熱砂のブレイン!~知識チートで砂漠に楽園を築こう!~

シマセイ

第1話 爆発からの砂漠!~科学オタク、異世界に放り出される~

俺は日本のどこにでもいる、科学が大好きな高校生、隼人(はやと)だ。


俺は物心ついた頃から、この世界の仕組みを知るのが何よりも好きだった。

特に古代文明の、あの未解明な部分に残されたロマンに心惹かれていて、中でもピラミッドとか象形文字とか、あの独特の雰囲気を放つエジプト文明には目がなかった。


もちろん、ただ歴史が好きなだけじゃない。教科書に載っていることだけじゃ満足できなくて、科学の目で「あれってどうなってたんだろう?」って考えるのが最高に楽しいんだ。


俺の自室は、まさにその探究心の塊みたいなもんだ。机の上には分厚い古代史や科学の本が山積みで、棚には通販で怪しげなルートから入手した薬品や、ジャンク屋で拾ってきた謎の部品で作った実験器具が所狭しと並んでいる。

家族には「理科準備室か!」ってよく突っ込まれるけど、これが俺の秘密基地だ。


ある日の放課後、学校から帰って自室に籠もっていた俺は、いつものようにゴロゴロしながらオカルト雑誌を読んでいた。

別にオカルトそのものを信じているわけじゃない。ただ、科学では説明できない現象に、科学でどこまで迫れるか、っていうのが面白いんだ。


その雑誌に載っていた記事が、俺のアンテナにビビっと引っかかった。


『驚異!ピラミッドパワー発生装置の秘密!』


「ピラミッドパワー?胡散臭っ!」


そう思いながらも、そこに描かれた怪しげな回路図に目が釘付けになった。水晶玉を置いて、特定の金属を配置して、微弱な電流を流すと、ピラミッドと同じ形状の空間に不思議なエネルギーが発生する…らしい。


「ふむ、これは完全にオカルトだけど…待てよ?」


科学オタクの脳みそがフル回転を始める。


「ピラミッドの形って、特定の周波数を集めやすいっていう研究もあったよな…水晶は圧電効果があるし…金属の配置も、もしかしたら電磁波に関係する何かだったりして…」


根拠は皆無だ。単なる思いつきと、強引なこじつけ。でも、それが科学オタクのロマンってもんだ!


「よし、やってみよう!」


誰に頼まれたわけでもない、危険かもしれない。だけど、この探究心を止めることはできない!


俺は立ち上がり、部屋中のガラクタ…いや、研究材料を引っ張り出した。近所のホームセンターで買ってきた普通の銅線やアルミホイル、どこかのイベントで貰った安い水晶もどき、それにジャンク部品のコイルなんかを組み合わせて、雑誌の図を参考にしながら、それっぽい装置を組み上げた。


完成したソレは、正直言って、小学生の夏休みの工作レベル。

どう見てもゴミの塊にしか見えない。

でも、俺の目には、未知の扉を開く可能性を秘めた、壮大な実験装置に見えていた。


「さあ、古代エジプトの神秘と現代科学のフュージョンだ!」


完全にテンションが上がっていた。科学者は、ちょっとくらい中二病な方が面白い実験ができるってもんだ。


俺は半信半疑ながらも、装置に繋がった電源コードを、壁のコンセントに差し込んだ。


次の瞬間。


――パチチチチチチ!


部屋中の電気が消え、装置から激しい火花が散った。不気味な高周波の音が響き渡る。


――バチバチバチ!


火花は青白い光を放ちながら大きくなり、装置全体を包み込んだ。焼け付くようなオゾン臭が部屋に充満する。


「う、うわぁあああ!ショートか!?いや、それにしては光が強すぎる!」


やばい!と直感した時には遅かった。


――ドォォォォン!


部屋が爆発したかのような轟音と、全身を吹き飛ばす強烈な衝撃波。

視界が真っ白になり、耳鳴りがキーンと響いた後、俺の意識はあっけなくプツン、と途切れた。


どれくらい時間が経ったのか、全く分からない。


次に俺が意識を取り戻した時、全身が熱く、眩しい光が瞼の裏側を焼いていた。


重い体を起こすと、目に飛び込んできたのは、どこまでも広がるオレンジ色の砂漠だった。


頭上には、日本の太陽とは比べ物にならないほど、巨大で灼熱の太陽が容赦なく照りつけている。


肌には、水分を根こそぎ奪っていくような、乾いた熱風が容赦なくまとわりつく。


足元には、熱気を帯びたサラサラとした細かい砂が、果てしなく広がっていた。


「…え?…何ここ?」


呆然と立ち尽くす。見慣れた天井も、実験器具だらけの自室の壁も、どこにもない。

あるのは、地平線の彼方まで続く砂の海と、遠くの方に霞んで見える、奇妙な形の岩山のようなものだけだ。


もしかして…死んだのか?爆発に巻き込まれて?


いや、全身が痛い。そして、喉がカラカラだ。死んだら痛みなんて感じないだろう。


頬を思いっきりつねってみる。


「いっっったぁあ!」


本物の痛みだ。つまり、俺は生きている。


だが、ここが日本じゃないことだけは、バカな俺でも理解できた。


周囲を見回すと、サボテンに似ているけれど、もっと巨大で、凶悪なトゲがぎっしり生えた植物が生えている。


そして、もっと信じられない光景が目に飛び込んできた。


遠くの方で、トカゲのような姿をしているのに、明らかに二本足で立ち上がって、地面を啄ばんでいる生き物がいる。

しかも、時々「ケェエエ!」みたいな奇妙な鳴き声を上げている。


「うそだろ…ジュラシックパークか?いや、恐竜図鑑にもこんな奴いなかったぞ…」


現実逃避したくなるような光景だった。


SF漫画やライトノベルで何度も読んだ、あの展開。まさか、自分がそれに巻き込まれるなんて。


異世界転移。


「マジかよ…ホントにありやがったのか…」


科学オタクとしては、未知の世界に対する好奇心が刺激されまくる。

この世界の物理法則はどうなっている?生態系は?どんなテクノロジーがあるんだ?


だが、それ以上に、途方もない不安と恐怖が津波のように押し寄せてきた。


言葉が通じるのか?水は?食料は?ここに文明はあるのか?それとも、見渡す限りの砂漠で、一人野垂れ死ぬのか?


「とりあえず…この暑さ…死ぬ…」


思考停止しかけた脳みそが、本能的な危険を察知した。このままでは、日射病か脱水症状で本当にヤバい。


「日陰だ!どこかに日陰を探さないと!」


焼け付くような砂の上を、隼人はフラフラと歩き始めた。遠くに見える岩山を目指そうとしたが、一歩進むごとに体力が奪われる。

足裏は熱い砂で火傷しそうだ。


どれくらい歩いただろうか。体感では永遠にも感じられた。


喉は完全に干上がり、声も出ない。視界が歪み始め、幻覚が見え始めたその時、砂漠の彼方に、小さな黒い点がいくつか見えてきた。


目を凝らす。それは、いくつか小さな建物が集まった、集落のように見えた。


「ッ…集落…!」


希望の光だ!死ぬかもしれないと思っていた矢先に、まさか人が住んでいる場所が見えるなんて!


隼人は最後の力を振り絞って、その集落らしき場所へと向かった。足は砂に埋もれ、肺が張り裂けそうなくらい息が苦しい。

何度も倒れそうになりながら、それでも前に進んだ。


そして、ついに集落に辿り着いた。


しかし、そこで俺を待っていたのは、またしても想像を遥かに超えた光景だった。


村にいた人々は、肌の色が褐色で、目が大きく、日本人とは全く違う顔立ちをしていた。

彼らは、日本の着物や洋服とはまるで違う、ゆったりとした布を体に巻き付けたような、どこか古代エジプトの壁画に出てくるような装束を身につけている。

頭には金色の装飾品や、羽根飾りなどをつけている人もいる。


ロバに似た動物に乗って悠然と歩く男や、頭に大きな壺を乗せて、優雅に歩く女が行き交っている。広場のような場所は市場になっていて、見たこともないような色鮮やかな果物や、鼻腔をくすぐる不思議な香りを放つ香辛料が、所狭しと並べられている。


(な、なんだここ!?完全に教科書で見た、あの古代エジプトの世界じゃないか!!)


あまりの光景に、俺は立ち尽くした。彼らの話す言葉は、全く理解できなかった。

喧騒の中に飛び交う言葉の全てが、聞いたことのない、異質な響きだった。


「あの…すいません…水…水、ください…!」


俺は乾ききった喉で、精一杯日本語で話しかけ、ジェスチャーで水を飲む仕草をしてみた。


しかし、村人たちは、俺の汚れた学生服という奇妙な身なりと、拙いジェスチャーに戸惑うばかりだ。

怪訝な顔をされたり、警戒したように距離を取られたり。中には子供が指をさして笑う声も聞こえる。


言葉が通じないというのは、想像していた以上に、絶望的な状況だった。

完全にアウェーだ。サバイバル知識ゼロの科学オタクが、いきなり異世界に放り出されて、最初から詰んだか…?


途方に暮れて、砂漠の真ん中で立ち尽くしていた隼人に、一人の老人がゆっくりと近づいてきた。


村人たちと同じような白いゆったりとした衣装を着ているが、その顔には深い皺が刻まれ、穏やかながらも、知的な光を宿した瞳は、どこか威厳を感じさせた。


老人は隼人をじっと見つめ、何か言葉を発した。低く、落ち着いた声だった。


「…………(全く分からん…!)」


隼人には、その言葉の意味は全く分からなかった。


「えっと…水…ウォーター…アクア…」


思いつく限りの水の単語を言ってみるが、老人は首を横に振る。


言葉が通じないと悟った老人は、諦めなかった。近くの地面に、指で何か絵を描き始めた。


それは、丸い太陽と、三日月、そして、無数の小さな点の集まり、つまり星の絵だった。


それを見た瞬間、隼人の科学オタクの脳に電流が走った。


(天文…学…!?この世界にも、星を見る文化があるのか!)


日本の理科の授業で習った、地球の自転と公転、星座の名前、惑星のことなどが、頭の中に蘇る。


隼人は、老人の隣にしゃがみ込み、同じように地面に絵を描いた。地球が太陽の周りを回る簡単な図。そして、冬の夜空を彩る、あの馴染み深いオリオン座のスケッチ。


老人の顔が、明らかに驚きに変わった。目は大きく見開かれ、彼は隼人が描いた星の絵を指差し、何か興奮したように言葉を発した。


「…………(まさか!この旅人は我々と同じように星の運行を知っているのか!?いや、これは我々の知っているものとは少し違う…!)」


言葉は通じなくても、空に輝く星々、そして宇宙の法則は、この世界でも共通だった!


その事実に、隼人は言葉にできないほどの感動を覚えた。科学は、言葉や文化、そして世界そのものを超える共通言語になり得るのだ!


老人は立ち上がり、隼人の手を優しく取った。その手は、温かく、力強かった。


そして、自分の質素な家へと連れて行ってくれた。


そこで出されたのは、あの紫色の果実と、お茶のような匂いのする、温かい液体だった。

警戒しながらも、砂漠で干からびそうだった喉は、その誘惑に勝てない。

恐る恐る液体を一口飲むと、ほんのりと甘く、乾いた体に染み渡るように美味しかった。


老人は、身振り手振りで、隼人がどこから来たのか、何者なのかを熱心に尋ねているようだった。


隼人も、実験の爆発に巻き込まれてここに飛ばされたこと、元の世界では「サイエンス」というものを研究していた、ただの高校生であることを、拙いジェスチャーで必死に伝えようとした。


もちろん、すぐに全てが伝わるわけがない。宇宙船に乗ってきたのか?神に遣わされたのか?魔法使いなのか?老人の表情からは、様々な推測が読み取れた。


老人は何度も首を傾げ、理解できないという表情を浮かべながらも、根気強く隼人の話に耳を傾け、時折、自分の言葉をゆっくりと繰り返して聞かせた。


そのおかげで、いくつかの単語が、隼人の頭の中で、まるでパズルのピースのように繋がり始めた。


「…星…」「…違う…世界…」「…マホウ…?」


どうやら、老人は隼人の話と、彼の描いた星の図から、彼が星の彼方、自分たちの知らない別の世界から来たのではないかと推測し、そして、ここにやって来た現象には何か「マホウ」のような力が働いたのではないかと考えているようだった。


その夜、老人は隼人のために、家の隅に粗末な敷物と毛布を用意してくれた。

固い土間のような床に薄い敷物一枚だけだったけれど、昼間の砂漠で野宿することを思えば、まさに天国だった。


言葉の通じない異世界での初めての夜。巨大な怪物や、魔法、そして故郷への不安。

様々な思いが頭の中を駆け巡る。

だが、老人の温かさと、日中の疲労から、隼人はすぐに深い眠りに落ちた。


翌朝、隼人が目を覚ますと、朝日が差し込む部屋で、アメン老人がすでに起きて作業をしていた。


それは、昨日隼人が地面に描いた星の図を、丁寧に木の板に彫り込んでいるものだった。

隼人が書き添えたオリオン座の簡単な注釈のようなものまで、忠実に再現されている。

アメンはそれに満足そうに微笑んだ。


そして、今度は別の絵を描き始めた。この世界の太陽や月、そして、隼人には見慣れない、独特な形をした星座の絵だった。


(この世界にも、独自の、しかもかなり高度な天文学があるんだ…!すごい!)


隼人は興奮を隠せない。異なる世界で、同じように宇宙の真理を探究している人々がいる。

科学への探求心は、言葉も文化も、世界そのものすら超える普遍的なものなのだ。


アメンは、自分の名前が「アメン」であること、そして、この村の名前が「セネト」であることを、ゆっくりとした言葉とジェスチャーで教えてくれた。


隼人も、自分の名前を伝えると、アメンは優しく微笑んだ。

言葉はまだほとんど理解できないけれど、二人の間には確かに、言葉を超えた温かい繋がりが生まれ始めていた。


アメンは、隼人の手を引き、村人たちが集まる広場へと連れて行った。

最初は変わった格好の隼人を警戒していた村人たちも、アメンの穏やかな説明と、隼人の明るく人懐っこい笑顔に、次第に心を開き始めた。子供たちが物珍しそうに隼人の学生服に触れてきたりもした。


隼人は、彼らの日々の生活を観察した。

井戸から水を汲むのは重労働だし、道具もシンプルだ。衛生概念も、日本の感覚からするとかなり低いかもしれない。


(俺の持ってる科学の知識、この世界で役に立つんじゃないか…?)


中学校の理科で習った、簡単な滑車の原理を応用すれば、井戸から水を汲み上げるのがもっと楽になる。

石鹸がなくても、アルカリ性の灰を使えば汚れは落ちやすくなるはずだ。

食べ物を塩漬けにしたり乾燥させたりすれば、腐敗を遅らせることができる。


自分が持つ「科学」という知識が、この異世界で生きていくための、そして、いつか故郷に帰るための大きな武器になることを、隼人ははっきりと確信した。


セネト村での生活は、決して快適ではなかったけれど、隼人にとっては毎日が新しい発見の連続だった。

奇妙な植物や動物、彼らが信仰する神々、独自の習慣、文化…科学オタクの好奇心は常に刺激されっぱなしだった。


そんな穏やかな日々が続いていたある日、村に不穏な噂が流れ始めた。


近くの砂漠に、巨大で恐ろしい魔物が現れ、旅人や家畜を襲っているというのだ。


村人たちの顔から笑顔が消え、広場の活気も失われていく。

外出する人もほとんどいなくなった。


「魔物…?」


隼人はその言葉に引っかかりを覚えた。

本当に魔法で生まれた存在なのか?それとも、単にこの世界に生息する、未発見の大型生物なのか?


科学オタクの探究心が、恐怖よりも強く頭をもたげてきた。


「アメンさん…その魔物って…どんなやつなんです?」


隼人は、アメンに身振り手振りで、できるだけ詳しく尋ねた。


アメンは困ったような、そして恐ろしいものを見るような表情で、地面に絵を描いて見せた。大きな牙を持ち、全身が黒い鱗に覆われた、巨大なトカゲのような生き物だ。


「うーん…なるほど…」


隼人は腕を組んで考え込んだ。

確かに恐ろしげだが、爬虫類…つまり生物として科学的に分析できる可能性が高い。

もしそうなら、恐怖するだけでなく、対処法を見つけられるかもしれない。


危険かもしれない。

だが、隼人はその魔物の正体を自分の目で確かめたい、という強い衝動に駆られた。

異世界に飛ばされてきてから、ただ助けられるのを待っているだけでは何も変わらない。


自分の持てる唯一の武器、科学の知識を最大限に活かして、この世界で生きていく。

そして、いつか必ず、元の世界に帰る方法を見つけ出す。それが、今の隼人にできる唯一のことだった。


夜、隼人はアメンに、魔物の目撃情報があった場所まで案内してほしいと、真剣な眼差しで頼んだ。


アメンは、隼人の無謀とも思える提案に、最初は驚きと反対の表情を浮かべたが、彼の瞳の奥にある、決して諦めない強い決意を感じ取り、やがて、心苦しそうに頷いてくれた。


満月が砂漠を白銀色に照らす中、科学オタクの高校生と、異世界の老人は、静かにセネト村を後にした。

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