がるのかと悠希は疑問を投げかける。


「……さっき兄上は亡くなっているって言ったでしょう?兄上はレインやシャロンと言った護衛はいたけれど、支えなど不要なくらい完璧な方だった…だけど兄上が即位する直前で何の教育も施されていない僕に王位が回ってきた。それを支えてくれたのがみのり…今の王妃なんだ。色々あってユフィは遅くにできた子で教育期間が短かったからユフィには支えが必須なんだ。そして支えは政治的よりも恋愛の方がいいと思ってる…だから恋愛結婚を推しているんだよ」


ベルサスは理由を力説するように話した。


「……レインさんとシャロンさんは王様のお兄さんの護衛だったんですか?」


話を聞いたと同時に悠希はベルサスに聞けばレインとシャロンの関係性が知れ、レインがユフィを受け入れない理由がもしかしたらわかるのではないかと思い、問いかける。


「うん。そうだよ。あの二人は兄上のことを一番に考えてくれていたんだ」


何故そんなことを聞くのかと疑問に思いながらもベルサスは素直に答えた。


「…すみません。行くところがで」


「お待たせしました」


返事を聞いて肖像画を見たあと、悠希は行くところができたからと勢いよく立ち上がったが、それを遮るようにラルがカートを押しながら現れた。ラルはベルサスと悠希の前にある机の上に変わったケーキが乗った皿を置いた。悠希はそのケーキに目を奪われてしまう。


「どうぞ。お召し上がりください」


ラルはそんな悠希を見てクスッと笑ったあと、ケーキの隣に紅茶の入ったティーカップを置いた。


「……いただきます」


悠希は少しだけ迷ったもののケーキの誘惑には勝てずに座り、ケーキを食べ始めた。そして食べ終えたら一度、古城へと戻ろうと悠希は思った。だってあの肖像画は間違いなくルシュフだったから…

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