双子が楽しんでるラブコメ

+プッチ

見分けられる男

 放課後の教室。 俺は椅子から立ち上がって、軽く背伸びをした。腕を上げながらあくびをひとつ。 委員会も終わったし、さて帰るかーと思ったそのとき。


 ガラッ。


 ドアが開く音と同時に、誰かが入ってきた。

 見覚えのある顔。リボンはついているが…。たぶん──渚。


「あ、高坂くん」


「ん、渚か。どうした?」


 俺がそう返した瞬間。


 再びドアが開いた。


 同じ顔。今度はリボンなし。

 表情も動きも全く同じ。双子、風間蒼空。


「確認完了」「反応よし」


 二人はぴたりと並び、ニヤリと笑う。


「ありがと、高坂くん」「じゃ、今日はもう帰るね」


 ……え? 今の何!? 何のテスト!? 呼び名で反応見てたの!?

 俺、なに勝手に仕掛けられてるの!?


 いや帰るんかい!!


 風間渚と風間蒼空。双子。

 見た目だけじゃなくて、喋り方も癖も趣味も、私服も──。

 区別がつくのは名前とクラスだけ。

 先生に言われて、蒼空のほうだけリボンをつけてるけど……

 まあ、入れ替わられたら意味ない。

 実際、今つけてたのが渚。つけてないのが蒼空。

 完全に入れ替わってる。


 いや、マジで普通の人間には判別不能。

 ……なのに、俺は分かってしまう。


 俺はため息まじりに椅子に座った。


(あんなに同じなのに、なんで分かるんだろうな……)


◇◇

 

 図書委員になってすぐ、最初の顔合わせがあった。

 放課後、図書室の片隅で、簡単な説明と自己紹介。


「風間渚です。リボンつけてるほうです」

「風間蒼空です。つけてないほうです」


 二人は並んで立ち、順番に名乗った。


 双子、らしい。

 いや、らしいっていうか──見た目そのまんま双子だった。背格好も、表情も話し方もそっくり。


(うわ、本当にそっくり……ていうか、見分けられる気がしない)


 こっちが渚で、こっちが蒼空ね。一応覚えた、つもりだった。


 で──日曜日。


 駅前の本屋で立ち読みしてたら、視界の端に動く影。

 そっちを振り返った瞬間、視界に映ったのは、あの双子。


 制服じゃない。髪型もまったく同じ。目印のリボンもどちらもしていない。


 服も靴も、バッグのチャームまで完全一致。


(え、マジかよ……私服でもこれ……?)


 しかも、向こうは向こうで自然に声をかけてきた。


「昨日の高坂くんだ」

「ほんとだ」


 こっちは咄嗟に名前を呼んでた。


「渚と…そっちが蒼空だっけ。偶然だな」


 二人は「え?」って顔をして──そして、笑った。


 その翌日の放課後、またまた双子と遭遇。


「あ、昨日ぶり!」 「よく会うね!」


 じろじろ見るのも失礼だが、俺は何か違和感を感じた。


「あれ、確かリボンつけてる方が、渚じゃなかったか?なんで入れ替わってるんだ?」


「本物だ!」「本物だ!」


 二人はまったく同じタイミングで同じことを言い、ぴたりと顔を見合わせてから、再びこちらに視線を向けてきた。


「高坂くん、私たちがたまに入れ替わってること、秘密にしてもらえないかな?」

「高坂くん、私たちのこと……どうやってかわからないけど、見分けてるでしょ?」


「いや、見分けるっつーか、ただの勘だが……」


「えー嘘くさーい」 「えー嘘くさーい」


「まぁ、とにかく誰にも言わねーよ」


『ありがとう!』


 二人は同時にすっと寄ってきて、俺の左右に並ぶように立った。

 ぴたりと挟まれる形で礼を言われて──なんというか、逃げ場がなかった。


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