第15話

自室にいる天月は着替えていた。 


「……天月さん。いますか?」


天月が着替え終えて正装姿になった時、部屋の扉をノックする音と共に部屋の外から控えな声が聞こえていた。


「…何?何か用?」


それに応じるように天月が部屋の扉を開けるとそこに悠希と清香の姿があって天月は二人の姿を目にし、一瞬だけ顔を強ばらせるも直ぐに表情を戻して首を傾げる。


「外出許可が欲しいんだけど…」


悠希は真剣な顔つきで天月のことを見つめる。


「外出…?許可できないよ。部屋に戻って」


天月は淡々とした口調で答えながら部屋の中心にあった大釜へと近づいていき、火を消す。


「っ…清香さんの大切な人の安否を確認しに行くだけです!彼女と自分の身は俺が守ります。この城にも迷惑をかけないようにしますからお願いです!外出許可をください!」


悠希はそんな天月に向かって深々と頭を下げる。


「頭を下げられても許可できないものはできないよ。今立て込んでいるんだ早く部屋に戻って。そして明日の朝まで閉じ籠ってて」


そんな悠希のことをチラッと横目で見たあと、壁にかかったマントへと近づいていってマントを取り、羽織る。


「っ…なんでですか!天月さんだって大切な人が…最上階にいる人が危険な場所にいたら心配になるでしょ!外出許可くれたって…」


天月の返事を聞いて頭をあげた悠希は詰め寄るように天月へと近づいていき、訴える。


「……あの部屋で見たことは忘れろって言ったのに…もういい。大人しく部屋に戻らないっていうのなら…」


天月はため息をついたあと、ポケットから白色のチョークを取り出して壁に魔方陣を描き始めた。


「…眠れ」


魔方陣を描き終えた天月はチョークをポケットにしまい。それと同時にポケットから折り畳みのナイフを取り出した。そして天月がそのナイフで何の躊躇いもなく自分の親指を傷つけ、そこから出た血を天月は呟きながら魔方陣にすり付けると魔方陣が光だしそれを見ていた二人は急激な睡魔に襲われて清香はその場に倒れる形で眠ってしまい、悠希はその場に膝をつくが直ぐには眠らず、その睡魔に耐えようと唇を噛み締めるが耐えきれずに倒れて眠ってしまう。


「ダメですっ!天月さん!」


二人が眠ったことで壁に描かれた魔方陣は擦り付けた血と共に消え、血がにじみ出ている自分の親指をじっと見つめたあと、舐めようとして唇を近づけていく天月。舐める寸前、そんな天月のことをタイミングよく見ていた空は声をあげながら慌てたように天月へと駆け寄り、天月の手を掴んで唇から親指を離した。


「ごめん。空…」


空の声に反応するように我に返った天月はばつが悪そうに呟いた。


「謝らないでください。タイミングよく訪ねてよかったです」


空は辺りを見渡し、絆創膏を探した。そして絆創膏を見つめると空は天月のてを引いて絆創膏へと近づいていき、手にとって天月の親指に貼り始める。


「…はい。おしまい。一人でいるときはもう血を使う魔術は禁止ですよ。例え自分の血であっても天月さんにとって血は危険なものなんですから」


絆創膏を貼り終えた空は心配そうに天月のことを見つめる。


「気を付けてはいた…だけどあまりにも外出許可が欲しいって言うから鬱陶しくなってつい…」


天月はナイフをたたんでポケットにしまいながら眠っている悠希と清香へと目を向ける。


「外出許可…普通の日なら大丈夫ですけどこの前の一見で吸血鬼が攻め込んでくるとルシュフさんが予想された今日、外に出るのは危険ですもんね。眠らせて正解だと思います」


空は眠る悠希と清香を見たあと、天月へと目を向ける。


「事が終わるまでこの部屋で眠っていて貰うことにするよ」


天月は清香へと近づいていき、引きずる形で清香のことを部屋の中へと入れ始める。


「そうした方がいいと思います」


空は天月へと近づいていき、清香の足の方をもって手伝う。


「……それで琅とは連絡ついた?」


空が手伝ってくれたお陰で早々に清香のことを部屋の中に入れた天月は空へと目を向け、首を傾げる。


「琅さんが何処にいても連絡がとれる月華が寝ているのでとりあえず周辺の動物たちには声をかけておきました。琅さんを見かけたら城に戻るようにーって」


清香の足を離した空は天月を見つめ、答える。


「そう…ってことは他の世界に行っていた場合、アウトってことになるよね」


天月は空の返答を聞いて難しそうな顔をする。


「ですよね…すいません。お役にたてず…」


空は天月の表情を見て申し訳なさそうに俯く。


「大丈夫。空は悪くない。悪いのは何も言わずに他の世界に行っちゃった琅なんだから…それに今から日が暮れるまで僕が頑張れば琅がいなくても全然大丈夫なわけだしね」


天月はマントについていたフードを被り、部屋から出ようと歩き出す。


「微力ながらお手伝いします!」


そんな天月の姿を見た空は慌てたように天月のあとを追うのだった。

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