第5話

眩い光と共に琅の目の前に現れた悠希はレインたちに何を言われたかを話し、どうするべきか琅に指示を仰いでいた。


「…なるほど。ならば俺が森に戻って大輝をここに戻すべきか…だが大輝は月華を理由に断るだろうな…どうするべきか」


琅は自分の尻尾に抱きついている月華へと一度目を向けたあと、難しそうな顔をする。


「…話があまり見えないんですけどそれがないと困るんですか?」


父親と戯れる月華を微笑ましく見つめていたもののそんな琅を見て悠希は問いかける。


「それは…っ!すまん。月華を頼んだ」


琅は説明しようと口を開いた。だが何かを感じ取った琅は耳をピンッとたてて窓がある方へと顔を向けたあと、月華を悠希へと差し出した。


「え、あ…はい」


悠希は月華を抱き上げた。琅は月華が離れたことで窓へと近寄り、開けた。そしてその後直ぐに獣の姿…狼へと姿を変えてそこから外へと飛び出した。


「っ!」


悠希はすぐさま窓へと近寄り、外を見た。何故ならここはこの古城の中でも高い位置にある部屋だったから…だが琅は軽い身のこなしで地面へと着地し、その後すぐに走り出していた。


「おとうしゃん…」


月華は少しだけ瞳を潤ませ、寂しそうに呟いた。


「大丈夫。すぐに帰ってくるよ」


悠希はそんな月華の頭を優しい手付きで撫で、月華はそんな悠希にしがみつくように抱きついた。


「帰ってくるまで玄関で待ってよっか」


あやす様に月華の背中を軽くぽんぽんと叩いたあと、悠希はその手で琅が狼の姿に変化した際に脱ぎ捨てた服一式を拾ったのだった。






琅が古城を飛び出す前…頭にクロを乗せた大輝は森の中を巡回していた。


「あれ?女の人がいるっす」


暫くの間、歩いていた大輝は前方にある木に寄りかかるようにして座る女性が一人いることに気が付き、立ち止まった。


「クロに反応はない…ってことは敵意は無いってことっすかね…でも周囲にいる動物たちは怯えているっす」


大輝は周囲を見渡してから女性へと目を向け、近づいていく。


「こんにちわっす」


木に寄りかかるように座っていたのはライラでライラはササがかぶっていたシルクハットを撫でるように触っていて大輝はそんなライラへと声をかけた。


「…この森に何か用っすか?」


ライラは泣いていたのか真っ赤な目を大輝へと向け、そんなライラを見て大輝は一瞬だけ目を見開くも直ぐにその目を細め、問いかける。


「……ここは友人が死んだ場所なの」


ライラは答えながらシルクハットへと目を向ける。


「そうっすか。いてもいいっすけど暗くなる前に帰るっすよ?」


大輝は聞いてはいけないことを聞いてしまったのでは?と申し訳なさそうな表情をする。


「……帰りたくても帰る場所なんてないもの」


ライラは何処か諦めたように呟き、目を伏せる。


「え?それじゃ今までどこに住んで…っ」


不思議そうな顔をした大輝が問いかけようとした時、クロが翼を広げて鳴いた。


「クロ…?何か感じ取ったんっすか?」


大輝が問いかけるとクロは肯定するかのように大輝の頭から離れ、飛んでいってしまう。


「っ…待つっす!」


大輝はそんなクロをみて何かあったのだと思い、クロを見失わないように走り出した。


「……違かったのよ」


ライラは去っていく大輝の後ろ姿を見つめ、小さく呟いたのだった。

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