第32話

「その通りだな」


(おや)


 私がそう言うと、国王が同意してくれた。第二王子は羞恥から顔を赤らめ、引き下がった。

 さて、きっとピヨさんに任せたら一瞬なんだろうけど、そんなことをしても第二王子のピヨさんへの執着はなくならないだろう。だから次は私の番。


 私が小隊に向き直ると、気を取り直した騎士数名が剣を抜く、ミモザさんを迎えに来た人と王女宮で騎士団長の後ろにいた人・・・あとは他の治癒魔法の使い手さんたちをお迎えに行った人達なのかな?

 その他の人は、剣を抜いた人を信じられないと言う目で見ている。


 冒険者としての素養を試す的な建前があったようだけれど、そんな建前はもうどこかに吹き飛んでしまった様だ。第二王子の愛する人云々の設定と共に。


 でもこの人達もこんな小娘に対して剣を抜くとはね。まぁ今まで普通に剣を抜こうとしてたから不思議はないけれど、国王や王女様の前だよ?お話の世界なら、こういうときは木剣を使うものでは?

 そう思って考え直す。

 いや、コレは現実だ。散々反省したじゃないか。だからそっちがその気ならこっちもその気で行かせてもらう。後悔するなよ。

 エルナトの街で騎士をはたいた時に、新たな結界の使い方を考え付いたから、こうなることを予測して練習しておいたのだ。


──お。星良、る気になったのか?


 そうです。ります。

 こんな小娘に瞬殺されたという事実が、死ぬ程恥ずかしいというもの!


「そう、恥ずか死ねっ!!!!!」


 私は身体から十センチ程の所に結界を張ると、ちょっと怖いけど丸腰で剣を持つ騎士の中に突っ込んでいった。

 結界に触れたら電流が走り痺れ、気絶し、その恐怖から剣が持てなくなるという呪い──いや効果おまじないをつけてね。

 向こうから飛びかかってきてくれるのだ。私の必殺!結界パンチが当たらなくとも問題ない。


──主の結界は何でもありだな。


 倒れた騎士を見下ろし、ピヨさんが感心したように言った。


「なっ!」


 私が駆け抜けた後に広がる屍──息はしてる──の山に、第二王子が思わず立ち上がった。国王や赤髪のおじさん、王女様は動じた様子がない。


「き、騎士団長!!!なんとかしろ!」


 第二王子は終始落ち着いた様子で戦況を見ていた騎士団長に声を荒げた。

 その声に騎士団長はニヤッと笑うと、私に言った。


「気は済んだか?」と。


「もちろん」と答えた私は小さな声で屍と化した人達の状況を説明した。すると騎士団長はちょっと引き気味に「俺にはその技は使わないでくれよ」とつぶやいた。

 もちろん!騎士団長が剣を持てなくなったら困るもんね。


「さて、スピカ殿。この国には俺と同等に打ち合える者はいない。それはとてもつまらないことなんだ。

 しかし、君に初めて会った時、一瞬強者が持つ何かを感じた。

 確かにその従魔は見た目に反し強い。きっとこの王宮を瞬時に瓦礫にしてしまうほどの力を持っているのだろう」


(え。ピヨさんそうなの?)


 ──そんな下らないことはしないがな。


「しかし、その従魔ではない、別の力を感じたんだ。もし、君が私のこの剣と打ち合える何かの力を持っているのなら──」


 そう言いながら騎士団長は腰の剣を静かに抜いた。ほのかに黄色い光を帯びた剣だ。


 ──どことなく紅さんに似ている気がする。


「是非、相手をしてくれないだろうか」


 私たちのやり取りを黙ってみていた国王が、声を上げた。


「ほう、騎士団長があの剣を抜いたのを見たのはいつぶりだろうか」


 その言葉を聞いた第二王子は勝機を見出したのか、


「良いぞ!騎士団長。その娘を殺し、その従魔を私のモノにしろ!!!」


 そう、叫んだ。


 その時──


「!」


 ゴゴゴゴゴ──!と効果音はしなかったけど、大人しく収納に入っているハズの紅さんの気配が急に強くなった。


<主様、次は私の番ですよねぇ。あの第二王子無礼者の息の根を止めるのは私の仕事です>


 そう、言っているような、凄まじい怒りの感情が伝わってきた。


「押さえられないっ!」


 赤い光が周囲を包み込んだかと思うと、異空間からあふれ出す力の奔流を感じた。それが収まると、いつの間にか収納から無理矢理出てきたらしい紅さんが私のにいた。

 派手な登場の仕方ではあったが、宙に浮いたりせず、一応私に気を遣ってくれたらしい。


 紅さんは、今すぐ第二王子の息の根を止めるつもりなのか王族席に飛んで行こうとするので必死に押さえる。


(駄目、駄目だよ紅さん!王子をヤるのは絶対駄目!!)


<じゃぁなんか代わりに鬱憤を晴らさせてよ>


 紅さんの感情が流れ込んでくるけど、いきなりそんなことを言われても~。


──ほら、紅。そこにお前の相手をしてくれそうな屈強な男がおるであろう。あやつの剣なら紅と多少やり合っても死に折れやしまい。


 ピヨさんがなんかちょっと物騒な響きを含んだようなことを言うと、紅さんの意識が騎士団長に向き歓喜に満ちたのが分かった。


「それがスピカ殿の剣か!」


 騎士団長が期待に満ちた視線を紅さんに向けている。こっちにも歓喜してる人がいた!


 その後すぐに剣と剣のぶつかり合いが始まった。

 私は紅さんを握っているため、目茶苦茶振り回されています。

 結界のおかげで怪我こそはしないものの、既に体力の限界を迎えています。


 私は一旦騎士団長から距離を取り、呼吸を整える。


「スピカ殿、そんなものでは無いはずだ」


 いえ、私は既に色々限界を超えています。


──星良、気持ちは分かるがそれでは目的は果たせまい。


 目的──私にもエルナトの街にも手出しをする気にならなくなる程完膚なきまで叩きのめす。


 そうだった。

 ピヨさんの言葉で目的を思い出す。この国には私から手を引いて貰うために、力ずくでわかってもらわなければならないのだ。

『手に入れたい』ではなく、『敵に回してはいけない』と。


「では騎士団長、本気で行きます!」


 私はそう言って紅さんから手を離した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る