第9話
遊佐がシャロンとやり取りをしている頃、琅たちがいる古城の周囲にある森の中にライトの姿があった。ライトは何かを探すように動いている。
「くそっ…どこにあるんだよ…」
ライトは膝をつき、出来るだけ自分の身を低くしながら林の中に顔を突っ込んで探していた。
「何してんの?」
時間が過ぎるのも忘れ、無心で探し物をしているライトに声をかける者がいた。ライトが林の中から顔を出し、声のした方へと目を向けるとそこにはロマリアの姿があった。
「ははっ…何?その顔?」
ロマリアはこちらを向いたライトの顔を見てぷッと吹き出した。頭の所々に葉がつき、頬には少量の砂がついていたからだ。
「……用がないなら邪魔すんなよ。俺はお前が捨てたって薬を探してるんだから」
笑われたことでライトはムッとし、再び林の中へと頭を突っ込もうとした。
「そんなところにあるわけないじゃん」
ロマリアはそんなライトを馬鹿にしたように見つめた。ライトはそれを聞いて動きをピタリと止め、再びロマリアへと目を向ける。
「だってそうでしょう?この森は琅の管轄なんだからあったら動物たちが運んでくれるよ」
ロマリアはけらけらと笑った。ライトは無言でロマリアを一睨みしたあと、ならば森の外だと吸血鬼特有の速さで動き始めた。
「…なんでついてくるんだよ」
早々に森を抜けたライトは立ち止まり、勢いよく後ろへと振り向いた。
「なんでってボクも薬を探すのに外に出たからに決まってんじゃん」
そこには追いかけてきたであろうロマリアの姿があってロマリアは当たり前のように答えた。
「は?捨てた張本人であるお前がなんで…」
ライトは何を企んでいるのだと警戒するようにロマリアを見つめた。
「……ルシュフの奴は隠していたみたいだけどあのヘタレ、部屋の中にいたんでしょ?そして空に隠したってことは会わせられないくらい体調が悪い…あのヘタレに死なれたら困るんだよ。空に嫌われちゃうから…だから外に出たんだ」
ロマリアはライトと並び立つように移動する。
「…なら案内しろよ。お前が捨てた場所まで」
ライトはそんなロマリアをじっと見つめる。
「…俺は清香を自由にしたい。お前は空に嫌われたくない。協力して探した方がいいだろう」
ライトは不本意だけどと言葉を続け、腕を組んだ。
「そうだね。わかった」
ロマリアは少し考える素振りを見せたあと、小さく頷いた。そしてついてこいと言わんばかりに吸血鬼特有の速さで動き出した。それを見たライトは組んでいた腕を解いたあと、ついていく。そしてライトがロマリアに案内されたのは古城からかなり離れた場所で、ライトとロマリアはその近辺を探し始めたが長い間、隅々まで探したが何も出てこなかった。
「……本当にこの辺りであっているのか?」
膝をついて探していたライトはロマリアへと目を向けた。
「そんなのボクが知るわけないじゃん」
棒立ちで辺りを見渡すだけだったロマリアはライトへと目を向け、当たり前のように答えた。
「は?」
ライトはそれを聞いて眉間に皺を寄せる。
「投げ捨てたし、それにボクは方向音痴だよ?だから知らない」
ロマリアは堂々と胸をはって答えた。
「投げ捨てた…?方向音痴…?ふざけんなよ!投げ捨てただけならまだしも、捨てた場所すらわからないのなら一緒に行動する意味ねぇじゃねぇか!」
ライトはそんなロマリアを見て苛立ち、怒鳴るように叫んだ。だがロマリアはヘラヘラするだけで悪びれた様子はない。
「…帰る」
ライトはそんなロマリアに対する怒りが隠しきれず、とても低い声でそう言うと他の方法を模索する為、一度古城に帰ろうと吸血鬼特有の速さで動き出した。
「ちょっ、待ってよ!」
ロマリアは焦ったように声を上げ、ライトのあとを追うように動き出した。置いていかれては方向音痴であるロマリアは古城に戻ることが難しいからだ。そして時間をかけて森へと戻ったライトは武装した吸血鬼が数人いることに気がつき、足を止めて近くにあった木に隠れた。
「何しているの?」
その吸血鬼たちに気がついていないロマリアはそんなライトの後ろから声をかける。
「しっ…黙って」
ライトは一睨みするようにロマリアへと一度だけ目を向け、小声で呟くと直ぐに吸血鬼たちへと再び目を向ける。少し距離があるのと吸血鬼たちは小声で会話をしている為、詳しい内容まではわからないが「見つけたら…」やら「早くしないと…」と断片的に聞こえてきた。
「…やっぱりまだ清香のことを」
ライトはそれを聞いて難しそうな顔をし、吸血鬼たちのことを警戒するように見つめたが吸血鬼たちは直ぐにその場からいなくなる。
「ねー早く戻ろーよー」
ロマリアは吸血鬼たちを気にもとめず、呑気そうに口を開いた。
「あ、ああ…」
難しそうな顔をして考えていたライトはロマリアに声をかけられたことで我に返り、返事をすると古城へと向かった。清香を狙っているのなら守ろうと心に決めながら…
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