第11話

 ここ、どこだろう・・・


 右を見ても木。

 左を見ても木。

 当然前も後ろも木、木、木。


 あ、上は・・・少し空が見えるけど、ほぼ葉っぱ。


 こんにちは。絶賛迷子中のスピカです。自分が方向音痴だったことを忘れていました──って、私ってば誰に言ってるんだろう。

 全力疾走したからキツいし、歩き疲れた。(いや、走り疲れた?)

 星良の体のままだったら、もっと早く限界が来て迷子にならなかったかもなぁ。(否定はしないけど・・・)

 あ、迷子になったら動かないのが定石って聞くな。(今更だよね)


「・・・」


 不安を紛らわすためのひとり問答に飽きた私は、少し開けた所を見つけて体育座りになった。開けたって言ってもさっきの場所とあまり変わらないけれど。


 そうだ。リストのチェックをしよう。(現実逃避)



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 リスト『異世界でやってみたい50のこと』

 

 達成可能(3)

 ★装備を整えて、それっぽくしてみたい

 ★討伐をやってみたい

 ★異世界ならではの店をまわりたい


 未達成(33)

 

 達成済み(14)--新規(0)・確認済み(14)

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「・・・」


 これを書いた日の私にバカと言いたい。

 無理だよ『★討伐をやってみたい』なんて、いくら魔獣でも大きな括りでは動物じゃないか。その命を奪うなんて、私には無理だ。ゲームや物語とは違う。

 しかも他人の討伐を見ただけで逃げてしまう私にそんなこと出来るはずが無い。

 転生とかだったら肉体や精神もこっちの世界仕様になって平気だったりしたのかな。


 そう言えばリストコレ、達成できなかったヤツはどうなるのかな。


「・・・」


 いくら考えても答えが出るはずもなく、リストに関する考察は早々に終わってしまった。

 私はリストを閉じ、今度は自然を感じることにした。


 現実逃避という名の森林浴だ。

 目を閉じて自然を感じる。


 ああ、

 聞こえるのは風の音(現実逃避)

 聞こえるのは鳥の声(現実逃・・・)

 聞こえるのは──


 グルルルル・・・


 魔獣の声だった。(現実)


「ひぃっ!!!」


 いつの間にか十匹程の狼型の魔獣に囲まれていた。


 さっきまでアンタ達いなかったじゃない。

 あーん、レグルスさんごめんなさい。私のせいで要らぬ十字架を背負わせてしまうかもしれませんが、できれば私のことなんか忘れて生きてください。

 それにしてもこんなにワンちゃん?に囲まれるのは前世を入れてもはじめてです。

 でも不思議だな。全然嬉しくないや。


 これ↑が噂に聞く走馬灯ってやつですかね?なんか思ってたんと違うのですが。


 ジリジリと魔獣が近寄ってくる。私そんなに美味しそうな匂いでもしてますかね!?

 あ、夢中で森の中を走ったので足やら手やら、よく見たら傷だらけですねぇ。あなたたちはに惹かれてきたというわけですか。そうですか(泣)


『仲間にを遮断する結界を張れるヤツがいたらOKだけどな』


「あ。」


 そのとき、レグルスの言葉が頭をよぎった。

 リストに書いてなくても生活魔法は出来たから、イメージさえあれば結界も出来るかもしれない。そしてイメージ妄想なら任せろ!


 ──匂いを遮断!お願い!!


「『結界』出て!!」


 ガアアゥッ!


 私の大声に反応したのか、魔獣が一斉に飛び掛かってきた。


 ガチンッ!!


 何かに魔獣の牙や爪が当たる度に不快な音が響き渡る。


「で、出たぁ」


 出たけど、助かったけど、狙いを定められた後に匂いを遮断しても仕方がないことに気付く。

 しかも結界は透明だ。ホッとしたのも束の間、目の前に私を襲おうと一生懸命結界に牙や爪を立てている魔獣がいるのだ。


「ひいいいぃ~」


 生きた心地がしない。結界は直径一メートルくらいのサイズ。このまま動いてみようかとか結界を広げてみようかとも思ったけど、失敗して結界が消えたら元も子もない。


 面倒見の良いレグルスのことだ。きっと来てくれる。

 私はレグルスが探しに来てくれることに賭け、必死に耐え続けた。


 ガチッ、ガチン。

 カチッ、ギィーッ。


 狼型の魔獣はずっと結界に纏わりついて、まだ頑張っている。

 特に爪を立てる音!

 昔ながらの黒板から鳴るようなこの不快な音の中、一体どれくらい我慢すればいいのだろうか──




 日が傾きかけている。

 助けを呼ぼうにもこの音で声が遠くに聞こえるとは思わないし、異世界ファンタジーでは防音結界とかも聞くので私の声が結界の外に届くのかも謎だ。

 叫んで体力と気力を消耗するよりも、じっと耐えることを選んだ。

 周りを囲む魔獣の数が増えてきたけど、本当に匂いは遮断出来ているのだろうか。

 いや、もう狙いを定められてしまっているから匂いは今更か。


 結界は小さなドーム状で、今は上からも魔獣が仕掛けてきている。

 魔獣も晩御飯時なのかな。なんとかご飯にありつこうと思ってか、結界と土の境目を掘りはじめたヤツもいる。


 この結界、地面より下はどうなってるんだろう。


 私、ここで死ぬのかな?




「う、ぅわぁっ・・・・・・」




 ちょっと心が折れかけた時、スッゴく嫌なものを見た様な声が聞こえた。

 魔獣が四方八方からたかっているので何も見えないがこの声の主は!


「レグルスさん!?」


 私がそう叫ぶと声が届いたようで


「あー、やっぱりスピカか。ちょっと俺が良いと言うまで目と耳を塞いでいろ」


 そう言われた。

 言われた通りぎゅっと目閉じ耳を塞ぐ。

 目を閉じればなにも見えないけど、耳は塞いでも完全に聞こえなくなるわけではない。

 それでも全然怖くなくなったから不思議だ。


 それからしばらく「良し」の声は掛からなかったけど、結界を牙と爪が擦る不快な音が聞こえ無くなったことと、レグルスが来てくれたという安心感で、全然苦痛ではなかった。


「スピカ、目を閉じたまま、まず結界を解除しろ」


 どれくらい経っただろうか、レグルスの声が聞こえた。

 結界なんか初めて使ったから解除の仕方なんて分からないけど、消えろって願ったら「よし」って言われたから、消えたんだと思う。


 それからレグルスは「触るぞ」と言って、私の両肩を押さえた。


「いいか、スピカ。もうさっきの魔獣はいないが、この周辺には血が散っている。

 お前がもし今後も冒険者を続けるのであれば、これくらい平気にならないとやっていけないから覚悟を決めて目を開けろ。

 もし今日の出来事が怖かったから冒険者を辞めて街で働くというのなら、目を閉じたまま抱いて帰ってやる。──選べ」


 レグルスにそう言われ、私は恐る恐る目を開けた。

 だって折角の異世界ファンタジーの世界。これくらい平気にならないとやりたいことリストは達成できない。

 両肩に置かれた手に力が入るのを感じながら目を開けると、そこには笑顔のレグルスがいた。

 そっか、私がまた走り出さないように押さえてくれているのか。


 私は周囲を見渡して深呼吸をした。

 うん、大丈夫そう。


「──大丈夫・・・レグルスさん、ごめんなさい・・・探してくれてありがとう」


 魔獣の森で勝手に逃げて迷子になるなんて最悪だ。きっと探し回ってくれたんだろう。

 レグルスに助けられたのは三度目になる。

 私は深々と頭を下げて謝った。

 レグルスは私の頭にポンと手を乗せると


「今回は俺も悪かったし、お前の無事も居場所もすぐに分かったから大丈夫だ」


 と、遠い目をして言った。


「?」




 その後、なるべく魔獣に遭遇しないように気配を探りつつ、でも出会ってしまったら覚悟を決めてレグルスが討伐するのを見学し、ゆっくり街に戻ってきた。

 そしてやっとの思いでギルドに帰り着くと、青い顔をしてる人が何人もギルドのカフェで休んでいるのが見えた。

 どうしたのかと依頼の達成報告ついでにリゲルさんに聞くと、とある噂を教えてくれた。


 私たちがいた森の奥で、ギラついた魔獣がに凄い勢いで寄ってたかっており、遠目から見ると魔獣で出来た球体に見えたそうだ。

 目撃した冒険者達は十分距離をとっていたそうだが、魔獣達そこからはカチカチ、カツンカツン、ギィー等おおよそ自然界では発生するはずのない音が響き渡っており、それが次々に森に木霊するものだから──それはそれは不気味で恐ろしかったのだとか。


「え・・・」


 なんとなくだが私には心当たりがある。

 レグルスの表情から察するに、コレは私のことで、彼はこの目撃証言を辿ってきたのではなかろうか。


 その現象は複数の目撃者がいたためギルドで怪現象と認定され『魔獣モンスターボール現象』と名付けられたのだが──その怪現象が解明されることは多分無い。




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 リスト『異世界でやってみたい50のこと』

 

 達成可能(3)

 ★装備を整えて、それっぽくしてみたい

 ★討伐をやってみたい

 ★異世界ならではの店をまわりたい


 未達成(32)

 

 達成済み(15)--新規(1)・確認済み(14)

 ★チートでわぁっと言われたい

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 夜リストを再確認してみると、『★チートでわぁっと言われたい』が達成になっていた。


 魔獣に囲まれてから夜までで何がチート?と思ったが、心当たりがひとつある。──結界だ。

 失念していたが、異世界ファンタジーで『鑑定』がレアな設定はよくある。が、結界とか障壁的な魔法は比較的ポピュラーな魔法だと思っていた。しかし、この世界ではチート魔法なのかも知れない。

 でも、そうだとしても何故達成?と考えていると、不意に凄く嫌なものを見たようなレグルスの「う、ぅ・・・・・・」という声を思い出した。


 まさか──。



 ファンタジーの主人公がみんなの前で凄い魔法を使って驚かれる、アレがやりたかったのだ。


 ドヤりたかったのに・・・


「あんなんじゃヤダ・・・思ってたんと違う・・・」


 その日、私はレグルスをちょっと恨みながら、枕を濡らして眠りについた。

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