第37話

 私は今、海水をコトコト煮詰めている。


「一体何をしてるんだ?」


 こればかりはピヨさんもレグルスに同意らしく、レグルスと一緒に鍋を覗き込んでいた。


「リスト項目の消化です」


 海に行くことが決まると、達成可能なリストに早速二つの項目が加わった。

 そう、新しく加わった項目は



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 リスト『異世界でやってみたい50のこと』

 

 達成可能(6)

 ★息継ぎの心配をせずに海で泳いでみたい

 ★海に行って塩を作ってみたい

 ★異世界旅行をしてみたい

 ★こっちの世界にない景色を見てみたい

 ★いろんな種族に会ってみたい

 ★討伐をやってみたい


 未達成(10)

 

 達成済み(34)--新規(0)・確認済み(34)

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 ・・・『塩作り』である。

 何故塩作りなのかというと、ファンタジーあるあるの塩コショウを売って金儲け──まではいかないけれど、もしも調味料が貴重品だった場合、現代の調味料に慣れてしまっている私が素材の味しかしない食事に耐えられる気がしなかったからだ。

 砂糖や胡椒は類似植物探しからだが、塩は海水を煮詰めれば出来るので作り方を調べて覚えていたのだ。

 これを考えたときは、乙女ゲームだから調味料は充実している筈だとは思わなかったけど、塩としか書かなくて本当に良かったと思う。下手に砂糖とか味噌とか書いていたら大変なことになるところだった。


 塩の作り方は

 1、海水をろ過(結界を利用)してのゴミを取り除く。

 2、海水が十分の一になるまで時々かき混ぜながら煮詰める。

 3、再びろ過(結界を利用)して石膏成分を取り除く。

 4、さらに煮詰めて←今ココ

 5、塩が結晶化してきたら完全に水分がなくなる前に火を止めて水分を切る。

 6、しっとり食塩の出来上がり!


 海水2リットルで塩は50グラムしか採れないらしい。

 私は出来上がった塩を以前買ったポーション用の小瓶にいれ、収納に仕舞ったのだった。



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 リスト『異世界でやってみたい50のこと』

 

 達成可能(5)

 ★息継ぎの心配をせずに海で泳いでみたい

 ★異世界旅行をしてみたい

 ★こっちの世界にない景色を見てみたい

 ★いろんな種族にあってみたい

 ★討伐をやってみたい


 未達成(10)

 

 達成済み(35)--新規(1)・確認済み(34)

 ★海に行って塩を作ってみたい

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 気を取り直してリストを見返した。

 あとは楽しみな項目ばかりだ。


 さて、塩作りは終わってしまったけど、まだ時間はたっぷりある。レグルスを伴い散策の続きでもしようかと鍋を片付けていると──


「あの・・・突然お声かけして申し訳ありません。そちらのお方が高位の力をお持ちと推測し、ご無礼かと思いましたがお声を掛けさせていただきました」


 声のした方を見ると、腰まで届く真っ直ぐなプラチナの髪の綺麗な女の人が膝をつき、髪が砂で汚れるのも厭わずに頭を垂れていた。


「え?」


 私はレグルスを指差す。高位の冒険者と言えば彼よね?

 しかしレグルスはブンブンと首を振る。


「いいえ、そちらの方ではございません」


 女の人の視線は真っ直ぐ私の顔を見て言う。


 ──いや、正確には彼女の視線は私の肩・・・ピヨさんに向いていた。


『ふむ、人魚族か。陸にあがってくるとは珍しいな──』


 私は女の人を見てピヨさんが言った言葉に、心の中で歓喜の声を上げた。


(に、人魚ですとぉ~!!!)



 ──ふむ。人魚族は海底ダンジョンよりも深く、陸地から離れたところに住んでおる種族でその存在を知るものは一部の者だけなのだ。


 ピヨさんが教えてくれる。

 レグルスをチラッと見るが、その落ち着き様から存在は知っていたのかもしれない。


「まさか、レグルスが言っていた他の種族って!?」と、小声で聞いたけど、「そんなわけないだろう」と言われた。


 そうだよね。一部の人しか知らない人魚さんに会える保証なんてないもんね。

 で、でも人魚といえば、足の部分が魚だったり、耳がヒレっぽかったりするデザインをよく見るけど、足も耳も人間にしか見えませんよ。

 それに、その人魚族の人がピヨさんになんの用なのでしょう?

 私がそう思っていると、人魚さんは再び頭を下げ土下座をするような格好で言った。


「私は人魚族族長の娘のミラと申します。現在我々は危機を迎えております。どうぞお力添えをお願いしたく──」


『断る』


 ミラさんが言い終わる前にピヨさんが言い放つ。彼女は一瞬ピクリとしたけれど、頭は上げない。


「ピヨさん──お話くらい聞いて上げても・・・」


『なんだあるじよ。人魚族に興味があるのか?』


 ピヨさんがわざとらしくそう言うと、ミラさんはパッと顔を上げ、


「あなた様がこのお方の主様でございましたか。礼を欠き大変申し訳ありません。

 今人魚族は存続の危機に瀕しております。どうか、お力添えを・・・どうか──」


 そう言って再び頭を下げた。


 えええ、私は頼まれたら断われないよ?ピヨさん、分かってて私に話を振ったよね。


「ピヨさん、話だけでも聞いてあげて」




 今、人魚の国の近くに大型の魔獣が住み着き、近海を荒らしているのだそうだ。

 国は大きな結界に覆われているそうなのだが、それを破壊せんとする勢いで体当たりしてくることもあるそう。

 万が一結界が破れて水が流れ込んできたら農作物がダメになってしまい、海底で生活出来なくなってしまうとのことだった。


「東ので採れる農作物って?」

「はい、人間族の主食はパンですが、人魚の国の主食は『米』と言う穀物なのです」


 キ、キターーーーー!!!


「もしかして味噌とか、味醂とかあったりします?あ、醤油も!」


 私が訪ねると、ミラさんは目を輝かせた。

「まぁ、さすが高位のお方の主様です。そんなことまでご存じとは!」


 これは是非お助けせねばなりますまい。

 私は立ち上がって拳を握り、宣言した。


「人魚族の国を助けます」


 今まで気配を消していたレグルスが「やっぱりそうなったか」と呟いた。

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