ダンジョンでモンスターの卵を食べたら強くなるらしいけど、なんもやる気が起こらん。食う気はあるけど。

甘照

第1話 スキル名は『エッグイータ―』

「ヒナ~! 今日の放課後ダンジョン行かない?」


「行かない。寝る」


「じゃあ授業終わったら正門で待ってるからね~!!」


「………」


 返答を一切聞かずに、ミツミは教室から元気よく飛び出していった。

 残されたヒナコは机に突っ伏して、溜め息を吐いた。


「ダンジョンとか……めんどいなぁ」




 今時、お昼休みのJKが会話の中で『ダンジョン』と言う単語を出すのも珍しくない。


 数十年前、何の脈絡もなく突如として世界中に出現したダンジョンは、当時の人類に大混乱をもたらしたのだが、そんなものはもう昔の話。

 近年では最早、生活の中心にダンジョンがあると言っても過言ではないほど人々の暮らしに馴染み、日々多くの人が気軽にダンジョンへ出入りしている。



 授業が終わり、ヒナコが靴を履き替えて帰ろうとすると、正門にミツミが待ち構えていた。


「あ! 来た来た! それじゃあ早速れっつごー! 目指すは国内最大級の中央ダンジョン!」


「行かないと言ったが」


「ほらほら、早く行かないと日が暮れるってー!」


「ぐぇっ」


 渋るヒナコの首根っこを掴み、そのままミツミは中央ダンジョンの入り口まで引っ張って行った。




「到着ー! さっすが中央ダンジョン! 平日のこんな時間でも混みこみだね~」


「うぷっ。人酔いする」


「よーし、早速ダンジョン協会へ行こー!」


 ヒナコたちの通っている高校から電車で1時間ちょっと、都心のど真ん中に構えているのは、国内最大規模の中央ダンジョン。

 上層の一部が年齢やライセンスの制限なしに入れる安全地帯として国家認定されており、中央ダンジョン特有の広大な土地を活かした娯楽施設や商業施設などが充実した大型複合施設となっているため、いつ来てもこの辺りは人が多い。


 入り口を通れば受付があり、そこで簡単な手続きをすればすぐに入ることができる。

 その先には建物が立ち並び、施設も人も充実していて、ある程度来慣れていないと簡単に迷う。 


「こっちこっち」


 ミツミはヒナコの手を引いて、器用に人混みをすり抜けていく。

 そして辿り着いたのはダンジョン協会本部。


「やっと着いたよー! ここで色々手続きをしたら、ダンジョン配信が出来るようになるんだってさ! 柏原かしわはらダークネスが配信で言ってた!」


「誰だよ」


「とにかく行くよ! 目指せ! チャンネル登録者数1千万人の大人気ダンジョン配信者! 稼げ! 広告収入と素材換金で億万長者!!」


「目指さないが」


「頼もー!!」


 ミツミはダンジョン協会の扉を勢いよく開け放った。


「中央ダンジョン安全地帯外へ立ち入るためのライセンスをお求めの方は、こちらに並んでくださいねー」


「ヒナ! ライセンスはあっちの列だってさ!」


「ぐぇっ」


 再びヒナコの首根っこを掴んだミツミは、ライセンス入手のため列に並ぶ。

 列にはかなりの人が並んでいたが、敏腕な受付嬢によってスムーズに消化されていく。

 ほんの20分程度で順番が回って来た。


「―――では、次の方どうぞ」


「はい! 私は桃山ももやまミツミです! そんでこっちの子は甘栗あまぐりヒナコ! 大人気ダンジョン配信者になります!」


「えっと、はい、がんばってくださいね。その前に、身分証明書の提出をお願いします」


「身分証明書ですね! 学生証でいいですか?」


「構いませんよ」


「ヒナ! 学生証出して!」


「えー」


 ダンジョン配信者になる気なんて微塵もなかったヒナコだったが、ミツミのキラキラした目に見られるのがウザくて、渋々学生証をバッグから取り出す。

 それをミツミはスパッと取り上げ、自分のと合わせて受付に提出。


「はい、確かに。ライセンスを作るのは初めてでしょうか?」


「初めてです!」


「でしたら、まずはスキルチェックからになります。こちらの書類に記入していただけたら、あちらの通路を真っ直ぐ進むとスキル鑑別窓口がございますので、そこにあるオレンジのBOXに書類を入れてください」


 受付嬢はそう言って、色々書かれた書類の二枚をミツミに渡した。


「わかりました! ありがとうございます! お仕事お疲れ様です!」


「はい。ありがとうございます」


 受付嬢に手を振って、ミツミたちは近くのソファに移動した。


「はいこれ、ヒナの分」


「うぇー」


 渡された書類にはチェック項目がずらりと並んでいて、ヒナコはあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。


「……ミツミ、代わりに書いて」


「いいよー! 待ってな。2分で片付けるぜ!」


 15分後。

 スキル鑑別窓口に書類を提出した二人は、近くの腰掛けに座って、ミツミが持ってきたはちみつ飴を舐めていた。


『32番と33番の方ー。2番鑑別室までお越しくださーい』


 アナウンスがかかる。


「あっ、私たちだよ! 2番鑑別室だってさ!」


「立つのめんどくさい」


「早く行かないと、職員の人待たせちゃうよー」


「うわー」


 ミツミの手によって、鑑別室の中へと引っ張られるヒナコ。

 鑑別室に入ると、眼鏡をかけた美人な職員が、足を椅子の上に組んで待っていた。


「いらっしゃーい。番号札もらえる?」


「はーい!」


「はいどーも。えーと、黒髪の仏頂面なのが甘栗ヒナコちゃんで、ピンク髪のあなたが桃山ミツミちゃんね。私は小豆あずきアン、よろしくね。じゃあ早速、この機械に手、入れられる?」


「わかりましたー! ヒナ、わくわくするね!」


 スキルチェックは大抵、病院にありがちな上腕式血圧測定器の異世界版みたいな見た目をしている機械によって行われる。

 手を突っ込むと装置の袋状の部分が膨らみ、腕を圧迫して細胞をスキャンすることで、99%の精度で発現したスキルを調べることができる。


「手入れたら、そのままストップ」


 しばらくしてから、プシューと空気の抜ける音と共に圧迫から解放される。


「はい、手出していいよー。えーと、それじゃあ結果が出たから、まずはミツミちゃんからどんなスキルが発現してるのか発表するね」


「やったー!」


「ミツミちゃんのスキルは『フレイムストリングス』。いわゆる属性スキルね」


「ふれいむすとりんぐす? 属性スキルってなんですか?」


「属性スキルって言うのは、火、水、風とか、わかりやすい自然の性質を持つスキルのことよ。それで言うと、ミツミちゃんのは『フレイム』って付いてるから火。指から火の糸を出すことができるわ」


「へー! すごいすごい! めっちゃ強そう!」


「そうね。属性スキルって言うのは発現割合が高くて、特化型のスキルよりも汎用性重視の傾向があってあんまり強くないって言われてるけど、極めたらちゃんと強いし、教材も多いから、悪くないスキルだと思うわ」


「へー! そうなんですねー!」


「それで次はヒナコちゃんのスキルなんだけど……こ、これはっ!!」


「え!? なんですか!?」


「スキル名は『エッグイーター』。いわゆる飲食系スキル。あんまり発現例を見ない、レアスキルよ」

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