第9話 サボってた神様から選択肢を与えられた

 う~む……神々に囲まれながら話し合いを始められると何も言えなくなるな。


「ひとしや、ひとしは今後はどう過ごしていきたいんじゃ?」

「どうって……手違いで異世界転移させられて、ダンジョンで人生観を見つめ直させられてるけど、これといって俺に変化は起きてないからな。これからのことを聞かれても正直言って困る」

「ふ、ふがふが」

「また入れ歯が外れたのかよ。ほら、じいさん目の前に落ちてるぞ」


 ぜうすじいさんはなぜか俺を可愛がってくれている神だが、元はといえばこのじいさんの手違いから俺の異世界生活が始まっているだけに、怒りたくても怒れない状況が続いている。


「おぉ、すまんのぅ」


 じいさんだけが仕事をサボっているのかと思えば、みこ様……この少女も同じくらいサボり魔、いやサボり神だ。


「ひとしに言い忘れてたことがある。どうしてもというなら聞かせるけど、聞く?」

「……サボってたことがあるんだろ? 怒らないから……いや、怒っても俺にはどうにも出来ないから言ってみてくれ」

「実はひとしを異世界に転移させたあと、本当は冒険者になるという選択肢があった」

「……だろうな」


 だから強制的にダンジョンに落としたり行かせたりしてただろうし。


「それから、実は異世界に来た代わりに若返って学園生活を送る予定だった」

「今より若くなって学園生か! それも悪くなかったな」

「それと――」


 じいさんのサボり具合が一番悪いと思っていたが、実はみこ様か?


「おいおい、みこ様もかなりサボってたんじゃないか! で、他には?」

「ひとしのままで魔王になるか、勇者になるかを選べた」


 ……転生しないままで魔王とか勇者になれたのか。どっちも微妙だな。たとえば魔王を選んだとしたら、神の加護をどれくらい受けることが出来たのか。


 こういう場合、勇者の方が数え切れないくらいの加護を受けて世界を救っていたんだろうけどな。


「なるほど。で、サボったうちのどれかを選べたりするのか?」


 このままこのアパートで暮らしながらだったら、勇者一択だろ。


「……ん。ひとしが選べるのは、冒険者に転職してどこかの町で暮らしながら生きていく。もう一つは、異世界学園に入学して学生になる……どっちがいい?」

「魔王と勇者は選択できないのかよ!」

「うん、無理。もう他の転生者に権利が渡ったから絶対に無理」


 あれって権利だったのか。


 転生じゃなくて転移したばかりに魔王も勇者もなれない人生とか、ハード過ぎる。


「どっちがおすすめなんだ?」


 戦えないけどダンジョンには慣れたし、冒険者になればノウハウを持ちながら攻略が可能そうだが。


「もし冒険者になるなら、アパートから出てもらうから初めからやり直し。ここで見たこと、得たこと、私たち神の加護も一切受けられない。それでもいいなら……」

「全然よくねーーー!!」


 選択肢なんて存在しなかった。


 神のサボりの罪滅ぼしが選択権なしとか、このままここでダンジョン暮らししながなんて、あまりに無情すぎる仕打ちじゃないか。


「神の加護を目いっぱい受けながら生きていく! 俺の選択肢はそれだ!」

「……それでいいなら、ひとしの願いを叶える。その代わり――」

「まだなんかあるのか?」


 姐御はただの一度も発言しないで無言を貫いているが、夢を見させる神だからこのまま大人しくしてもらう方が俺にとっては好都合だ。


 じいさんはみこ様の言葉をただただ頷いてみせているだけで、特に何かを言うつもりはないみたいだな。


「私たちを家族だと思って、一緒に暮らしながら学園に通ってほしい」


 ……家族?


 そういや、何度かそういう態度をみせてきたが、あれは俺への同情心じゃなかったのか。


「なぜ? みこ様は神だろ? 家族って言ったって、本当の家族なんかには……」

「偽でもいいし、家族っぽくてもいい。それだけでいいから、だから――」


 神という立場上、もしかしたら誰か特定の奴に寄りそうことが禁じられていたんだろうが、それにしたって何で今さら。


「俺が学園に通うことが条件なんだろ? しかも、このままで」

「……ううん、ちゃんと若返らせる。それが私たちの……」

「うう~ん。でもなぁ」


 要するに、神なりの罪滅ぼしというやつってわけだ。


「若返った状態で現代へ帰りたいのなら、ひとしを帰してもいいんじゃよ?」

「それって、高校生くらいに若返って現代に帰るって意味?」

「そうじゃな……じゃが、時間が戻るわけじゃないんじゃ。つまり……」


 俺の家族が生き返るわけじゃないって意味か。加護をもらってもぼっち高校生の状態でどうするって話になるし、金持ちになるわけじゃなさそうだし微妙だな。


「それか、あたしが夢の中に閉じ込めて出られなくすることも出来るぜ?」

「いや、それはちょっと……」


 神さまに養われてるし、今さら夢の中に行ってもどうしようもない。そうなると、神たちを家族として扱いながら――今でも少しだけそんな風に思ってはいたが。


 夢神の姐御さえいなければ別にそれでもいいような気もするが。

 

「分かった。若返って学園に通う。俺が俺のままならな」

「うん。ありがとう、ひとし」

「おぉ~……よかったのぅ、みこ」


 ううむ、このままこのアパートでダンジョン生活でも良かったんだが、神の都合もあるのかもしれないな。


「へっ、あたしは家族はごめんだ。あとは爺とみこととよく話し合いをしな!」


 そう言うと、オネイロスはどこかに消えてしまった。


「さて、ひとし。ちっとだけ名前を変えてもいいかの?」

「若返って学園生になるんだろ? しかも異世界の。だったら、好きなように変えてくれ」

「うむうむ……ちょっと変えるだけじゃからの」


 異世界人っぽい名前で期待しておこう。


「ちなみに、ここで暮らすのは継続だけどいい?」

「学園がとんでもなく遠いなら引越しを希望するが、そうじゃないならここでいい」

「大丈夫。近所だから……じゃあ、お兄ちゃん。少しだけ眠ってね……目が覚めたら、そこから始まる……から」

「分かった。じゃあ、おやすみ。みこ、それとじいちゃん…………」


 サボりすぎた神の願いは俺と家族になる――だったが、加護を貰いながら学園世活を送れるんならそれはそれで悪くないかもしれない。

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